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トリガー条項を掲げる玉木代表は救世主か?

 衆院選でプラス三議席の一一議席を獲得した国民民主党の玉木雄一郎代表は此処を勝機と、更なる有権者を獲得すべく古巣の民主党時代の印象とは異なる新しい路線を打ち出し一一月一六日に「ガソリン購入価格を抑えるトリガー条項の凍結解除」を掲げ、一二月六日からの臨時国会に向けて岸田内閣への攻勢を掛けるべくTwitterやYoutubeで準備を始めています。
これに対し「ガソリンの買い控えが起きる。」と否定的な意見を述べた松野博一官房長官はネットで馬鹿扱いされ、国民民主党の玉木代表はガソリン価格の高騰に歯止めをかける救世主としてネット民からの喝采を浴びます。
 しかし、疑問があります。この法案が凍結されたのは東日本大震災の直後です。ニュースで知る限りトリガー条項は「東日本大震災の復興財源のため凍結された」とあるだけで明快な説明がされていません。被災による交通網の切断、供給の遮断、ガソリン価格の予断を許さないその時期にガソリン価格を事前に抑制できる素晴らしい法案がなぜ一度も実施されることもなく凍結されたのでしょうか?
一一月二五日、玉木代表は会見で「トリガー条項凍結解除」に向けた法案提出で日本維新の会と調整に入ったことを明らかにし、共闘関係を明らかにしました。玉木代表はトリガー条項の発動が価格高騰を治める切り札のようにお話しされますが、その根拠はどこにあるのでしょうか?たまきチャンネルの動画を見ても判りません。暫定税率分が消えてもガソリン価格が抑制される根拠はどこにもないのです。玉木代表はこのトリガー条項の凍結解除に国民の注目が集まるよう目論む訳ですが、じつは既に日本は強制的にトリガー条項が実施された状況を体験しているのです。
 
 二〇〇八年一月に召集された第一六九回国会、通称「ガソリン国会」でガソリン税等の暫定税率の十年の延長を主張し審議を要求する与党自民党に対し、野党民主党は「ガソリン値下げ隊」を結成し暫定税率廃止を訴え「ねじれ国会」を利用し、参議院での審議を拒否し採決を引き延ばし衆院の再可決が時間切れに終わるよう一五六日間もの間、国会を空転させガソリン価格の問題の持ち越しに成功します。この間、暫定税率対象品の値段は変動し、地方は減収となり四月パニックと呼ばれた国民生活の混乱が生じています。
当時のブログを検索すると、多くのガソリンスタンドで暫定税率分の値引きがなされ、五月一日からの暫定税率復活を前にガソリンスタンドに人々が殺到したとあります。
この福田内閣の時に起きた疑似的なトリガー条項により、暫定税率が一ヵ月停止された時、既に消費者はもちろん業者、自治体の間で大混乱が起きていたのです。地方に税収が入ってこないため、国が臨時の交付金を支給して対応しますが、全国で一斉に公共事業が一ヵ月も停止したので、経済的打撃は大きく、倒産した会社も少なくありませんでした。
今、玉木代表が訴えるトリガー条項の凍結解除にこの時の経験は活かされるのでしょうか?
その後、二〇〇八年八月、ガソリン価格は東京都区部でリッター一八二円を記録し、自民党への国民の失望と苛立ちは頂点に達しました。
 二〇〇九年、追い風を受けた民主党は再びガソリン暫定税率廃止を掲げ、衆院選で圧勝し政権を獲得します。民主党政府は二〇一〇年三月、ガソリン税の暫定税率を廃止としながら、「消えた税率分は維持する」という一円も安くならない奇妙な法律を提出します。ここにトリガー条項という新たな項目が加えられました。
 しかし一年も経たない二〇一一年三月二十五日、与謝野馨経済財政大臣が「あれは、外さなければいけない、やめなければいけない制度だと思っています。」と会見で答えます。
次いで三月三一日、民主党岡田克也幹事長が財源不足を理由にトリガー条項の廃止の意向を示しました。三月一一日に発生した東日本大震災でトリガー条項の適用が現実性を帯びてきた為です。
自民党の谷垣禎一総裁は菅直人総理との会談で震災と原発事故対策についての緊急提言でトリガー条項の廃止を申し入れ、菅直人総理は「さっそくいかしたい。」と応じ、こうしてトリガー条項は凍結されることになります。与謝野経済財政大臣も岡田幹事長も菅直人総理大臣も民主党政府原案でも誰も彼もトリガー条項の廃止を言いながら一週間も経たない間に廃止案は撤回され、一時凍結という形に変わり事実上の廃止で幕を引きました。

