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予期せぬ再会

少し蒸し暑いある日
下の子の授業参観に行ってきた

小学校の教室は子供たちのざわめきで賑やかだ
まだ若い先生が、額に汗を流しながら
「みなさん!早く席に着いてください!」と
好き勝手に遊びまわる子供たちに呼びかけている
ざわめきも次第にやんで子供たちは
おとなしく授業の準備をし始めたのだった

一通り、子供たちの発表が終わり
授業も終わりに差し掛かっていた頃だった
何気なく、廊下に目をやった時
廊下を歩いていた人と目が合った

(あれ、もしかしてY先生かな?)

Y先生は、上の子が6年生の頃、
担任だった先生で、30代の男性だ
上の子が卒業してから何年も経っているので
既に異動でもしたのかなと思っていた

私の視線に気が付いたらしいY先生は
にっこり笑って頭を下げてきたので
私もY先生に頭を下げた

私の中に当時の様々な記憶が蘇る


正直、上の子はY先生とはそりがあまり合わなかった

家に帰ってくると、
Y先生への不満を一番に口に出した
上の子の話によると、
Y先生を煙たく思っているのは
自分だけではなくクラス全員だよ!との事で
みんな、先生には当たらず触らずの態度らしい

詳しくは書けないけれど、3学期のある日
ついに、Y先生とクラスの男子がトラブルになった
それはお互いのささいな気持ちの行き違いが
原因だったらしいのだけれど
その話を聞かされた私は、Y先生が少し気の毒になった

他の保護者に話を聞いたところによると
Y先生は良い先生で、
他の学年を担当していた時は子供たちに
やさしくて好かれていたようだった

おそらくお互いの気持ちの小さな行き違いが
大きな溝になったしまって
こんな結果になったのだろうと思った
あぁ…高学年の子は難しいなぁ…と
思わずにはいられなかった


そんなこんなで
少しばかり騒々しい一年だったけれど
上の子は小学校を卒業していった

卒業式の日のY先生の表情は
寂しいというよりせいせいしたようにも
見えなくはなかった

そりゃそうだよね…Y先生も一年間
さんざん振り回されたんだから
きっと、この学年のクラスの事は
思い出したくもないんだろうと思っていた


その後、保護者の懇談会も終わり
Y先生とは再び会うことなく、私は学校を後にした

下の子は、授業が終わってからすぐに帰宅していたので
今頃、家で遊んでいるはずだ


次の日、学校から帰ってきた下の子から
意外な話を聞いた

「あのね、Y先生がお姉ちゃんの事聞いてきたよ」

「あれ、Y先生の授業ってあったっけ?」

「ないけど、休み時間に校庭で遊んでたら
話し掛けられたの、お姉ちゃんは元気かって」

「なんて答えたの?」

「元気だよって言った、Y先生は笑ってた」

「そう、それは良かったね」

「でも、Y先生はなんで
お姉ちゃんの事知ってるんだろう?
お姉ちゃんってY先生に習ってたのかな?」

うん、そうだったみたいだよ…と答えた

その時、なにかうまく表現できないけど
心が温かくなった

あんな事があったのにも関わらず
気にかけてくれていたのだなと

Y先生にとっては
もう思い出したくもない一年だったろうし
あれから随分と長い時間が経っている事もあるし
普通ならもう忘れてしまったかもしれないのになぁと

昨日、私に再会した事が
きっかけだったのだろうけど
わざわざ、下の子の事を調べて
声を掛けてくれたのはきっと
Y先生の気遣いだろう、有難い事である


上の子にこの話をすると
彼女は少し頭をあげながらこう言った

「Y先生か…あの頃話せなかった事を
成人式で話したいかもね…」

もしかしたら上の子はY先生と
いつか和解できる日が来るかもしれない

私はその日が来るのを楽しみに待っていよう



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