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東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #8

テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)

このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、2020年2月以降、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)

3月いっぱいの「あーだこーだ」を経て

すこやかクラブが2020年の1年間を通して様々な展示・イベント・上演などを構想していた「すこやかクラブ 青い鳥 プロジェクト」。戯曲「青い鳥」をテーマに、イラスト展やワークショップなど、様々な形態で作品を発表しながら、年末の本公演を目指すという企画でした。
COVID-19の感染拡大を受け、3月5日の第1回 座談会で、その企画内容を大きく変更し、実現に向けて動き出しました。その後も刻々と変わる状況のなか、3月末までには、以下のような企画内容となっていました。

4月 ウェブ版「あおいとり展」+"ギフトボックス"
主宰・うえもとしほ が戯曲「青い鳥」をテーマに描くイラスト20点ほどを、ウェブ上で公開。同時に、メンバーの石原夏実、向原徹それぞれによる「青い鳥」をテーマにした小パフォーマンス作品も、動画やテキストなどの形式を用いて同ウェブサイト上で公開する。
また、これに関連した”ギフトボックス”も販売。各作品をより立体的に体験してもらうための関連グッズをベースに、プロジェクト内で今後展開される公演等のチケットや、各メンバーから購入者に向けた様々なリターンなど、ボックスの中身を選択できる「クラウドファンディング的な」グッズとする。

4月 フリーペーパー「すこやか手帖 第1号」を発行する
年間で全3回程度発行するフリーペーパー。そのときどきの「青い鳥プロジェクト」の進行具合や計画を記す。

6月 ウェブ版「あおいとりremix展」+オリジナルパンフレット
うえもとしほ が、様々なジャンルで活動するアーティストに呼びかけ、戯曲「青い鳥」をテーマにした作品を、ウェブ上に開設する「あおいとりremix」ギャラリーで発表してもらう。また、月末には、うえもとしほと、参加アーティストたちとのトークをウェブ上で配信。作品についての理解や、この状況下で作品製作をすることについて意見を交わす。また、それらの作品を画面を通してだけでなく、実際に手に触れて味わってもらうことを目的に「あおいとりremix」オリジナルパンフレットも販売する。

8月 体験型演劇イベント「真夏のたちかわ怪奇クラブ2020」
   ※ 関連ワークショップを6月から開催

11月 すこやかクラブ本公演「すこやかクラブの青い鳥」

第2回 青い鳥プロジェクト座談会 その1

企画実現に向けて動いたり、くじけたり、惑ったりした3月を経て、私はメンバーに「第2回 座談会をやろう」と呼びかけました。
できる限り、テレワークやリモート会議など、移動も接触も伴わない働き方への移行が呼びかけられるようになっていた4月頭。(私がZOOMを始めて使ったのはその翌週。いわゆる「ZOOM飲み会」というやつで、その直後から個人の仕事で頻繁に利用することになりますが、たった1週間前のこの時点ではそんなこと考えてもいませんでした。)すこやかクラブでは元々、メンバー間の打ち合わせにLINE通話をよく利用していたこともあり、第2回 座談会は4月2日の22時からオンラインで開催されました。
…ところが。言い出しっぺの私がよくやる失敗。娘を寝かしつけてたらうっかり寝落ち。ハッ!と目覚めたときにはすでに22時30分を回っていました…。

