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東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #2

テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)

このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)

第1回 青い鳥プロジェクト座談会

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2020年3月5日。この日はもともと、私たちが2020年に企画していた「すこやかクラブ”青い鳥”プロジェクト」広報のため、メンバーの写真撮影と座談会を企画していました。このプロジェクトについてメンバーが話し合う内容を記事にして、プロジェクトの全容を伝える広報紙をつくろうという目論見です。
会場は、メンバーの鵜沼ユカがご主人とともに経営しているバル「マホラ食堂」。記録写真撮影のために写真家のbozzoさんもお招きしました。

結果、この広報紙も、「すこやかクラブ”青い鳥”プロジェクト」も、この座談会の後にメンバー間で繰り広げられるたくさんの「あーだこーだ」を経て、2020年のうちには世に出さないことになります。

ここには、この座談会の記録を、広報紙用に私が書き起こしたものを載せてみます。まず最初に語られるのは、このプロジェクトで題材とする予定だったM・メーテルリンクの戯曲「青い鳥」について。いま読み返すと、当時よりもはっきりと、この戯曲が持っている強さを感じられるような気がします。

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2020年3月5日木曜日。晴れ。午後の3時。

すこやかクラブ・メンバーの鵜沼ユカが夫婦で営むバル「マホラ食堂」では、今日も夫妻が、愛息子・ハルキをおんぶしながらの仕込み作業中。店舗の2階には、座談会のため、主宰のうえもとしほ、メンバーの石原夏実、向原徹(制作担当メンバーの笛木かなえはお休み)、そして写真家のbozzoさんが集いました。

いま、何を感じているの? そして、何をするの?

プロジェクトについての意気込みなどを話し合う予定だった座談会は、その場で考え、企画自体をもう一度練り直す、企画会議へと化してゆきます。

もとから真っ直ぐには進まないすこやかクラブの話し合いに、いろんなベクトルが交差していくその様子は、こうして文章にしてみると、なおさら、読みづらいかもしれません。
でも、そこから何かがじんわり立ち上がってゆく。そんな現場の様子を、出来るだけそのまま残しておけたらと思っています。

そもそも なんで「青い鳥」なのか

3人:よろしくお願いしまーす。
メンバー・石原夏実(以下、な):えっと、いまどういう順番で話そうかなって向原くんと話してたんだけど。
主宰・うえもとしほ (以下、う):うんうん。
:そもそも私たちは、日本では主に子ども向けのお話として親しまれている戯曲「青い鳥」を題材にして、1年かけて色んな形態で作品を発表しようと思ってるんです。舞台公演だけじゃなくて、いろんな形態で。
:うんうん。
:その詳細は、のちほどじっくり話すことにして、まず、何で「青い鳥」がいいと思ったのか、やりたいと思ったのかっていうのを、最初に言っておいたほうがいいと思うんだ。
メンバー・向原徹(以下、む):うん。
:うんうんうんうん。…あ。これってさ、録音してんのかな?
な・む:してるよ(苦笑)
:あーあーそっか、よかったよかった。
:してるよー(笑)
:ごめん、(録音ボタンを押すのを)見てなかったからさ。

