見出し画像

海外赴任に障害児を帯同すること③専門家のアドバイス

 情報収集を経て、今度は専門家にアドバイスを伺いました。我が家の駐在が『断ることもできる、断っても何ら不利にならない』という特殊なものだったので反対意見の方が総じて多かったと思います。ちなみに周囲のママ友は海外生活経験がある人もない人も含めて「単身赴任、もしくは駐在自体を断る。家族では行かない」が100%でした。

1.通っていた自治体のSTさん

「息子さんはまだ日本語での抽象概念などが育っていない段階、かつワーキングメモリーが少なく、情報処理が遅い特性を考えると、たった2年の海外生活で生活するための英語環境にそのワーキングメモリーを使うのは良くない。いきなり分からない場所に連れていかれて、分からない言葉で一日中過ごすストレスは大人でも定型発達の子でもしんどい。彼は不安も強く、もっと辛いと思うし、2年間日本での教育機会を逃したら帰国したあと、遅れた分だけでなく退化した日本語を今の状況に戻すことから始めないといけなくなる」ということをオブラートに包んで言われて、彼のことだけ考えるなら断れる駐在打診は断る方がいいとのこと。WISCの結果も出ていたところだったのでなるほどな、という視点でした。私は息子に英語が喋れるようになってほしいなどとは一切期待していなかったのですが、生きているだけ、つまりその環境にいるだけで適応本能が働き、嫌でも英語が頭を占めてくるんだ、という当たり前の話なのですが、完全に抜けていたんです。息子の立場になって考えていなかったことを猛省しました。

2.単発で通っていた民間療育施設の先生

「国内赴任でもお父さんに単身赴任をしてもらう家庭がほとんど。東京では児童発達支援も放課後デイサービスも人気のあることろは何年待ちの状態であり、それを手放したくないことや、数年のために慣れた土地を離れて子供が不安定になるのは避けたいと考えるようだ」とのこと。もちろんお母さんが仕事をされていたり、持ち家の関係だったりもあるとは思うのですが、2年って短いですよねという話もしました。
 人気のある療育施設の定期枠を逃したくない、というのは本当に切実な思いです。我が家は放課後デイサービスが合わず、小学生になってから定期枠で通っていたところがなかったので今回の海外駐在でこの懸念はなかったのですが、きっと幼稚園時代の児童発達支援だったら相当ネックになっていたと思います。都内は何百人待ちなんてザラですからね・・・

3.保育所等訪問支援をお願いしている民間療育施設のお世話になっていた先生

 息子が小さいころからお世話になってきたリタリコさんに保育所等訪問支援をお願いしており、担当教室の先生にも個人的に相談させていただきました。「参考になりそうな事例がないが、お父さんとお母さんがどうしたいか、幸せでいられる方を考えた方が良いのではないか」とのこと。どうなるかは分からないし、正解はないので、場所はどこであれ家族がなるべく笑顔でいられるようにするのが大事。決断したらそれだけを心がけてやれることをやればよいのではないですか、と言われ、何だか海外駐在云々ではなく家族単位の人生の決断の本質が見えた気がしました。

4.発達検査をするために通っていた大学病院の医師

 「アメリカ生活で何かメリットがあるかもしれないが、当人の不安や不適応、言語の問題、更なる学業の遅れなどデメリットは確実にある。つまり、断れるなら断れ」・・・うーん。はい。その通りなんです。子どものことを考えた方がいいんじゃないですか?と言われて思わずその場泣きそうになりました。悔しくて、悔しくて。多分こういうのは私の思考の癖なのですが、部分的に否定されると人間性すべてを否定された気になってしまうんですよね。とりあえず「デメリットは確実にある」という言葉だけ、心に留めることにしました。

5.私が個人的に好きで長年フォローしていた大人気駐在妻ブロガーさん

 海外生活なんて考えもしない頃から、文体やネタが好きで見ていた駐妻ブロガーの方がいました。その方すでにすごいフォロワー数でかけ離れた世界の人だったのですが、ダメ元でコンタクトしてみたんです。そしたらなんとお返事が!ご自身の息子さんがアメリカで通われていた学校で何人が支援級判定テストを受けたかも調べて下さって、「一人じゃないからみんなで頑張れる可能性もありますね」と。「アメリカでは日本より学校側としっかり方針が話し合える環境があるのでベストを探しに行ける交渉もできます」とも教えて下さいました。あと、「単身赴任ならばパパ無しの生活が子どもや私自身にどう作用するか考えるのも大事」「アメリカは日本より子育てがラク。子どもをちゃんとさせなきゃ、のストレスからは解放される」と。そして結びには「正解はなくて、飛び込んで違った~と思ったらやり直せばよい」「周りに流されず、”我が家ならどうする?我が家のベストは?”と思考の軸を100%我が家に置いて、納得のいく答えを出してください」と書いてくださっていました。

夫にもこのブロガーさんのメールを転送して、二人で渡米することを決めました。色んなアドバイスを聞いた上で、最終的には私たち家族が何を最優先に考えるか、どの選択肢が最も私たちにとって幸せで安定した生活をもたらすかを考えることが重要だということに気づかされました。息子の障害がどうなっていくか、どう作用するか、は分からない。嫌な思いも間違いなくすると思う。でも海外で夫は今より家庭で過ごす時間が長く取れそうだし、家族で新しい環境の酸いも甘いも乗り越える経験はきっと宝物になる。そういう直感が確かにありました。

人生にも決断にも完璧な答えや「正解」は存在しないんです。どんな結果になっても、選んだことは後悔しないと腹をくくることが信じるということです。私は自分の決断を信じる、その覚悟だけで2年挑戦することに決めました。2年経て今、本当にたっくさんの苦労はありましたが、家族としての絆は何倍も強くなりました。子どもの世界も大きく広がりました。精神的にも強くなりました。家族の軸で決断して本当に良かったと思います。私たちの経験が、どなたかの参考になれば幸いです。