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東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #7

テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)

このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、2020年2月以降、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)

年間を通して取り組むはずだった「すこやかクラブ 青い鳥 プロジェクト」を、どうにか実現させようと「あーだこーだ」し続けた3月。
今回の記事では、私個人の動きを中心に3月を思い返しながら、長かった3月についての記述を締めくくりたいと思います。

ラジオとテレビ

3月には、「すこやかクラブ青い鳥プロジェクト」とは別で準備を進めていた企画が2つ、スタートしました。

ひとつめは、オリジナルのウェブラジオ番組。
2018年の舞台作品に登場した架空のラジオ番組を、youtube上で番組化した「ゆっこのミッどナイトホッパー」です。

唐突なポジティブさと、妙に淡々として掴み所のない語り口がクセになる、ラジオパーソナリティーの「ゆっこ」こと「如月ゆうこ」による5分ほどのトーク番組。実際にお寄せいただいたお手紙を元に、うえもとがテキストを書き、石原が宅録しています。毎月第1・第3金曜の深夜に配信を続けて、6月現在で全8回がアップされています。

ふたつめは、NHK Eテレ「シャキーン!」内の新コーナー「こんな民話があるんだよ」です。

本公演の共同制作をはじめ、数年来お付き合いのあるバンド「馬喰町バンド」とともに、全国各地の民話を歌と踊りで紡ぐ1分ちょっとのコーナーです。
すこやかクラブとして初めてのテレビ出演。
6月末現在、2月の頭に撮影した2作品が、月に数回ずつ放映されていて、新作にも着手しているところです。

あちこちでつまずく3月のすこやかクラブにとって、この2つの企画がきちんと動き出したことは心からの救いでした。

惑う稽古場

ウェブ上で映像としてアップすることになった私のダンス作品「こうふく」は、3月12日に初めての稽古をしました。
出演者はダンサーの福島梓さん、甲斐美奈寿さん、高橋由佳さん、そして私です。
皆それぞれに、海外公演や、東京都が主催や後援に入っている作品に出演が決まっているものの、なかなか渡航日程が確定しなかった挙句に中止が決まったり、公演は延期になっても稽古は続いていたり、と、様々な状況に翻弄されていました。

「こうふく」も映像で発表することになったとはいえ、稽古はしないといけない。
たった4人とはいえ、ひとところに集まって稽古することがどのくらい危ないことなのか、誰にもわからない。しかも、私は、7月に出産を控えた妊婦です。
今となっては、えー、それならすぐやめたほうがいいよ、と思うところですが、当時はまだインストラクターとしてスポーツクラブやスタジオでの勤務も続けていたし、やはりそこまでの危機感は持っていなかった。

それでも、12日の稽古時点で、極力稽古回数を減らし、1度の稽古時間も短縮しよう。という提案をして、結局、つぎの稽古はこの2週間先、30日となりました。

ロックダウンってなんだ

この3月12日からの2週間で、桜が咲いて、雪が降って、春分の日からの3連休がありました。
「こうふく」の撮影を快諾してくださったご家族のお宅へ下見に伺ったのも、この連休中でした。妊娠中の私を気遣って、わざわざ車でお迎えに来てくださり、せっかくなので、と、お弁当を広げに代々木公園へ立ち寄ることにしました。
毎年のクレイジーな人混みを思うと、なんて穏やかで平和なんだ…と、ほっこりする光景。噴水周辺の芝生には、お互いが安心できる距離を測りあうとこんなに均等になるのかと可笑しくなるほど整然とシートが並んでいて、大声で騒ぐ酔っ払いの声も聞こえません。
私と2歳の娘、そして、うちの娘の半年後に生まれた息子くんとそのご両親。思いがけず、のんびり花見。これが後々になって「気が緩んだ」と揶揄される3連休なわけですが、あのときの光景が、あんまりにも穏やかで暖かくて、県外への移動の「自粛」が「解除」された6月末現在の街中と、どっちが危ないんだろう、一体何を怖がればいいのだろうと思ってしまいます。

連休が明けてすぐの頃だったと記憶していますが、娘をお迎えに行ってから公園で遊ばせていたときのこと。娘のお友達のお母さん、いわゆるママ友の買い物袋に歯ブラシを数本見つけて「歯ブラシたくさん買いましたね」と笑うと、「うんー、一応、ロックダウンに備えて買い溜められるものは、ちまちま買ってて。」との返答。
…ロックダウン、って?
欧州の都市で実施されているとは聞きかじる程度に知っていたものの、その響きがなんだか大仰に感じられて、「へえーそうなんですねえ」と空返事をしてその場は過ぎてゆきました。

