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ヨルシカの「だから僕は音楽を辞めた」にみるポスト青春の葛藤と「君」と音楽

この曲が売れるほど、みんなの感性は豊かになったのかなあと思った。ヨルシカのだから僕は音楽を辞めたという曲だ。

透明感のあるピアノや、余計な音が一つも入っていないんじゃないかと感じるくらいに洗練された音色と全体構成からは、そんなに反逆的な感情は読み取れないかもしれない。しかし、歌詞はその逆といっていいだろう。ここでは歌詞に焦点を絞ってみる。

ポスト青春の葛藤

考えたってわからないし
青空の下、君を待った
風が吹いた正午、昼下がりを抜け出す想像
ねぇ、これからどうなるんだろうね
進め方教わらないんだよ
君の目を見た 何も言えず僕は歩いた
(省略)
心の中に一つ線を引いても
どうしても消えなかった
今更なんだから なぁ、もう思い出すな

楽しかった青春が終わって、終わったことにスッキリしつつも、何かを青春の中に忘れてきてしまったような感覚。いわゆる「ポスト青春」の、正解探しがよく表現されていると思う。

間違ってるんだよ 
わかってないよ、あんたら人間も
本当も愛も世界も苦しさも人生も
どうでもいいよ
正しいかどうか知りたいのだって防衛本能だ
考えたんだ あんたのせいだ

音楽とか将来とか、押し寄せる不安に対して悩む歌詞上の主人公にとって、毎日ただ楽しそうに、または楽そうに人生を送っている他の人たちは、何にも悩みがない、人生について悩むことを放棄したバカに見えているのかもしれない。私たちには、そういうときがあると思う。時間が経つか、あるいは他人の悩みになると、軽く流せるけれど、自分が悩んでいるときは、本当に悩んでいるんだ。だからその悩みそのものに価値があると思わなければやっていけない。そういう声が聞こえた気がした。

人生と音楽

僕だって信念があった
今じゃ塵みたいな想いだ
何度でも君を書いた
売れることこそがどうでもよかったんだ
本当だ 本当なんだ 昔はそうだった

ヨルシカのこの曲では、「君」は歌詞の主人公にとって大切な存在であり、「君」といるための音楽で、「君」といることそのものが音楽だったといえるだろう。

だから僕は音楽を辞めた

だけどもう、大好きだった君と音楽を作ることはできない。だから、僕は音楽を辞めた。

こう考えるとしっくりくる。けれど、一つだけ引っかかることがある。それは、これは歌詞で、曲で、つまりめちゃめちゃ音楽だ。音楽なんてこれっぽっちもやめていない。

そこで、新たな解釈を加えるために、RADWIMPSのO&Oという曲の歌詞を読んでみてほしい。

これだったか僕が この世に生まれた意味は
これだったか僕が この世に生まれたわけは
晴れた空に君を唄えば 雲が形を変えていくよ誰がために花は咲くのだろう
信じるに足る足らないとかはもういいの
いいの

ここだけではわからないかもしれないが、「ずっと君と一緒にいることはできないけれど、音楽があれば、君のことをいつまでも歌えるよ」ということがこの曲で語られていると思う。

ヨルシカのこの曲が本当に伝えたかったのは、これではなかったのだろうか。もしそうだとしたら、一曲をまるまる使った壮大な皮肉ということになるが。

まとめ

人は1人でしか悩めないし、1人でしか死ねない。でも言葉があって、音楽があるから、だれかにその苦しさを、辛さを、楽しさを、素晴らしさを伝えることができるのだと思う。