自分の住まいが風景をつくる ー借景ー
ライフスタイル02
日本には古くから、自然の景色を自分の庭に取り込み、風景としての庭を作る巧みな技術と知恵がありました。 それが、借景です。
設計を始める前に敷地を見に行った際、常に留意している要素が、この借景です。
周囲に、半永久的に存在すると思われる公園の木や川などがあれば、その景観を、設計する住まいに積極的に取り入れる方法を検討します。
逆に、周りが空地であったり木造平屋建てであっても、将来それら全てがマンションやビルに建替えられた場合をイメージし、それでもなお、十分な光が入り風が吹き抜ける家を作るにはどうすればいいかを考えるのです。
しかし家の中から外の景色がどう見えるかという点に主眼があって、自分の住まいが外からどう見えるかという視点は、著しく欠けています。
日本ほど色々な住宅が混在している国はありません。
ペンション風の家、純和風の木造住宅、自や黄色に塗られた輸入住宅、ロココ調の家。統一感もなくただ無秩序に並んだ一軒一軒を見ると、互いに個性を表現しょうと懸命なのに、全体を見ると逆に、我が国の住宅の貧しさが却って際立ちます。
美しい街並みも一軒の家から始まるという視点や、自分の住まいが風景を作っているという意識こそ、住環境を語るうえで、本来欠かすことができません。
かつての時代のように、一様に貧しく、使用できる材料が限られていた時代には、屋根にしても外壁にしても、結果としてそれなりに統一感が取れており、当時日本を訪れた外国人の多くが、美しい街並みを絶賛した事実を見るとき、進歩とは何なんだろうと考えさせられます。
日本の住文化形成において、きわめて大きな影響力を持つハウスメーカーは、全国津々浦々まで同じ材料の同じ建物を供給し売りまくりました。
その結果、都市風景ばかりでなく、地方の農村風景まで激変してしまいました。
長野県の山奥で見た光景を、私はいまだに忘れることができません。
生まれ故郷に住まいを建て、東京から移り住みたいという建主さんがいらっしゃいました。
町が造成し分譲した現地を見るため、長野駅から単線に乗り換えて、 40分ほど千曲川沿いに北上し、小さな無人駅で降りました。
童謡の歌詞に出てくるように、菜の花畑や、小川や、起伏に富んだ風景は、想像以上に素晴らしいものでした。
しかし、建主の案内で分譲地に立ったとき、既に竣工した家々は、石やレンガ調の箱形住宅に、ブルーや黄色の塗装が施してある輸入住宅で、なんと東京のハウスメーカーが建てている住宅でした。美しい山里の調和を乱すちぐはぐな光景を見て、つくづく悲しくなりました。
建築家の原広司さんは、今から30年以上前、1970年代頃のデベロッパーの宅地開発の有り様を「泣けてきそうな風景」と評しました。
いまや外の環境に、積極的に参加する住まいづくりが求められています。
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これまでに300以上の住宅を手掛け、富な実績を元に、本当に居心地のいい、家族が元気になる住まいをご提案します。noteでは住まいで役に立つトピックスを連載形式で公開します。