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石原夏実(以下、な):ごめんごめんごめんごめん!!!!
うえもとしほ (以下、う):おー。いえいえいえ。
笛木加奈江(以下、ふ):よかったよかったー。お疲れー。
:すいません、ほんとすいません、すいません。…えっと、ええっと。なんの話してた?
:先が見えないなかで「青い鳥プロジェクト」を進めるってことがどうなんだろうって…どうしたって作るにあたって人に会わないといけなかったり、作ったものを見てもらわなきゃいけないんだけど、見にこれるような現状でもなくなってきてしまっているから。一旦、心から「見にきてよ!楽しいよ!」って言えるときまで、こういうことを考えています。ってことを言うのはどうかなって。
現状でできることは何かなっていうと、すこやかクラブとしては「シャキーン!」出てるし、活動が止まってしまってるわけではないから。それに加えて、おうちでもほっこりできるものを発信するのもいいのではないかーみたいなところを。話してました。
:うん。…うん。と、いうと???
:4月の、ウェブ上での「あおいとり展」は、いま、みんな準備も進めているし、やれるけど、(8月の)怪奇クラブを本当にできるのかっていうのはいま判断するのが難しかったりするから。例えばだけど、4月はやりますと。で、その後もこういうことをやろうと考えていたけれど、それは事態が収束してからやりますってことにして。来年同じ時期にやろうと、今は、今はね、思ってるっていう風にしてもいいのかなって。思ってる。
:うんとー、「青い鳥プロジェクト」っていうものを、どうするっていうことなんだろ?
:えっと…つまり「青い鳥プロジェクト」は来年に延期するってこと。
:…ふぅーーーーん。なるほど。うんうんうん。…来年に延期するけど、「あおいとり展」だけはやる、ってこと?
:うん。それでもいいんじゃないかなって。今回はウェブ上だけど、来年はリアルに、会場でやるよっていう風にはできるのではないかと。
:ふうーん。そっか。…そっか。
:さっき向原さんも言ってたんだけど、秋口ごろまでは、コロナが収束しないんじゃないかなっていう意見もあって。そうすると、他のやり方を、ってなるんだけど。そうなると(方法自体にフォーカスが当たってしまって)「青い鳥プロジェクト」が霞んじゃわないかなって気持ちがあるっていうか。舞台でやりたいっていう気持ちが一番にあるから。だから、秋口ぐらいまで収束しないんだったら、来年改めてやりたい。っていう。
:本公演とかはできないにしても、いまみんなが作ってたり、できることは発表していってもいいと思ってるんだけどね。
:えっと、ちょっと、聞きたいことがあるんだけど。
:うん。
:怪奇クラブ以降のプロジェクトは中断するっていうつもり、なのかな?
:うんうんうん…うん…。
:そういう何か、上演する以外の発信をするつもりは、ありません。ってことなのかな。
:あ、発信をする気持ちはあるけど、それを「青い鳥プロジェクト」でやるのかっていうと、別で考えた方がいいのかなって思う。
向原徹(以下、む):「青い鳥プロジェクト」をウェブで終わらせるっていうのが、勿体無いってことだよね。
:そうそう。今年1年、公演じゃないものを、「青い鳥プロジェクト」としてやるのが悔しいっていうか、悲しい。っていうのが、ある。
:うん。うんうん。…そうだね。いまむしろ、そもそもやりたかった「青い鳥」っていう題材に、この状況に対して私たちはこれをやります、っていうのが一緒くたになっちゃってて…
:そうなんだよね。
:ごちゃごちゃになっちゃってるから(笑)
:私たちこの状況で何ができる、っていうのは大事なんだけど、それで「青い鳥」が霞んでるのが、悲しいっていうか。

(メンバーの鵜沼ユカが通話に参加してくる)

:あ、鵜沼じゃない!?
:鵜沼だ鵜沼!
:ねえ、これみんなさ、ビデオ通話にできるの?写真撮りたいんだけど!ていうか、鵜沼だけ白黒なのは何でなの?(笑)
鵜沼ユカ(以下、鵜):わかんない。
:向原さんがめっちゃ髪の毛かきあげてる!向原さんがめっちゃ髪の毛かきあげてる!
:あ、むっくんごめん、もう撮っちゃった(笑)
:え?
:私なんで白黒なの?やだ。
:ははははははは!

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(写真:左上から時計回りに 石原夏実、向原徹、鵜沼ユカ、笛木加奈江、うえもとしほ )

:何話してた?
:ええっとー、「青い鳥プロジェクト」としてやろうとしてたことと、いまこの状況に対して何ができるかってことを一旦切り離して、上演形態をとるものは、私たちが快く上演できる状況になったときにやります。ってことにして … って、いや、向原くん、髪型が。

(向原、髪の毛をすんごいかきあげてる)

:集中できない(笑)
:え、何それ刈り込んだわけ?サイドを刈った、のを見せてくれたの?いま(笑)
:違う、いや、見せたわけじゃない。ただ暑かっただけ。
:(苦笑)じゃあ、えっとー、まあ、「青い鳥プロジェクト」は寝かしつけるということで…
:寝かしつけちゃうんだ(笑)育ててくんじゃなくて、寝かしつけるの?
:寝かしつけるってことは、だから、育てるってことだから。発酵させるみたいな。
:あ、発酵させる!ぬか床に漬けるみたいな?
:パンの製造過程だからさ、
:膨らませる?
:単純に、寝かす、でいいんじゃないすか?
う・な:ああ。寝かす。
:寝かしつけるっていうと終わっちゃいそうだもんね(笑)

