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大阪の自転車利用環境を調べて考えてみた[長柄橋北詰編]

「大阪ってめちゃくちゃ自転車が多いけど、めちゃくちゃマナー悪いな〜」と思ったので、実際に交通量と交通マナーを調べてみました。
調べるうちに「マナーの悪さは、乗り手の問題よりも道路の構造が原因では…?」と思ったので、交差点の危険箇所や自転車の特性ついて考えてみました。


はじめに

大阪市内で自転車中心の暮らしを始めて約6年。
日々、大阪の自転車の多さは全国的トップレベルだなあ、と感じています。

大阪の中心地である梅田や難波でも至る所で多数の自転車を目にします。
土地柄なのか、よくおばちゃん・おばあさんに話しかけられるのですが、「⚫︎⚫︎(5km以上離れた場所)から自転車で来たわ〜」と言う70代の方もいれば、「毎日自転車に乗って買い物に来てるのよ〜」と笑顔で話す90歳近い方もいるなど、年齢を問わず市民の生活の足として自転車が馴染んでいます。

そんな自転車の多さと同時に、自転車のマナーの悪さも非常に目に付きます。
車道の逆走や無灯火、信号無視はもちろん、良い歳した男女の2人乗りなんかも頻繁に目にします。

そんなマナーの悪さは大阪に住み始めてすぐに気付き、「危ないし何でそんな走り方するのかなあ」と思っていたのですが、自分も毎日自転車で通勤するうちに「道路走りづらい……大阪の自転車のマナーの悪さは、道路にも原因があるのでは…?」と思うようになりました。

実際のところ、
・自転車はどれくらい多いのか、マナーの悪い自転車はどれだけいるのか
・自転車を危険に晒している要因は何なのか
・どんな道路構造だと自転車はどこを走るのか

を、通勤中に特に危険を感じる交差点の交通量を調べて考えてみました。

交通量を調べてみた

調査した場所

大阪市東淀川区にある「長柄橋(ながらばし)北詰交差点」の自転車の交通量を調べてみました。

ここは府道14号と16号が交差するT字路の交差点です。
自転車に乗ったまま淀川を渡ることができる数少ない橋「長柄橋」の北にあり、橋の周辺には多数のマンション・住宅が存在します。
長柄橋のすぐそばには鉄道橋もあり、鉄道で淀川を渡ることもできるのですが、ビジネス街の新大阪や梅田に行くには遠回りになる場合もあるため、毎日多くの人が鉄道ではなく自転車に乗ってこの橋を渡っています。

大阪市の「自転車活用推進計画」では、この交差点に繋がる府道14号16号どちらもが自転車ネットワーク路線に位置付けられていて、自転車通行空間の整備等を行うこととなっています。

交差点を模式的に表すとこんな感じです。
特殊な構造のため、少し細かく説明します。

交差点の南、長柄橋は東側だけ歩道が整備されています。
北行きの車道を自転車で走ることもできるのですが、途中で高架道路に分岐し、路肩も無く危ないため、自転車の通行はほとんどありません。

交差点の西は、北側だけ歩道が整備されていて、車道、歩道(斜路付き階段)、歩道(スロープ)の3つの経路で交差点にアプローチできます。
歩道(斜路付き階段)の幅員は1.5m、歩道(スロープ)の幅員は1.3m、斜度は10~22%で、どちらも自転車に乗ったまま通行するのは困難です。
南側に歩道はありませんが、交差点と長柄橋の構造上、そもそも自転車や歩行者が到達するのは難しく、実際に自転車・歩行者の通行はほとんどありません。

交差点の東は、交差点に向かって5.7%の上り坂になっており、南北両側に歩道があります。
北側の歩道は幅1.1mで両側を車道に挟まれており、坂を下りたところで押しボタン信号で車道を渡る必要があります。
南側の歩道は途中で寸断されており、スロープの無い歩道橋を渡って北側に出る必要があります。

