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相手の変化を感じて泣く

とりあえず今の感動を残したい。最後まで書けるかどうか。

今までで一番、情報量の多い一時間を、今さっき過ごした。人の話を聞いて、他人事の話を聞いて、こんなに感動をしたのは初めてだと思う。語られた内容からその人のとっても良い変化を感じて、そしてそれを本気で良かったねと思って、泣いた。(これがアブストラクト)

(ここからが1章)
前に付き合っていた人と電話をした。これは珍しいことではなく、実際に会ったのを含めると、今回が別れてから3回目の会話になる気がする。会話の内容の1割はしょうもないことと軽めの近況報告で、残りの9割は別れる前の事と、別れてからの事を振り返る時間。あの時はごめんねとか、このことは寂しかったとか、今までにやり残していた答え合わせを淡々と進めていく作業。毎回ある程度話し終わったら、「じゃあまた話したくなったら話そう。考えすぎることもないし、ゆっくり考えていこう。」みたいな感じで電話を終わらせていた。

今回の電話はわたしが言い出したことで(というか今までそうだったことしかないかもしれないけど)、『花束みたいな恋をした』の鑑賞後に思うところがあってすぐにLINEした。あんまりこの内容は本筋とは関係ないから適当にいうと、主人公の人生に対する考え方がまさに自分のものと重なるところがあって、自分の価値観をいい感じに客観視できたのでそれを伝えたくなった、という理由だった。

と同時に、自分の中ではなぜか今回の電話を最後にしよう、みたいな意気込みがあった。もう日常生活の中で良い意味では元恋人を思い出さなくなっていたし、ダラダラ続いてきた話し合いをやめて次の自分に進みたい気持ちがあったように思える。

(ここからが二章)
ということで電話をかけて話し始め、こちらの思うことをつらつらと伝え、1時間半ほど話し終えた後に「もっといい人がいると思うよ。私ではいつかあなたからは離れてしまうし、幸せにはできないと思う。」ということまで言って割と満足していたところ、相手がうんうん唸り始めてしまった。何か話したいことがある様子だったが、伝えにくいようで、引き出すのには少し時間がかかった。

ようやく話してもらうと、私の今日の話し方に問題があるらしかった。この間の電話まではお互いがこれから変化していくことを認めていたような話し方だったのに、今回は私が完全に今までの事を過去の事として、未来の無いような喋り方をしていたことに引っかかりがあったらしい。(わたしが今回で電話を終わらせるという意図があったんだから、それが漏れなく漏れていたのだと思う。)

加えて、彼がこの二ヶ月の間で大きく変化したのに、私がそれをわかっていないことが嫌だ、ということも伝えられた。俺も別れてから言われた言葉を受け入れ、たくさん考えて、自分を変えてきたのに、私の頭の中では完全に前のままの彼で止まっており、それベースで全てを語られるのが悲しいし悔しかったと。

それを言われたとき、「なるほど、そうか。確かに私は変化した彼を知らない。」と思いつつも、今までそれを知る機会がなかった(過去の話をするばかりで、現在進行系の話は殆どなかった。)ので、頑なにごめんとも謝ることをせず、「そうかぁ。」と繰り返していると、 

(ここから第三章)
彼が、今までの二ヶ月間に自分に起きた変化や日常のことについて、ぽつぽつと話し始めた。時間にしては一時間だったけど、今までに聞いたことのない話ばかりで、終わってからは「今までで一番情報量の多い一時間だった」と口から出たほどだった。あまり詳しくかけないけども、少しだけ書いてみる。

例えば、会社の人事に大きな変化があり、自分が今までに学んだことを少しずつ教える立場になってきていること。しかし周りにできて自分にできないことも多く、それにリスペクトを払い教えてもらっていること。
今までの彼であれば、仕事の話をするときは、自分ができたこと、自分がやったすごいことの話が九割だった。それが、みんなで助け合いたいとか、新しく入ってきたことがこんなことができてすごいとか、全然話の仕方が違って、意味がわからないとさえ思った。仕事も少し落ち着いて、彼は自分のことをすごいと言って自分を保つことをせずとも、自分ができることとできないことをしっかりと分けて考えられるようになっていた。