24日にはオリンピックが延期になって、その翌日には唐突に感染者数が増えて、なんだか狐につままれたような気持ちでいるところに、
「都庁に勤めてる友達から"4月1日から東京もロックダウンするかも"って連絡きたよ」と、夫からLINEが。やれやれ、とため息をつきつつ買い物に出ると、さすが2月末からトイレットペーパーが買えない状況がまだまだ続いていたわが町。パスタや缶詰、そしてなぜか、卵と肉と牛乳がごっそり姿を消していました。
なんじゃこりゃ、と呆れると同時に、呆れているだけじゃ家族を守れない、という焦りにかられて、とにかく目についた日持ちのする食材を買い込んで帰り、きのこなど冷凍保存の効くものをとにかく小分けにして冷凍庫に詰め込みまくっていた深夜。アドレナリンというか、充足感というか、”やってる感”にとらわれている自分に気づいて、「あ、これ危ないやつだ」と直感しました。
これじゃどこまでも流される。

3月29日のやり取り

そんな折、すこやかクラブのグループLINEでは、こんなやり取りがありました。

夏実:
そもそも、そろそろ、(8月に予定している)怪奇クラブも(11月に予定している)本公演もできないかもしれない、その場合はどうする?
ということを真剣に考えなくちゃいけないと感じています。

うえもと:
これはうっすらと思ってた。。本公演まではまだ考えてなかったが、怪奇クラブもしや、、、とは。
それを考えると、そもそも青い鳥プロジェクト全体どうする?に関わってくるのかしらね。

夏実:
そこだね。
もう、そもそも「あおいとり展」から、人を集めて公演をすること以外の新しい道を探ろう、という試みをしているわけで。
飽くまで、舞台作品を作るのが私たちの一番の仕事だし、目的であることはきちんと提示しながら、今年1年、この方針を貫いてみるのもありなのかもしれないと。

うえもと:
(夏実がパフォーマンス動画に向けた稽古を中止しようか悩み始めていることを受けて)稽古は、人が集まる場になってしまうからどうなんだろう、てことだよね。

夏実:
そうなんだよね。
きっと今までも重大局面だったんだろうけど、、
欧米のたどった道のりをゆく可能性がある、ということを真剣に考えると、、、
知らないうちに広めてしまうのも怖いし、
仮にもわたし妊婦だしな、という…。
こうやって考え方も変わってゆくのだなあと思うし、実際、状況がどんどん変わっているんだよね。
だからこそ、私たちがどれだけ迷って何を考えているのかを記録してゆく「すこやか手帖」(前回記事をご参照ください)は、定期的に発刊するべきだなあとも思ったりするのです。

うえもと:
仮にも、、、笑。
そうね~。。確かにもやもやしたまま稽古するのは胎教にもよくないか。

夏実:
んー。ちょっと、まだ、ギリギリまで考えてみる。。みんなの意見も聞きつつ。
直接会っての稽古回数・稽古時間を極力減らして、撮影は一気にやる。というのが理想だよね。やはり。
編集するなら早めに録画もしまくって、編集作業をコン詰めてやる感じになる。
ちなみに、撮影日は今のところ4月13日(月)を予定してます。

いよいよ、このプロジェクト全体をどうする?という議題が登場してきました。
ただし、ここではまだ、発表形態は変わるかもしれないが、企画自体は続行する、ということが前提です。

それにしても「重大局面」なんていう言葉を躊躇なく使ってしまっているあたり、なんかワクワクしちゃってるよな、当時の自分。という恥ずかしさを感じます。反省。

このやり取りのあとで、「こうふく」出演者の面々にもこんなメッセージを送りました。

みなさま
こんにちは。
いろいろがいろいろな状況になっていますが、皆様お元気ですか?
わたしも、いろいろと思うことあり、作品のつくりや稽古の仕方などをいま一度考え直すかなあ…と悩んでいます。
この素敵なメンバーでのクリエイションは絶対に果たしたい!というか、果たすぞ!という所存に変わりはないです。そこは。全くもって。
まずは、皆さんの、稽古や撮影にあたっての考え(つまり広くはない場所で短くない時を共に過ごすということ)を聞かせてもらえますか???

すると、「考えがまとまっていませんが」「もやもやと考えていたのですが」と、みんな一様に悩みつつも、翌日の稽古には参加したい。と返事してくれました。

(写真:出演者の高橋由佳さんが撮ってくれた稽古後の面々)

翌30日の稽古では、iPhoneを縦に据え置いた画角のなかで、どんなことができるかを試しながら、いくつかの振り付けをしました。
これが、もう、このうえなく楽しかった。こんなに演出や振り付けを楽しいと思ったことがないくらい楽しかったのです。
何よりも、これは私がすごく気に入る作品になるぞ、というそこはかとない手応えがありました。これはどうにか絶対、形にしたい。と、思いました。

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次回はいよいよ、プロジェクトの延期を決めた4月のメンバー会議録へと進みます。

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