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SIer(CIer)を退職して真のエンジニアリングをやります

こんにちは、sumirenです。
この記事は2023年3月末でCIerを辞める筆者の退職エントリとなります!

はじめに

CIerとは

クラウドインテグレーターの略称で、以下のような傾向のあるSIerのことです。有名どころだと、クラスメソッドさんがわかりやすいと思います。

  • クラウドを組み合わせたアーキテクチャを提案する

  • 上流工程〜下流工程まで自社でやる

  • 上記の特徴から、大手SIerより短納期で柔軟性のある開発ができる

  • 中小企業の割にエンプラから仕事を請けている

この記事の要約

要約すると次のようなことです。

  • CIerで幅広い技術を触れて、フルスタックエンジニアやアーキテクトとしての経験が積めた。プロジェクトマネージャや管理職も経験でき、ソフトスキルやビジネススキルも大きく高まった。CIerに入ってよかった

  • 一方、4年間働いて、社会に役立っている実感がなかった。エンジニアリングのレベルも、フリーランスで入っている自社サービス企業より低かった。SIのビジネスモデルでは、あるべきエンジニアリングは難しいと判断した。

  • BizもDevも1つのチームになってビジネスとプロダクトに向き合う「真のエンジニアリング」こそが、やりがいと成長の両方につながると判断し、次はSaaSをやることにした。CTOやVPoEを目指したり、経済的に成功するために、スタートアップのほうが都合がいいと考えた。

誰に何を伝えたいか

あくまでポエムですが、強いて言えば次のようなことがメッセージです。

  • CIer / SIerでモヤモヤしている方に、自分がCIerを辞めるにいたった葛藤や洞察を伝えたい

  • スタートアップとメガベンで転職先を悩んでいる方に、選択基準を参考にしてほしい

あとは、お世話になった現職に感謝を表明したい、というのも普通にあります!

CIerで働いた4年半

私は4年間のソフトウェアエンジニアの経験を前職で積み、現職CIerに入りました。

クラウドの専門性を身に着けてアーキテクトやフルスタックエンジニアになりたかったので、色々な案件で幅広い技術が触れそうなCIerに入社しました。

〜2年目まで

いくつかの案件でアプリレイヤをやりながらクラウドを覚えていき、AWSやHeroku、その他様々なSaaSを触りました。CIerの例に漏れず、AWSやIPAの資格も合計10個以上取りました。笑
アプリに加えクラウドの専門性も身につけ、プロジェクトの進め方にも慣れた後、チームをリードしてバリューを出そうと思い、プロジェクトリーダーを経てプロジェクトマネージャになりました。

この2年間で、パブリッククラウドやSaaSを使ってアーキテクチャを組んだり、そうしたときに必要になってくる考慮(冪等性とか結果整合性とか)に対する経験が積めました。
PM経験で、顧客との折衝力や推進力といったソフトスキルもかなり身についたと思います。

3年目

フルスタックに開発できる能力とソフトスキルが身についたことで、複数プロジェクトを統括する顧客チームの開発責任者を任せてもらうようになりました。顧客やチームメンバとシステムのアーキテクチャを議論したり、組織設計を継続的に改善したり、自動テストの導入などの施策をやりました。

この頃が、自分が一番バリューを出せていた時期だったと思います。
IaCやCICD、組織設計や開発プロセス設計、品質エンジニアリングなどを幅広くやり、CTOやVPoE、SRE、DevOpsエンジニア、テストエンジニアなど、色々なジョブに通ずる経験ができたと思います。

最後の1年半

最後の1年半くらいは課長・副部長といった管理職になり、アーキテクトを兼任しながらマネージャとしてチームや部門の財務・非財務目標達成を明示的に目指すようになりました。また、本業とは関係ありませんが、自社サービス企業でフリーランスエンジニアとして副業するようになりました。

戦略策定や数字の管理、予実管理や人事考課など、マネージャ業務に真剣に取り組めたと思います。ビジネススキルを学ぶいい機会にもなりました。
終盤は自社サービスでのエンジニアリング経験を活かして、「新しい時代のSIの形を作る」という自組織のミッションを見出してプロジェクトの提案に盛り込んだりと、濃い経験ができました。

CIerでの4年半を振り返って

CIerや現職は人におすすめできるか?というと、個人的にはYesです。

中規模受託事業(〜1年)ならではの複数プロジェクトでの経験の積みやすさがありますし、アプリと一緒にクラウドも触れるので、ジェネラリストを志すなら幅広い経験ができると思います。
案件が多いのでPMをやりやすく、ソフトスキルやビジネススキルをエンジニアリングから離れずに伸ばせるのもメリットだと思います。このスキルは何をやるにしても稼げるので、本当におすすめできます。

あと、最高の上司2名との出会いが、現職でもらった一番の宝でした。「これが本物のマネージャか」と背中を見て日々感じましたし、すごく影響を受けたと思います。参考にならないと思いますが、そういう意味でも現職はおすすめできます。笑