 自動発動で実施されるコントロールの効かないトリガー条項が国民生活に混乱を生じさせる懸念を考慮した自民党は言うまでもなく、トリガー条項を制定した当の民主党でさえ現実を目の前にすると即座の停止に賛成したトリガー条項です。
では既に問題点が明らかになっているトリガー条項を復活させようとする玉木代表の当時と今とでガソリン価格を取り巻く状況の判断に「与党と野党の立場が入れ替わってる」以外の理由があるのでしょうか?
トリガー条項を制定した責任のある与党の立場から解放され、無責任に国会を混乱させようとしてはないでしょうか?
 トリガー条項は総務省が発表する小売物価統計調査において、ガソリンの平均価格が連続三ヶ月リッターあたり百六十円を超えると、翌月からガソリン税の上乗せ分の二五.一円課税を停止し、三ヶ月連続百三十円を下回った場合に解除されます。
トリガー条項が適用されることで一ヶ月で地方が四百億円減、国が千百億円減、三か月で国と地方で約四千五百億円の減収が予想されています。少なくとも三ヶ月はトリガー条項下に置かれることになり、最低でも四千五百億円の税収減となります。玉木代表がネットで喧伝している「トリガー条項の凍結解除によるガソリン価格の値下げに必要な財源は四千五百億円。」と言われる根拠がこれです。減収分を補うために必要となる予算ですが、これはガソリン平均価格リッターあたり百六十円が最短の三ヶ月で終了する前提であり、長期化や必ず生じる地方税減収への補填、現場への交付金、それに伴う市場の混乱を回避するための対策費用に関しての試算は一切計上されておらず、その都度都度考えるとされています。トリガー条項が発動されたとき、既に業者は仕入れ時に税金を納めているのでこの在庫の負担を誰が持つのか、また安く売るための差額分を誰が負担するのか、現場には高値で仕入れたガソリンでも安値で売らなければいけない市場圧力が掛かりますが、これらは一切トリガー条項の計算にはありません。四千五百億円は最少額の見積もりなのです。
 それでは困るのでトリガー条項の制定時にも公明党澤雄二議員から原口一博総務大臣に質問がありました。原口一博総務大臣からの回答は「心して対応します。」の一言のみでした。民主党は想定される事態への対処を一切考えてなかったのです。
 民主党が政権から退き、安倍内閣となった二〇一四年十月六日の衆議院予算委員会では民主党の階猛議員からトリガー条項の凍結解除を求める質問がされ、当時の麻生太郎財務大臣が「ガソリンの買い控えや流通の混乱が起き、国と地方合わせて一.八兆円の減収になり凍結解除は適当ではない。」と答弁し、玉木代表の数字を大きく超える数字を示されました。加えて麻生財務大臣は昨年の二〇一三年七月以降のガソリン価格高騰に対し、「燃料を大量に消費している漁業事業者への対策やガソリンスタンドへの支援を講じている。引き続きこれらの施策を早期に努めていかないとならないと考えている。」と個別の対応が良いと述べられていました。
二〇一四年の石油価格の安定的な高値推移は、ある種の均衡状態にあり、日本などの石油供給を輸入に頼る国を除く国際石油市場の主要なプレイヤーには歓迎された状態でした。二〇二一年の原油価格の高値水準はその時以来の高水準ですが、この要因は世界的なコロナ後の経済活動の再開による需要の高まりです。しかし経済の再開に踏み切れる国はまだ少なく、産油国は原油の増産に消極的なため原油価格の高騰を招いています。国が案じるのは原油高騰による恐慌です。原油価格の高騰は物価の上昇に繋がり、多くの産業はコスト上昇分をそのまま価格に転嫁するのは難しく、原油価格を抑えるべく世界の石油消費量の半分を占める主要消費六カ国の日本、アメリカ、中国、インド、英国、韓国は協調し石油備蓄の放出を発表しました。今回の石油価格の上昇は経済の回復で高まった原油の需要に供給が追い付かない、あくまでもアフターコロナに対応しきれない一時的な減産体制と言う状態だということに目を瞑り、国民のマイカーのガソリン代の心配を煽り立て、事の本質とかけ離れた問題にすり替えようと画策する姿勢のどこが「玉木は生まれ変わった」と胸を張れるのでしょうか?
 二〇一一年の国会質疑で自民党愛知治郎議員のトリガー条項廃止に関する質問を受けた野田佳彦財務大臣は「東日本大震災による製油所の機能停止や流通の障害で燃料の需給が逼迫し、仮にトリガー条項が発動された場合、更に全国的な燃料需給の逼迫とともに流通が混乱する。自民党からの廃止の提言の理由として被災地の混乱回避、財源の確保の目的があげられた。この趣旨、目的において整合的である。」と答えました。五十嵐文彦財務副大臣は共産党佐々木憲昭議員にトリガー条項廃止による国民への負担増を問われ「トリガー条項の実施による税収の減収を補う策は期間に関わらず本予算の中に財源措置は無い。」と答えます。民主党政権では不明瞭だったトリガー条項の問題点が一気に明らかにされました。
 自分の身の周りに目を向けて考えても、ガソリンの売り惜しみ、買いだめ、買い控えは容易に想像できます。少しでも得をしたいのは人間の性の話です。消費者も業者も他の者と意図的に連携を取らずとも自然にガソリン価格の操作に関与する惧れも予想されます。ポリタンクにガソリンが貯蔵される危険もあります。税制が業界の意向で歪められる懸念もあります。
政権を取った民主党は暫定税率の廃止で影響を被る地方自治体からの追及を受け、暫定税率の廃止が無理だと知りました。暫定税率を廃止することができないので公約の手前、苦肉の策としてトリガー条項を捻り出し国民に体裁を繕おうとしただけなのです。民主党の公認を受け、初当選した玉木さんは新人議員だったからこの顛末を知らなかったとでも言うのでしょうか?自ら生みだしたトリガー条項を東日本大震災で急に財源が気になり廃止を騒ぎ立てた元民主党の一員が、新型コロナ対策で多額の予算を支出した現在の日本の状況を気に掛けることも無く、コロナ後の経済活動の再開に大きくブレーキをかけかねないトリガー条項を持ち出すのは国民を巻き込んで新たなモリカケサクラを空騒ぎしようとしてるに過ぎません。

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