ある日の事
「兄さん、貴方の人生がこれからも上手くいきますように…。」
その日から彼は僕の前に現れること、というか会うことがなかった。彼とはとても仲良くやっていたつもりだったが、どうしたのか?とこういうときには妙に気になるものだ。
僕はあまり失言をしない男だが、まさか旧知の仲の友にそういう発言をしてしまったかと考えおこしてみたが、全く思いあたらない。
悪いことをしたら謝るようにしている。この事に関しては彼が傷ついたらそう言うだろう。
彼にも言いたくない1つや2つのことがあるだろう。
多分恋人だ。いるなら話してくれても良かったのに…。彼は相当シャイな男だから、そういう話はしない。
僕は結構笑った。相当信用されてないものだと。そして十年前のことを思い出した。
あれは春のこと、暖かい、空が青い日だった。僕は一人の友人を失った。まだ若かった。将来の夢を語った。長く友人であろうと約束した。
病気だった。僕はその時の感情を思い起こせない。彼は僕の中でまだ生きていて、死んでなどいない。頭では理解していても、心では理解していない。心では理解していないまま十年が過ぎた。
だからこの明るさだった。彼は恋人でもできたのだろう。だから気にしない。口を挟まない。
この後も僕は全てを明るく過ごしたし、10日くらい彼のことを忘れて過ごした。
ある日、友人とカフェに行った。どうやら僕に頼みがあるようだった。
「この写真を彼に渡しといてくれないか」と言った。
「それなら彼に直接渡せばいいじゃないか。」と僕は言った。
でも彼は頑なに首を振って「僕はこれから外国に行くから、暫く彼に会えそうにないんだ」と。
僕も会えていなかったが、それならしょうがないと引き受けた。
ある日僕は手紙を受け取った。それは十年前に死んだ友人からだった。
親愛なる友人へ
僕の友人は君ぐらいしかいないから、君がいないとき、僕がいつも以上に暗くなってしまうから心配です。早く会いたいです。
病室には人はいるけれど、人見知りで話しかけられないから、君といると楽しくてしょうがない。後もう少しで死んでしまうかもしれないけれど、弱音を吐かず最期まで頑張るから応援していて!!
君の心にいつも僕がついていますように。僕が君を幸せに導けますように。
死んだ友人より。
「貴方はいつも楽観的で、何も考えないで行動して失敗するから心配だったんです。」
「君はもしかして、僕の友人の生まれ変わりだったのか?」
「そうです。僕はずっと貴方の側にいる。」
心の底から何か沸き上がるものを感じた。涙が1滴、2滴と流れて、僕は今幸せだと感じた。
僕はある朝起き上がった。全ては夢だった。
そして僕はある時死んでいることに気がついた。
そして彼に渡しておいてと言われた写真は全て僕と彼の2ショットだった。