CIerでの葛藤

上記のとおり私は(2023年3月時点での)現職にはとても感謝していて、入って正解だったと思っています。
一方で、経験が長くなるにつれて、現職に対して感じる葛藤が大きくなってきました。

葛藤1. 事業のやりがい

現職に在職していた4年半の間、SIの事業を通じて社会に対して価値を出せたと思えたことがほとんどありませんでした。

自社と顧客の利害が一致していなかったことが根本的な原因だと思います。SIのビジネスモデルは、プロジェクトを受注して人を突っ込めば儲かるものであり、顧客の成功とは無関係です。

これにより、顧客のビジネスに対する自社メンバのコミットメントが低いという弊害がありました。もちろん、周りはみんな真面目で悪意のある人などいませんでしたが、利害が一致しない以上、顧客と同じレベルのコミットメントを顧客のビジネスに対して持つことが難しい環境です。言ってみれば、顧客がビジネスのことを朝から晩まで考えている中、私たちは顧客から予算を引き出すことを考えているわけです。

また、ビジネスモデル上、売上を最大化するためには、炎上ギリギリまで案件を受注することになります。その結果、頭数は足りていてもコア人材が足らず、プロジェクト前半でリスクと課題を溜め込み、後半に炎上する案件が勃発しました。私が参加したり責任者をやったプロジェクトの中にも、スケジュールは伸び伸びになり、機能はオミットしまくり、続ける意味があるのか分からない中、体裁のためだけに走るプロジェクトがありました。
これも、組織全体として1社1社の顧客のビジネスに真剣に向き合っていられない理由かもしれません。QCD交渉や炎上鎮火で手がいっぱいというわけです。

最後に、顧客にも常に問題がありました。「技術的負債返済の予算は取れない」「自動テストは危ない」「障害は許されない」といった世界観が、顧客にとっての常識でした。また、プロジェクトで課題が出てくるようになると、準委任契約にも関わらず「費用を負担してもらえないか」といった悪い考えが顧客の頭を過るようになり、交渉などのエンジニアリングに百害あって一利なしの仕事が増えました。
思うに、エンジニアリングのイニシアチブをSIerに渡す企業というのは、自社で内製する力がないわけで、エンジニアリングのリテラシーやセンスがなくて当然なのだと思います。そうした顧客組織のカルチャーを受注者の側から変えるというのは、難しいことでした。

葛藤2. エンジニアリングのレベル

メガベンやスタートアップをフリーランスで支援するようになり、特にここ1年くらい、エンジニアリングのレベルが現職より圧倒的に高いことを実感していました。

もちろん、現職のほうが長けている領域もあるとは思います。例えば半年や1年の計画を精緻に引いて着地させたり、こってりした既存の業務プロセスとRFPにある新業務の両方にキャッチアップしながら要件をじっくり詰めるといったSI特有の専門性は、自社サービス企業にはないかもしれません。

しかし、勝てるプロダクトを創り、進化させつづける能力は、やはり自社サービス企業のように、ビジネスのコアがエンジニアリングにある組織のほうが圧倒的に成熟するのだろうなと、個人的には結論づけています。
例えば、市場で勝つためには、アーキテクチャが進化できなければなりません。リリース頻度を高めて競争力を得るために、自動テストを導入しなければなりません。可用性やセキュリティといったアーキテクチャ特性を高め、チャーンやビジネスリスクの顕在化を防がなければなりません。当然、技術的なことだけではなく、Bizも含めた組織全体のカルチャーや組織設計も重要です。
このように、本気で成功しようと思ったら、自ずと良いエンジニアリングに向かえるのだと思います。

そして、最近はこの「勝てるプロダクトを創り、進化させつづける営み」こそが、現代における「真のエンジニアリング」なのだと感じるようになりました。より良いものを作り、より社会に価値を出せるやり方なのですから、「真」と名付けてもよいかなと。

SIのビジネスモデルにはこのようなモチベーションはなく、ゆえにこうした能力は組織にも個人にも培われません。将来改修が必要になったときに莫大なお金と期間を要求すればいい、という発想になります。目の前の仕事はもう見積もりを顧客に伝えているのですから、最小限の労力でやらなければ損というわけです。その意思決定が後に顧客のビジネスに致命的な打撃を与えたとしても、SIerは痛くも痒くもありません。

SIの形が変わらない限り、SIerへの外注はプランBであり、今後はIT難民企業のための受け皿にとどまるようになるのだと思います。

キャリアプランと転職の決意

こうした葛藤を日々感じる中で、30歳まであと3年というタイミングになり、次の3年どうしようかと考えはじめました。

キャリアプラン

正直今も自分がどうなりたいのかはっきりとしたイメージはなく、CTOやVPoE、国内トップや外資のシニアエンジニア、法人成してフリーランス、起業などをぼんやりと考えていました。
経済的に成功することと社会的意義があること以外にあまりこだわりはありません。

しかし、これらのジョブのいずれをやる上でも、前の章で述べたような「真のエンジニアリング」のステータスが高いレベルにあることが重要だと考えました。それがやりがいにもつながると考えました。
思えば、2年前からそんなことを直感的に感じていたから、副業では自社サービスだけを支援していたのだと思います。

