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映像はシナリオが90% 映像制作成功の秘訣

企業系映像シナリオライターの須未亘です。
前回のブログでシナリオを〈建物を建設する際の設計図〉に例えて説明しました。どんなに美しい外観を持つ建物も、しっかりとした基礎がなければ時間の経過と共に傾いたり、崩れたりする恐れがあります。同様に、映像制作におけるシナリオは作品の核であり、方向性を示す道標となります。
 
シナリオのことを「台本」や「脚本」とも言いますが、この「台」や支える「脚」がしっかりしていないと途中で作品自体が崩壊してしまうため、こう呼ぶようになったのでしょう。逆に言うと「台本」がしっかりと最初に出来上がっていれば、さまざまな要素を上に載せることができ、どんどんとアイデアや創作性が膨らんでいきます。なおかつ倒れたり、崩れ落ちたりすることもありません。また、たくさんの物を載せてしまっても後でいくらでも整理することですっきりとした「台」に戻すこともできます。
 
近年は撮影技術や編集技術が進んだことにより、自社で映像を内製化される企業も少なくありません。しかし、「とりあえず作業内容を撮って、何となく編集で映像繋げば出来上がるだろう」と思うのは間違いです。
 
時に大量の撮影素材だけを渡されて「うまくまとめてください」という依頼があります。しかし、最初に想定シナリオを作成しておけば撮影の労力や視聴時間を掛けずに済むであろう、と思われることも多々あります。どんなに短いVTRであろうとシナリオを文字ベースで一度作成し、それから編集に取り掛かると編集作業の手間はぐんと減りますし、撮影時の無駄なコストも削減できるようになるでしょう。

映像制作のプロセス


では、シナリオの具体的な書き方を説明する前に企業系の映像が出来上がるまでにどのようなステップがあるのか、その過程を見ていきましょう。

1. 企画

映像制作の最初のステップは、アイデアを考えることから始まります。この段階では、クリエイティブな発想が自由に飛び交い、テーマやメッセージ、視覚的コンセプトを形成していきます。アイデアは映像シナリオライターだけでなく、担当部署や経営者自身のインスピレーションやブレインストーミングから生まれることが多いです。
 
また、近年ではSNS投稿した際の効果や反応などをSEO解析ツールを使って予測し、事前にどんな単語を使ってアピールするか、なども重要になってきています。 
 

2. シナリオ作成

アイデアが固まったら、次はそのアイデアを基にシナリオを作成します。シナリオ作成の際には映像の目的、流れ、トーンなどをクライアント企業とすり合わせながら詳細が分かるように執筆していきます。熟練のシナリオライターは、単なる文章作成ではなく、予算面の都合や撮影時の段取りや編集時に繋げる文章の順番なども考慮し、文章を作成しています。この段階で、映像の全体像を明確にし、クライアント企業と制作チームの全員が同じビジョンを共有できるようにします。

シナリオが作品完成度の90%を決めると私は思っています。土台さえ問題なければあとは残る10%を他のクリエイターらが引き伸ばしてくれ、時に200%、300%のクオリティに高めてくれます。
 

3. 撮影準備

シナリオが完成したら、撮影に必要な準備が行われます。ロケーションの選定、キャスティング、スケジュールの計画、機材の手配など、撮影に先立って必要な全ての準備が含まれます。撮影をしない場合は映像素材の準備もこの段階で行います。既存の写真や画像素材提供会社から写真のダウンロードなどを行っておきましょう。

4. 撮影 素材収集

準備が整ったら、いよいよ撮影が始まります。撮影は、シナリオを実際の映像に変換する工程です。ここでは、監督、カメラマン、照明スタッフ、音声スタッフなど、様々な専門家が協力して、台本上で計画されたビジョンを具体化していきます。また、昨今は撮影をせず、「ありもの」と呼ばれる専門業者が提供する写真、映像素材だけを使ってPV(プロモーションビデオ)を作成する場合もあります。また、アニメーションやCG、漫画を動画形式で動かし、映像化する手法も増えてきています。