:前から「青い鳥」がいいって言ってたよね。
:あー、そうそう。
:もうほんと、3、4…何年も前。…カンパニー化(※ それまで、うえもとしほのプロデュース公演として作品上演を重ねていた「すこやかクラブ」は2016年1月よりメンバーを迎えて劇団化した)する前、かな?
:え!?本当に!?だってうちが「青い鳥」読んだのって、2年くらい前だよ。
:あーじゃ、違うか。それぐらいの感じか。「あーじゃあやろうやろう」ってなって、結局頓挫して。
:それ知らない。
:うちも…覚えてない。
:あっはっは。
:うーん、そのくらい前から、この人「青い鳥」やりたいんだぁーって。
:あーでも、読んで…すぐ面白いなって思ったからー。それぐらいのときに何か、話したことあったのかもね。
:うん。
:何でなのかな?何で読んだんだっけ?そもそも。
:SPAC(※ 静岡県の文化政策の一環として1995年に発足した劇団。初代芸術総監督鈴木忠志のもとで本格的な活動を開始。2007年より宮城聰が芸術総監督に就任)の俳優さんから勧められて。利賀演劇人コンクール(※「地域を越え、国際的に活躍できる演出家の発掘と養成」をコンセプトにした演劇コンクール。富山県南砺市利賀村で開催されている)で、なんかその、「青い鳥」を、他の方の演出で、やった、っていうのがあって。
それで、なんか、創造舎(※「たちかわ創造舎」。立川市にある旧多摩川小学校の校舎や体育館を活用した文化創造施設。すこやかクラブは、シェア・オフィス・メンバーとして在籍している)行ったときに、何でそれを渡されたのか分かんないんだけど、オススメなのよ。みたいな。
:ふーん。
:それでね、なんか、うん。いいよ、持っといてって。他の人にも勧めて、みたいな感じで言われて。
:すごい。(M・メーテルリンク著『青い鳥』新潮文庫 堀口大學訳を指して)これ?
:あーそうそうこれこれ。これと同じやつ。それで…なんか、読んだら面白いなと思った。
3人:(ちょっと沈黙)
:(笑)
:え?
:あ、うん(苦笑)なんか読んだら面白いなーと思って、で、やろう!って思ったってこと?(笑)
:あ、それは、なんか、あ!すごい面白い!って思って。
:「すごい」付いただけじゃん(笑)

何が言いたいのか全然わかんないところがいい。

:いや、それで、なんか、「青い鳥」ってさ、漠然と、知ってるじゃん。幸せの象徴が青い鳥で、それを探しに行ったけど、なんか、すぐそこに幸せはあったんだよ、みたいな。そういうほっこりした話かなみたいなさ。
:あー。
:なんとなく思ってる、みたいのが、あったんだけど、読んだら全然違って。な:うん。
:なんか…すごいさ、動物を虐待したりさ。
:するよね!
:そうそう。
:チロでしょ?チロ。
:主人公のチルチルがさ、すごい、犬を虐待したりしてさ、
:ははは。すごいよな。
:で、犬は犬でさ、なんか、子ども殺されてんのにさ、川に流されてさ、でも、ご主人様に付いていきますみたいになってさ。
:忠犬なんだよねえ。
:怖えなって、思って。
:あ、怖いんだ。怖いになるんだ。
う:うん、何?と思って。しかもなんか、死者の国みたいのが出てくるけどさ、なんか、結局何にも出てこないじゃん。
:あれすごいよね。
:何?これ、なんのための章?みたいな。すごい好きなんだけど、でも、何が言いたいか全然分かんないみたいな。
な・む:うん。
:で、最終的にうち、何が言いたいのか全然分かんないと思って。そこがいいなっていうか。
:あー、はいはいはいはい。
:そういう、アクの強い要素っていうのは元々好きだから。

