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ぷかり

UMAって、油断すると現れる。


『時間は有限で、贅沢品だ。人生最高のゼイタクとは時間を無駄にすることだ』と、ネッシーが言った。

(こいつ、しゃべれるのか・・・)
とわたしは思った。

彼(あるいは彼女)がどれほどの時間を有しており、その大切でゼイタクな時間をどれほど無駄にしたのかはわからないけれど、言いたいことはなんとなくわかった。

UMAにも知性があり、それっぽいことを語り、人間の興味を誘う。それからしばらくの間、わたしは人生の時間を無駄に費やしてみた。ほんの十七ヵ月くらい。

確かにネス男(あるいはネス美)は『ゼイタクな暮らしの心地良さ』には言及していなかった。ただわたしが一方的に、贅沢は心地良いと思い込み、幾ばくかの憧れを胸に秘めて時間を浪費したに過ぎない。

時間を無駄にしたことによって、わたしは何も獲得せず、有意義な変化もせず、ただ時だけが過ぎていった。経過に伴う感情の起伏が乏しかったため、無情と呼ばれても仕方のない体験であった。

生物としては細胞が何度か生まれ変わり、テロメアは短くなり、生涯における試行回数が(おそらく)減った。もう一度ゼイタクな暮らしをしたいかと問われたら、もういいかなとお断りするだろう。

彼(あるいは彼女)がその時間を無駄に過ごし終えた時、胸に去来するものがあったのだろうか。あの長い首の先に鎮座する小さそうな脳味噌の中で、悔恨や懺悔の念は瞬いたのだろうか。ネッシーは自らの大切な時間を、ただの一度でも無駄にしたことがあるのだろうか。


『時間は有限で、贅沢品だ。人生最高のゼイタクとは、時間を無駄にすることだ』と、ネッシーは言った。

以来、一度も姿を見せずにいる。


UMAが水面下で忙しく過ごしているとも思えない。
きっと、わたしの油断が足りないのだろう。

頬を伝う湖水を指で拭い、深く、大きく呼吸してみる。
空は明る過ぎるし、風は少しだけ冷たい。
でも太陽は心地良く、実にあたたかい。



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