これらの作業は料理で例えると、材料をまな板の上に並べる行為に似ています。レシピ(台本)と見比べつつ、このブロックを表現するために必要な材料(映像素材)は何だろうか、よく考えてみてください。もし、素材が少ないのに台本の説明文が長い場合はシナリオ自体を変更するか、CGを作成するなど代替手段を考えねばなりません。そういった撮影後のトラブルを防ぐためにも事前の詳細なシナリオが必要不可欠なのです。

5. 編集

撮影が完了すると、編集のフェーズに入ります。編集は、撮影や画像提供会社からダウンロードした映像素材を選択し、組み合わせて物語を形成するプロセスです。この段階でシナリオに合わせたカットの選択、トランジションの追加、音楽や効果音の挿入などが行われ、映像に最終的な磨きがかけられていきます。

2000年代前半まではディレクターやプロデューサーが編集マンと共に編集室に籠もり、徹夜で編集作業をするといった状態がよく見受けられました。しかし、近年では映像業界でも無駄な作業の見直しが行われており、優秀な編集マンに委ねてしまうケースが増えています。しかし、その編集の際に具体的な指示とどこをどのようにつなげばいいのかが分かる台本がないと編集担当者が作業できません。必然的に詳細かつ誰が見ても完成形が分かるシナリオの重要性が高まっています。

また、編集作業をアウトソーソングする際も詳細な台本と素材(映像)さえあればリーズナブルな価格で行える例もあります。さらに昨今では生成AIによってシナリオを入力するだけで一定レベルの映像を作成できるようになってきています。

6. 公開

編集が完了した映像は、クライアントでの最終的な確認を経て、公開されますます。インターネット、テレビメディア、展示会会場など媒体はさまざま。また、近年はスーパーや店頭で放映されるデジタルサイネージにも映像は使用されています。リテールメディアと呼ばれるこうした小売業界での映像表現は今後も増加し、企業の映像需要が高まっていくと思われます。

企業系映像シナリオライターの仕事


ちなみに映像シナリオライターの仕事はこのうちの「1.企画案」と「2.シナリオ」を担当することになります。私の場合、依頼によっては3.から6.までの作業を統括する役目を担う場合もありますが、そうした全体の進行を管理する場合は「ディレクター」「監督」「プロジェクトマネージャー」等の肩書で呼ばれるのが普通です。

また、映像シナリオライターが3.から6.までの作業についてまったくの無知で良いかというとそうではありません。映像シナリオライターが撮影準備や撮影、編集、公開のプロセスについての知識を持っている場合、技術的にも実現可能な演出効果や見せ方を提示することができます。例えば、演出のト書きに不必要な「空中飛行する人物」という一文が書かれていたとしましょう。シナリオでは数秒で書けることですが、実際に映像化するとなれば「撮影するのか?」「CGにするのか?」「特殊編集でごまかすのか?」など、予算を含めスタッフ多数の議論が必要です。
 
経験豊富で、なおかつ現在の制作技術の進歩を知っているシナリオライターに頼むことで実現可能かつ、幅広い表現形態のシナリオ作成が可能になります。

映像発注者(企業側)が心得ておくこと

同様に映像制作を発注する側の企業も事前にこうした映像制作の流れをおおまかに理解しておきましょう。まれに撮影後にシナリオにはまったく無かったシーンや関係のない要素を組み込んで欲しいと注文される場合もあります。しかし、そういった場合、再撮影のコストがかかったり、場合によって台本段階からやり直す必要が生じてしまいます。「言った、言わなかった」などのトラブルもベースとなる台本が無ければ起きがちです
 
ですので、企業としてはしっかりと打ち合わせをして細かい点まで確認できる台本を事前に準備してもらうようにしましょう。また制作サイド側も後々のトラブルが起きないよう、完成イメージが沸き上がる台本の準備を怠ってはいけません。
 
以上のことから時間をかけてでもシナリオは推敲し、しっかりと確認しておくことをお薦めします。事前の細部にわたるチェックが製作者サイドを結果的に助けると思って、シナリオ段階で修正や疑問点があれば早めに解決しておきましょう。


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