すこやかクラブ作品の特徴にも通じる、「ねじれ」感

:つまり…何が言いたいのかわかんないっていうのが「すこやかクラブっぽいね」(※参照:過去作品ダイジェスト)っていうこと?
:うん。なんか、通じるものがあるんじゃないかなって。
:ああ。
:でもなんかこう、熱いものを感じるっていうか(笑)なんかよく分かんないんだけど、これを書きたいんだ!っていうさ、描写とかに。
:そこなんだよねえ。なんか、こう、すごい皮肉を…感じた?
:あーうん。人のことを、人間社会のことを、あんまよく思ってないんじゃないかなって。人間、奢りすぎじゃない?ってメーテルリンクさんは思ってんじゃないかなって、感じたっていうか。
:うんうんうん。
:森にいる木の精霊とかもさ、人間に対して「俺たちを殺しやがって!」みたいなさ(笑)
:怖かったねーあそこね。
:私が気になったのは、人間以外のものたちが人間に対して怒ってるっていうシーンであっても、そいつら自体が擬人化されてて、結局、人間の悪い部分を持ってるっていうのが。そこが、なんか、ねじれてて、なんなんだろうって。
:うん。…あ、ごめん、どゆこと?
:あ、だから、今うえちゃんが言ってたシーンでも、森の木たちが、政治家の派閥争いみたいに、木の世界の中でも偉いやつにヘコヘコしたりっていうことをしてるわけじゃん。そういう風に、本来人間とは別の次元にいるはずの精霊たちが、結局、人間味を持っちゃってるっていうのが、なんか、一筋縄じゃいかないなって。
:あー確かにそうだね。
:で、またこの、メーテルリンクの他の著作も読んでみると、
:うん。
:哲学者ではないけど哲学書みたいな本書くし、詩人だし、戯曲も書くし、「神秘主義者」って自分で言ってるし、「魂」ってやたら言うし(笑)。やっぱり一筋縄じゃいかない。でも…結局、人間は根本的にはいい人なんだ、って言ってるなって、私は思ったの。
う・む:ほー。
:魂、魂ってやたら言うから、なんだよ!って思ったんだけど
:あはは、なんだよって思ったんだ(笑)
:うん。私が読んだのは、主に「貧者の宝」と「限りなき幸福へ」っていう本なんだけど、それで私が解釈したのは。一人に一個、魂があってさ、高い次元に魂の生、低いところに日常の生、っていうのがあって。こっち(日常)で起こったことを、魂が、浄化するんだって。
う・む:あー。
:で、こっち(日常)で、恋人たちが口づけをしているときには、魂たちは、涙を流しながら抱擁し合ってるんだって。でも、魂は、その最初の接吻の衝動をずっと保ち続けられるんだけど、こっちの低い次元の世界では、みんなそれを忘れていってしまう。
:うーうんうん。
:みたいな、魂の生と日常の生の関係が、何パターンも書かれてて。つまりはここ(魂)は、いい人なんだ。性善説なんだ、って思って。
う・む:うーん。

左から うえもとしほ 、向原徹、石原夏実

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:うち、他のメーテルリンクの「蜜蜂の生活」ってやつ読んで、まだ読みきれてないんだけど。結構、蜜蜂と人間の対比みたいなのをしてて。それだけ読んでると、蜜蜂が人間より劣っていると言う人がいるが、人間だってどうなんだって言ってて。だから、人間のことを…人間ってなんだろうってことを、すごい、すごい一生懸命考えてる人なのかなって印象を受けたけどね。
あと、これ(M・メーテルリンク著『貧者の宝』)ちょっとだけ読んだんだよ。それ読むと、日常の奥の方から見ると、幸福になれるぞみたいなことなのかなって思って。
:うん。
:例えば、日常で嫌なことがあったとしても、果たして本当に嫌なことなのか?みたいな。
:言うよねえ。
:もしかしたら、嫌なこと自体が自分を助ける何かになってるんじゃないかみたいな。そう言うことが、起きてるんだぞ、魂レベルで。みたいなことなのかな?っていう。
:ねー。でもさ、そういうことを読んでると余計にさ、青い鳥で感じた皮肉精神っていうのが薄れてきて、この人、やっぱりストレートに、青い鳥は、幸せは、あなたの日常の中にあるんですよってことを言いたかったのかなって思うんだけど。
:うんうんうん。
:青い鳥だけ読むと、なんか…突っかかってくるなぁみたいな(笑)ところあるじゃん。
:ほんとほんと。
:こうなのかな?と思うと、真逆ではないにしても別のところに連れていかれるような、ねじれた感じをすごく感じるよね、メーテルリンクさんには。

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ここから、座談会はプロジェクトの全容と、それを当時の状況下でどうやって実現できるだろうか?する必要があるだろうか?という、「あーだこーだ」に突入してゆきます。

またまた次回へ続く。

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