見出し画像

「1時間分の沈黙の苦しみ」〜忘れられない生徒との日記〜

先生として忘れられない悔しいできごとがある。

「学校行きたくないって言ってます。」
お母さんからの突然の電話。

(え?)

全くのノーマークだった。
いつもニコニコしている女の子。

誰にでも学校に「行きたくない」気持ちのときはある。
でも経験で知っている。
実際に学校に来なくなったときは、もう手遅れなことを。

(そうなる前にできたことがあったはずなのに。)
いつもそう思う。
高校生になると、自分の感情を隠せるようになる。
ニコニコして頑張ってたんだな。


「お昼からでもいいから来れそうですか。」
祈るような気持ちで聞いた。

1日休むと、 もう糸が切れちゃって、 次の日も休んじゃう。
それが続いてしまうかも、、、
でも、遅刻で来れたら、まだ大丈夫かもしれない。

「電話に出られそうですか?無理に出なくても大丈夫です。」
電話に出てもらえるかどうかも大事なポイント。
まだ私の方を向いてもらえる余地があるか、、、

結局、出てもらえなかった。
これはだいぶまずいかもしれない。

「お母さん、今日は彼女のそばにいれますか?」
「お仕事休みにしました。」
(よかった!!)
「お昼から行けるかどうか、声掛けお願いします。」

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 

ここから彼女の友だちに聞き取り。
というか、お願い回り。

「行きたくないって電話があってん。
もし、昼から来たら、声かけてあげて。
行きたくないって言ってる話は
知らないふりしといてな。
話を聞き出そうとしなくてもええよ。
学校ってやっぱり楽しいな、
って気持ちになってくれたらいいな。」

「大丈夫!!」

その生徒はとても信頼できる。
彼女に任せよう。

こういうときは教員よりも友だちの力がとても大きい。
心強い味方がいてよかったなぁ。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 

お母さんの協力もあって、 昼から来てくれた。
こういう場合、
私は 「今日がこの子と会える最後かもしれない。」
という気持ちで本気で向き合う覚悟をする。
実際に最後になってしまうことも多い。
この来てくれた1日がめちゃくちゃ大事。

「話しよっか。」

放課後、個室に呼んで2人で話をした。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 

「今日はどうしたのかな?」
「なにかあった?」

、、、 、、、

一言も話をしてくれない。

でもこの子との関係性はできている。
言葉にするのが苦手だということも知っている。
ここは質問攻めにしてはいけない。

、、、 、、、

もう我慢比べだと思った。
私も黙ることにした。

、、、 、、、

ずっと沈黙が続いた。

 「、、、クラブに行きたくない。」
泣きながら、 その一言がやっと出てきた。

沈黙の状態で1時間経っていた。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 

そこから、
クラブの練習がしんどいから行きたくない。
という話がどんどん出てきた。

こういうときすぐにどう対応するか動いてしまいそうになるけど、
ここはグッと我慢。
 本人は自分の気持ちを言えただけでスッキリしたみたい。

「もう一度がんばってみます。」
そこから卒業まで1日も休むことはなかった。

自分の気持ちを言葉にするのが難しくて悩む生徒がたくさんいる。
高校生になるとつらいこともうまく隠せるようになるので、
こちらが気づかないことも多い。

特に、おとなしい生徒は正直に言うと先生の目に入りにくい。
だからといって、大丈夫なわけではない。

わかってたけど、、、

「1時間分の沈黙」

これが、この子の苦しみだった。

ここまでくるまで気づけなかった。
本当に悔しかった。


よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは、高齢者施設で利用者さまの人生をイラスト化する「人生グラレコ」、または、障がい者就労移行事業所での「グラレコで鍛えるまとめる力グループワーク」の活動資金に使わせていただきます。