調査の概要

交差点を1時間定点観測し、方向別の自転車の交通量を調べました。
カウントの際、走行位置(車道/歩道)も区別しています。

日時:2023年12月18日(月) 8:00〜9:00
対象:下図の青いエリアを出入りした自転車(押し歩きを含む)
調べた方向:下図の4方向(矢印の走行位置別)
※交差点の信号サイクル:150秒(2分30秒)

観測位置からの光景

調査の結果

横断歩道を渡る自転車の台数は下図のとおりでした。
通勤・通学の多い時間帯でしたが、横断歩道の北行と南行で同程度の交通量があります。
夕方も朝と同じ台数が通行していた場合、1日に少なくとも1260台以上の自転車の通行があると思われます。

方向別の交通量は下図のとおりでした。
南側→西側、北東側→南側、南側→北東側の順に交通量が多くなっています。

以下、方向別に走行位置の割合を見ていきます。

【南側】へ行く自転車は、9割以上となる326台が歩道を走行しています。

【南東側】から来る自転車は、8割以上が車道を走行しています。

【北東側】へ行く自転車は、8割以上となる99台が車道を走行しています。

【西側】へ行く自転車は約8割が歩道を走行していて、そのうちスロープと階段の利用割合はおよそ半分ずつになっています。
残りの約2割の40台の自転車が法令違反となる車道の逆走をしていました。

【西側】から来る自転車は、6割が歩道を走行しています。

交差点のどこが危ないのか

交差点内の交通実態が分かったところで、具体的に交差点内の危険な箇所を考えていきます。

交差点の西側から車道を走行して来た自転車は、先に信号待ちをしている歩道走行の自転車によって歩道に入れないため、交差点内で右折待ちをします。
その右折待ち中の自転車をクルマが追い越す際、十分な間隔が取れない道路構造になっており、追突の危険が非常に高くなっています。
1時間に36台、単純計算で信号1サイクル(150秒)ごとに1.5台の自転車がクルマと接触するリスクを抱えながら右折待ちをしています。

北東側の歩道は幅員が狭く、また、自転車が列を成して信号待ちをしているため、歩道上のすれ違いが困難になっています。
自転車が車道を走行した場合、坂を下り切った場所で車道を2車線横断する必要があり、左後方から坂を下りてきたクルマに追突される危険があります。
1時間に99台(単純計算で36秒に1台のペース)の自転車が車道を通行していて、非常に事故リスクの高い箇所と言えます。

南東側から来る自転車は、歩道に入ろうとした場合、坂のふもとで15cmの段差を上がる必要があります。
段差を避けて車道を走り続けた場合、5.7%の上り坂で失速するものの、十分な路肩が無く、後方からのクルマに追突される危険があります。
こちらも、1時間に72台(単純計算で50秒に1台のペース)もの自転車が事故リスクの高い状態にあります。

また、各方向で歩道や車道を走る自転車が入り乱れているため、横断歩道上で動線が交錯し、自転車同士や自転車と歩行者が接触する危険があります。
観測中にも多数の自転車が接触を避けるために急停車していました。

結局、ほとんどの方向で狭い空間に多数の自転車とクルマが混在していることが問題になっていました。

このように素人目に見ても危険だらけの交差点ですが、現地で確認できた交通管理者、道路管理者による自転車の安全対策は立て看板だけでした。

その内容は、法的な根拠も無く自転車に迂回を強いるものとなっています。
看板の文字の消え具合や描かれている道路構造の古さから、おそらく18年以上更新されていないものと思われ、自転車の安全対策はここしばらく行われていないものと推察されます。

自転車の特性を考えてみる

ここまで長柄橋北詰交差点特有の事象として、交通量と交差点の危険箇所について見てきました。
せっかくデータが集まったので、ここからは「どんな道路構造だと自転車はどこを走るのか」といった自転車の特性について考えてみます。

■自転車は基本的にクルマとの混在を避ける

交差点南側の自転車の走行位置の割合は、路肩の無い車道が1割未満だったのに対して、十分な幅員の歩道は9割を超えていました。
このことから、自転車はクルマと混在して走行することを避けたいのではないかと考えられます。