もし転職しなかったら

一方、Bizとして現職に残るという選択肢もありました。現職に残るなら、「新しい時代のSIの形を作る」をミッションとした新規事業を社内で立ち上げさせてもらい、自分の原体験とエンジニアリング技術を活かして、なにか現職のSIサービスやSI業界全体にブレイクスルーが起こせないかと考えていました。

しかし、結局自分はその道を選びませんでした。取り下げた理由は、キャリア上のリスクがあまりに大きいということです。事業統括にコミットして失敗したら、20代最後の3年を無駄にすることになり、18歳からエンジニアをやっているアドバンテージを失うことになります。

ぶっちゃけ、経営の経験がない自分がこの社会課題を解決できるイメージが全くなかったというのもあります。マネージャをやってきてわかったことは、マネージャと経営者は違うということです…!笑

転職の決意

先述の通り、CIerでの4年間は、事業はともかくタスクにはやりがいがありました。常にまだ自分ができないことにチャレンジさせてもらい、成長もできました。慕ってくれた部下にも、育ててくれた上司にも感謝しています。

関係者全員が運命共同体になり、チームでビジネスとプロダクトを創り、進化させつづける。この「真のエンジニアリング」をやることで、社会にインパクトを与える。それを通じて、自分のキャリアも伸ばし、経済的に成功する。今までも副業でやってきたことですが、これからはそれを本業にしたいと思っています。

次にやること

SaaSスタートアップに転職することにしました。

SaaSスタートアップを選んだ理由

SaaSの事業を選んだ理由は、ここまでの流れから自明かとは思いますが、自社サービスで真のエンジニアリングに取り組むためです。

正式なオファーレターを5社様からもらう中、スタートアップに行くかメガベンに行くかで少し悩んだのですが、2つの理由でスタートアップにしました。

1つはキャリアプランです。
先述の通り、CTOやVPoEは私のキャリアプラン上の選択肢です。
そのため、今回の転職先については、エンジニアリングプロセスやテストエンジニアの知見を活かして、組織の生産性に責任を持つ立場を目指せるところがよいと考えていました。CTOが持つ責任範囲の一部をもらうようなイメージです。
それを踏まえると、経営やファイナンスに関わる立場になるにあたり、メガベンよりスタートアップのほうがスピーディに勝ち負けをはっきりさせられると感じました。見込みがあると思ったらぱっと経営メンバの輪に入れてくれて、無能だと思ったらすぐ私をクビにしてくれるような企業のほうが、学習サイクルが速くて素敵です。

あとは、単純に経済的に成功したいというのが2つめの理由です。
メガベンからは結構高いポジションでオファーをもらっており、30歳で副業コミ年収1800〜2000万は十分現実的でした(Twitterで公表している通り、現時点で1300〜1400はある)。
その安定を捨ててスタートアップに行く経済的理由は、ストックオプションです。もちろん年収もそこそこ行く目論見はあるのですが、それとは別に、ストックオプションで莫大な一発をあてて、最高に楽しくなりたいというのが一番大きいです。小さな成功で満足するより、リスクを取って倍プッシュしたいというわけです。
現職でも上場してストックオプションが多少の金額になったので、もっとデカい上場ができそうなスタートアップに参画して経営にも関わる立場になり、2桁マシでもらえるように貢献しようという算段です。

直近やること

転職を決めた企業様からは、オファーレターをいただくにあたり、ジョブディスクリプションの調整ですごく親身になっていただきました。
そして、「組織をリードする立場になるなら、まずは胸をはってシニアを名乗れるエンジニアにならないといけない。エンジニアリングの知見やソフトスキルは一流だが、実践力が追いついていない」という結論になりました。
これは私もとても心当たりがありました。実際、CIerでアーキテクトをしていたのは全体のレベルが低いからであって、私はまだ国内トップクラスの環境でシニアを名乗れるレベルではないという意識がずっとコンプレックスでした。

話が逸れますが、その意味では、ストックオプションを別にしても、オファー額は結構高かったと思っています。
メガベンのほうが100〜200万ほどボーナスコミで高かったのですが、そちらはシニアSREでのオファーで、グレードはマネジメントラダーで言うところの部長職クラスでした(たしか)。
一方、受諾したスタートアップのオファーは「普通のエンジニア」でした。この先にシニア、さらにその先に組織全体の生産性のリード的な何かが待っていました。「その変身を、あと2回もオレは残している・・。 その意味が分かるな?」的なことです。

ということで、直近1年くらいはソフトウェアエンジニアとして真のエンジニアリングにフルコミットで取り組みながら、片手間で組織の生産性に関する取り組みをやっていくつもりです。
生産性に関しては、知見のある自動テストの領域を最初にやり、生産性メトリクスの運用や組織設計やDDDの知見シェアなど、開発プロセスに広げていきたいと思っています。

また、副業は継続して、主にフロントエンドを継続強化するか、自動テスト導入で一発あてたいです。

心機一転して頑張ります!!!

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