見出し画像

【原チャリで行こうぜ!】 2001道北編 vol.3 〜通学用スクーターで北海道に向かってしまった件

2日目:2001年7月29日(日)

太平洋上での目覚め、船の揺れとのバトル

6:00過ぎ、ふと、目が覚めたが、また眠ろう!
せっかくの休みだし?いや、揺れるフェリーでは何もできないのが正確な理由かもしれない。
夜、苫小牧に着いたらガンガン走るので、たっぷり寝ておかないと。

9:00、また目が覚めたが、船が派手に揺れる…。
気持ちが悪いので寝るしかない。

今年の3月に、石垣島から与那国島への船に乗った。
そして、その船はありえない程、揺れた。
それ以来船が怖くて仕方がなくなった。
少しでも揺れるだけでも、気持ちが悪い。
すっかり船に弱くなった。
ああ、早く陸に降りたい。

ずっとずっと、カーテンを閉じた二等寝台のベッドの中、ひきもりチックである。

13:00
急にトイレに行きたくなった。
昨日の夜の出港から、12時間ぶりに二等寝台のベッドの外に出た。
しかしながら、めっちゃきもいのである。

八重山の高速船はバン!バン!バン!と叩きつけられるように短周期の縦揺れ、こういう大きい船は、長周期の横揺れ、そう、ゆっくり揺れるのである。
初めは大したことないのだが、少しずつ身体を蝕んでいき、ついには気分が参ってしまう、そういった類いの恐ろしい揺れである。

昨晩、出会ったライダーたちは、この揺れ、大丈夫であろうか?
多分、みんな根性あるから大丈夫と信じた。

トイレから戻り、二等寝台のベッドに寝っ転がりながら、昨日乗船前にコンビニで買ったミニクロワッサンを食べる。
おいしい!かなり、おいしい。
美味しいのもつかの間、揺れは静かに忍び寄ってくる。
揺れには勝てない、きもいのでおやすみなさい!

15:30
ふと、ひとっ風呂浴びたくなり、風呂に向かった。
風呂からは大海原がが見える。
風呂で温まると、なんかホッとした。
サウナがあったが揺れの中入るとフラフラしそうなのでやめておいた。

風呂上りのアクエリアス160円。
相当美味しかった。

フェリーラウンジでの語らい

16:00過ぎ、ふと、フェリー内のラウンジに行ってみた。
ラウンジには、34歳のライダーがいた。
彼と一緒にいろいろ話していると、鈴木さん、後ろのライダーも合流。

話題は北海道到着後の天気である。
天気、気候についてみんなでだべった後、今後のスケジュールについて再度4人で確認した。
また、おすすめの店、食べもの等について語った。

それから、バイクで旅をすることについて、みんなで熱くディスカッションした。

結論として、
1.身軽である
2.気の向くまま行動できる
3.季節を感じられる
以上、3点がバイク旅の魅力ということに落ち着いた。

やっぱり、みんな思っていることは同じなんだ。

自分は、岩見沢のキャンプ場”北村ふれあい公園”を目指すことに決めたことをみんなに話した。
「おいおい、もう夜だぜ!さすがに、原チャリでそこまで走るのはつらいだろ?」
みんなが心配した。

おれ自身も心配ではあるが、少しでも北へ走らないと!
そう、おれはみんなと違ってちっぽけなバイク、一気には長い距離を移動できない、ゆっくり、じっくり、亀のようだが、確実に進む必要があるのだ。

この後、真っ暗な北海道の道を走ると思うと、不安でいっぱいだ。
ふと、去年の阿寒湖事件を思い出す。
そう、大雨、そして暗闇の中、延々と間違った阿寒湖方面に進んでしまい、ガソリンもなくなり、えらいことになった記憶が蘇ってきた。

苫小牧港入港、ツーリング開始

19:45、苫小牧港(正確には苫小牧西港)入港。
天気があまり良くないなぁ、と思いきや、ポツポツと降ってきた。
「こりゃあ、まずいぞ!」

20:20
34歳のライダーは、なぜか入港と共にかっ飛ばして走り去ってしまったので、苫小牧港入港記念の写真は3人で。

レインコートを着込み、ツーリング開始である。

国道に出るところまで、鈴木さんが並走?というか前を走ってくれた。
昨日出会ったばかりの2台のスクーターである。
だが、2台のスクーターといっても250ccと50ccという組み合わせで、並んで走っていると不思議な感じがする。
ただ、鈴木さん、手加減なく、めっちゃ速くて、おれも60km/h近く出して、追いかけていく感じである。
お巡りさんいなくてよかった。

国道に入ると、鈴木さんは手を上げて走り去っていった。
おれも走りながら、楽しい時間をありがとう、そして安全運転でよい旅をと、手を振った。

真っ暗な雨の中の国道234号を北上。
暗くて、雨で、ダンプばかりである。
地平線の向こうまで本当に真っ暗。
次第と交通量も少なくなり、エンジンと雨の音しか聞こえない。
漆黒の大地を走るのはおれだけである。
ふと、自分の存在を感じることができた。

横浜で生まれで、湘南で育ち、川崎市、茨城県のつくば市で学生生活を送った田舎者が、東京のオフィスでせかせかと働いている。
東京はビルだらけ、人だらけ、そして、みんな忙しそうであった。