大阪市内では「車道混在タイプ」の自転車の通行空間(車道上に青い矢羽根をペイントして自転車の走行位置を明示しただけの自転車通行空間)を積極的に整備しています。
この結果を見る限り、車道混在タイプは自転車ユーザーにとって望ましい整備形態ではないのかもしれません。

■自転車は一時停止を避ける

自転車がクルマとの混在を避ける一方で、歩道上で一時停止せざるを得ない交差点北東側では、8割以上の自転車が車道を走行する結果となりました。
このことから、多くの自転車がクルマと混在するリスクを取ってでも一時停止を避けたいのではないかと考えられます。

■自転車は下車を避ける

また、歩道利用時に一度下車しなければならない交差点南東側でも、8割以上の自転車が車道を走行する結果となりました。

この場所は路肩が無いため、自転車と十分な距離を取らずに追い越すクルマが多数います。
また、5.7%ほどの上り坂のため自転車は遅いスピードで走るか、人によっては押し歩きをしています。
そのような環境でも8割の自転車がクルマとの混在を選んでいるということは、それだけ自転車ユーザーが下車に強い抵抗を感じているのだと推察されます。

■事故のリスクがあっても、法令違反をしてでも下車・一時停止を避けたい

自転車が下車と一時停止を避けようとすることが分かりましたが、それがどの程度強い欲求なのかもこの交差点で確認できます。
交差点西側では、下車・一時停止が必要な歩道と進行方向逆向きの車道がある中で、2割以上の自転車が車道の逆走を選びました。

もちろん、自転車ユーザーは車道の逆走が法令違反であることを認識しているはずです。
下車・一時停止は、2割以上の自転車ユーザーが法令違反をしてでも避けたい行為であることがこの結果から推察されます。

おわりに(雑談)

交通量も交通マナーの悪さも交差点の危険性も、実際に数字で見るととてもインパクトがありました。
特に、1時間に何百台もの自転車がクルマとの接触リスクが高い環境に晒されていること、そんな環境にも関わらず、長い間自転車の安全対策が取り組まれていない可能性が高いことは、1人の自転車ユーザーとしてやるせない気持ちになりました。

この交差点ではかつてクルマの渋滞対策のためにわざわざ高架橋まで造っているのに、何故、クルマに比べて事故時の死亡リスクが高い自転車に対しては何もしないのかな、と思います。

また、車道を逆走する自転車が1時間に40台(単純計算で1分半に1台)もいたのにも驚きました。
自転車やクルマを運転していて、1分半に1台のペースで正面から突っ込んでくる自転車を避けなければいけないなんて、マリオカートのようなアトラクション性があるなと思いました。
ミスしたら前科のつくゲーム、ハード過ぎる。

つい先日(2023年12月末)、自転車の交通違反の取り締まりを強化する報道が出ました。

警察庁はその背景として「自転車の悪質な交通違反が後を絶たない」状況に言及しています。
これはおそらく今回調べたような交通状況のことも指していて、今後は厳しい取り締まりが行われるのだろうと思います。

ただ、果たして、「悪質な自転車がいるから取り締まって、悪質な自転車を減らす」という話で終わらせてしまって良いのかな、と思います。

クルマに対しては、小回りが利かず、急に止まれないクルマの特性に合わせ、なるべく緩い曲線半径で見通しの良い立派な車道を整備しています。

一方、自転車に対しては、一時停止や下車に強い抵抗を感じるという特性に合った空間が整備されていません。
それどころか、クルマのための空間を優先的に確保し、残りの余った空間に自転車を押し込め、むしろ一時停止や下車を強いています。

そんな状況を改善しないまま、通行空間の劣悪な環境を我慢できずにルールからはみ出た自転車ユーザーを厳しく取り締まるのは、あまりにも自転車の特性や自転車ユーザーの負担を軽視していないか、あまりにも管理者都合が良すぎるのではないか、と思ってしまいます。
(だからと言ってルールを破って良いわけではないです。日本は法治国家です。)

交差点が安全になる整備はもちろん、もう少し自転車に寄り添った道路整備をして欲しいな、と思いました。


以上、万博会場までの自転車利用を推そうとしている街の状況でした。

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