臨機応変な女の話
「もういくの?」
あ、かわいい、と思った。すぐに顔を作った。
「そろそろ起きたら」
今日は2限から授業だったはず。そうでしょ。そうじゃなくてもいいけど。
「もう化粧しちゃってるんだね」
「だから今日は朝から、」
「もう行くの」
お互い、引き留められるほど、踏み込んだ仲じゃない。今日の予定ひとつ、左右できるほどの存在じゃない。
はっきりさせてしまったら、なにやってるんだか、という想いを、一人で抱えることになってしまう。はっきりさせないから、私の中では君も、なにやってるんだか、の共犯者なんだ、と思える。私がこの部屋をでたあと、君が、1時間でも10分でも、1分でも、なにやってるんだか、と思ってくれればそれでいい。
「いくよ」
私がこの部屋を出ていった後、君が本当は何を思うかなんて知る由もない。おそらく、君みたいな子は、おそろしく無邪気か、単なるバカか、若さゆえに時間の使い方なんて厭わないか、なんなのかわからないけど、なにやってるんだか、なんて思わないことも、うすうす分かっている。
「また連絡するね」
この期に及んで生まれる、行き場のない罪悪感。気怠げに漂う朝もやをもてあます、しょうもない通勤路。
今は、どうしようもなく一人でよかったな。浪費するだけの時間なんだから、なんだっていいと思いつつ、この時間をいかに快適に過ごすかを求めることは、やめられない。
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