だが、漆黒の原野を走りつづけていると、気分が熱くなってきた、そして、何かを取り戻してきたようだ。

「おれ、今走っているぞ!」
「しかも、北海道の真っ暗な大地を、雨の中50ccバイクで、それも一人で!」
そんな実感を強く感じて、背筋にぶるっと寒気? を感じた。

「この瞬間のために、おれは生きているんだ!」
一人で自己対話の世界入っていると、いよいよ雨が激しくなってきた。

「真っ暗でおっかねぇ!」
雨が強く、次第に足が冷たくなってきた。

21:28
セイコーマート由仁、夕張郡由仁町、ヤキソバ、あったかいカフェオレ、608円。

足が雨でびしょびしょで、冷たくてしかたがない。
そう、おれは本気のバイク乗りではない(通学用に使っていた原チャリを自動車免許で運転するだけのバイク乗り)ので、ブーツカバーなんてものは持っていなかったのである。

「そうだ!足にビニール袋を巻いてやる!」
「とりあえず、コンビニの中に、ビニール袋ぐらいあるべ?」
再度、セイコーマート由仁店の中に入った。

21:35
セイコーマート由仁、夕張郡由仁町、町指定ごみ袋、105円。

足が冷たくなくなれば、恥ずかしさはどうでもいい…。
両足に由仁町指定ゴミ袋を巻きつけた。
「これでブーツカバーはいらねぇ!」

水浸しのキャンプ場、だめだこりゃ

「寒い、寒すぎる!これじゃキャンプできねぇ!」
と思いつつ、
「とりあえず岩見沢着いたらどうにかなるんじゃぁ?」
といった意味不明な勝手な思い込みをして走り出す。
マインドをコントロール?して前向きに。

さっきから走っていると、国道沿いに立派なバス停がたくさんある。
ちょっとした小屋にドア付いていて、そのドアを閉めることができる。

「おいおい、これって、無料の宿泊所じゃねえか?」
「よく見ると無料宿泊所がそこら中にあるじゃないか!」
そんな、訳のわからないことをメットの中で叫ぶ。
「雨風しのげて最高じゃん!」

22:15
日石三菱、岩見沢市、2.2L、98円/L、226円。

いざ、どうにかなるはずの岩見沢のキャンプ場に着いてみると、キャンプどころじゃない。
雨がすごく、テントを張ったら、テントの中が池になりそうだ。
「しかたねぇ、走れるところまで行くぜー!」
完全に精神が崩壊したようである。
「ま、走ればどうにかなるべ?」

真っ暗で、しかも雨の中、国道12号線を旭川方面へ。
美唄、砂川、滝川、深川を通過して、国道233号線を走る。
北海道を走ったことがある人であれば、20時過ぎに苫小牧港を出発した原付きが、走ってはいけない距離であることが明らかである。
普通のバイクでも、雨が降る夜の道をここまでは走りたくないであろう。

北竜町を過ぎて、留萌を目指そうと思ったが、雨はいよいよ強くなり、そして、眠くなってきた。
「仕方がない、適当なバス停に泊まってやる!」

まさかのバス停泊

0:30
なんとなく、視界がぼやけてきたというか、フラフラしてきた。
さすがにこれ以上進むのは危険な状態となり、留萌手前の北竜町にある碧水のバス停で眠ることに。
本当は、”オールナイト”で走りたかったが、明日死ぬとやばいので。

しかし、本当に真っ暗で、怖いのである。
ログハウス風のバス停である。
中にはベンチがあり、ちょうどそこに寝袋をしけば、いい感じに眠れそうである。

外に置いておくとかわいそうなので、Dioも一緒にバス停の中に入れてあげた。
そして、ドアを閉めて、横になった。

虫たちが鳴いている。
そして、シトシトと雨が降っている。
周りは畑で地平線の向こうまで真っ暗闇が続いている。

そんなところの真ん中で、一人で横になっている。
「怖すぎるぞ!」
ただ、生きている充足感が半端なかった。

ダンプカーが時折通過する。
その後は、また雨と虫の声しかしない、どこまでも続く真っ暗闇である。

苫小牧港から雨の中、激しく走ってきて、極度の疲労状態、気分も高まり全然眠ることができない。
30分眠っては、起きてを繰り返す。

「ああ、おれは今、一人で大平原にいるんだ!」
「明日はぜってぇ、宗谷岬拝むぜ!」
熱い思いは眠気をふっとばしてしまう。

「まあ、どうにかなるでしょう?」

バスの始発は6時45分のようである。
善良な市民に、バスを利用している方々に、迷惑をかけないように、何事もなかったように、6時過ぎには出発しないといけない。
ほとんど眠れなくても、「気合いと根性で、宗谷に立つぜ!」と自分に言い聞かせた。

北海道の大地の広大さ、そして熱い自分を再確認した夜であった。

※ このストーリーは、ほぼノンフィクションです。一部走行に関する描写に関して、物語展開上のフィクションを含む場合があります。実際の道路状況に合わせて、交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。また、現代と時代背景が異なるため、一部現代の感覚など異なる箇所があるかもしれません。ご了承いただけると幸いです。

※トップの写真は、ツーリングマップル北海道2001に掲載された写真です。カメラマンの小原さんから特別な許可を得て使用しております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?