”それどころではない”現状

:で、話変わるけど、今このタイミングで「青い鳥プロジェクト」のことを発表すること自体についてはみんなどう思ってるのかっていうのが。ちょっと聞きたかったんだ。
:あー、うーん。そうね…。(3月頭に予定していた)4月2日ではなかった、ってことだよね。じゃあ具体的にいつなのか、ってことまでは考えてなかった。いろいろ状況が変化して、これはズラしたほうがいいなって思ったってとこまでしか。
:(ウェブ版「あおいとり展」で発表する)ダンス動画はいつまでに仕上げる?っていうのもあるし。
:あ、うんうん。各自が家とかで、別々に動画を撮って、編集して、仕上げるっていう風にしようかとも考えてるって前に聞いたけど、やっぱり集まって撮るってことだよね。
:うん。そうです。もう…違うなって思った。はははは。
:え?
:別々に撮って寄せ集めるっていうのは、やりたいこととは違うなって、心底思って。
:うんうん。
:…集まること自体がもう、ちょっと、よくないなって思う自分も、みんなも、いるけれど。本当に最小限のなかでできることは家でやって、集まって稽古して、ていうことをしようとしてる。
:うんうん。だからその、期限をどうしようかってことだよね。うちも、デカイ絵(ウェブ版「あおいとり展」で発表する予定の絵。全長4m・色鉛筆のみで描く)を4月15日までに仕上げようとしてたのに、まだ…ちょっと描けてないんだけど(苦笑)

:むっくんは、そろそろ上がらないとだよね。最後にこれだけ意見お願いできます?

:えっと、ごめん。発表のタイミングってことだよね。うん…。
いま、僕がこの状況で、テレワークなんですよ。それでわけわかんない状況のまま仕事してたりするのね。結構、慣れてないからさ。
それで、世の中さ、みんなそんな感じだと思うの。普通に働いてた環境で普通に働けないような状況で。ツイッターとかSNSとか見てても、正直、芸術のこととか、あんま入ってこないんだよね。ウェブ演劇とか見てても、ああ頑張ってるなぐらいにしか思わなくて。
それよりか、どういう生活スタイルがいいのか、何を買ったらいいのか、それに一生懸命で、あんまり表現にいかないっていう感じだから。僕がね。他がどうか知らないけど。 
だから、4月2日ではない、っていうのはわかる。
ただ、もしかしたら1ヶ月後、そういうことをやってるってことに、僕とか僕の周りの人たちも関心もってくれるのかなあっていうのが、1ヶ月後なら、っていう数字の根拠。
結構自分もいっぱいいっぱいなんだよね。
:うんうんうんうんうん。
:そうだよねえ…。
:まあみんなそうだと思うんだけど。…みんなっていう言い方は暴力的だけど、僕と僕の周りにいる人たちは、っていう。
:うんうん。
:1ヶ月後にはなんか、そういう、心の余裕が自分にも、できたらいいなあ…(苦笑)と思いながら。うん。ちょっとすいません。
:うんうん。いいよ。ありがとう。頑張ってねー。
:おつかれー。
:おつかれー。
:…ぷっ、ちょっと、向原さん、髪型(笑)

(向原、無意識に髪を9:1の横分けにし始める)

:なんで全部横に流してんの(笑)
:いいんだよもう寝るだけだから。
:なんで…(笑)
:あれ、これどうやって切るんだ。
:自分のとこ押すんだよ。
:ふはははははは(笑)
:わかった?

(向原、退出)

:あ、消えた。
:ははははははは(笑)

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ひさびさにメンバーの顔を見て話ができて、くだらない話にも花が咲くなか、メンバーがそれぞれにこの状況に翻弄されている様子も垣間みえてきました。

次回は、ますます「あーだこーだ」。それぞれの生活と、やりたいことと、求められているものと、何ができるのか、と。あれもこれもがぐるぐると巡っては、悩ましさを増してゆきます。

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