他にも例えば、自分が前々から興味があったクリエイティブな活動を、やっと友達と始めたということ。一週間に2回は集まって、活動をして、着々と作品を匿名で出しているということ。コロナが収まったら、ちっちゃいとこでいいから外でもやってみようと思ってること。
前までの彼は、結果が出ないようなことに頑張るタイプではなかった。確実に周りから認められる選択肢を堅実に選び、そして周りに認められることに対して喜びを得るタイプだった。それが今では必ず失敗する選択肢を選び、自分の中での価値基準を大切にできている。これを聞いたときにはおばあちゃんの気持ちになって泣いた。 

また、あともう一つ大きな話があったけど、ここで書くには大きすぎることなので、自分の中に閉まっておく。確実に彼の中に変化を生んで、これから何を大切にして生きるかを考えるきっかけになったらしい。

(ここから第4章)
この話を聞いて随所随所で泣いた。彼の人間としての成長が目に見えてわかったから。就活の時から見守り、彼の価値判断を直ぐ側で見守っていた私からしたら、彼が自分をしっかりと持って行動していることは、本当に素晴らしく感動することであった。

と同時に、「あ、そっか。私はこの人と話す価値がないと今まで思っていたんやな」と、もちろんそれは偉そうなことだとはわかりながらも、強く実感した。

私が人間として一番嫌いなタイプは、価値を誰かに依存して生きているタイプの人間。簡単に言うと、人から認められることだけを生きる糧にし、社会的地位だけを重要視する人間。そういう人は「これがやりたい!」ということがなく、自分だけの大切にしていることがないから、見てて何も面白くない。自分がすごいということだけを話し続ける。

よく考えるとこれは全部前の彼に当てはまる話で、だからこそ私は彼の仕事の話を聞いていても一ミリも面白く思うことはなかった。(自分の成功した話ばかりをされて面白がる人は多分いない。)しかし彼のことは嫌いではなかったので、そんな彼を私は就活中も、社会人一年目も、「すごいね、頑張ってるね、」と中身のない言葉で励ましてきたんだった。

内定をもらった素晴らしい大企業に憧れを持ち、自分が仕事を任されることに興奮している彼を、ずっと私は上辺で応援し続けてきた。でも本当は、しょうもないなと見下していたんだった。だから自分の論文のクリエイティブな話や、自分の拘りを持つ音楽の話なんかを彼にはする気になれなかった。どうせわかってもらえないと思ったから。

でも今日の彼の話を聞いて、自分の話をしてみたいという気持ちになれたし、初めて対等に彼の話も聞きたいと思うようになった。彼が人間として好きだから、支えたいから聞きたいとかそんな理由ではなくて、彼がやってることや考えることが本当に面白いと思えるから、どんどん聞きたいという気持ちになった。こんなことは今まで3年近く付き合ってきた中で初めてだった。心が温まるのを感じるのと同時に、どれほど私が今まで彼のことを上辺で応援し続けてきたかを強く冷たく感じさせられた。

(第五章)
上記すべての気持ちを、割と号泣しながら彼に伝えた。前まではあなたの考え方を好きではなかったこと、それでも頑張れ頑張れと上辺で励まし続けていたこと、でも今日になって本当にあなたが成長したことを感じて、色々対等に話してみたくなったこと。「あなたのことが嫌いでした。」なんて、言ってもどう受け止められるんだろうと思いつつも言ってみると、彼は完全に同意してくれた。彼自身、過去の自分は嫌いらしい。

また、そうやってよいよいと上辺で励まし続けた私にひどく偉く感謝してくれた。辛い時期に自分を保つ方法は人それぞれだが、彼にとっては「自分はすごい!」と虚勢を張ることだった。それをわたしはわかりながら、そして嫌だと思いながらも、彼が頑張っていることは知っていたので、「すごいねぇ、頑張ってるねぇ」とおだて続けた。そうしてくれてありがとう、支えてくれてありがとうと感謝してくれた。

わたしからしたらそのように虚勢を張っている彼が彼の本質なんだと思っていたが、全くその考えは間違っていることに気付かされた。そのような「自分はすごい!」というポーズは、就活中と社会人一年目という自分が不安定な時期に、自分を守るための防具でしかなかったのだ。
 
今では社会人二年目が近づいていて、彼は一年目に死にものぐるいで増やした知識を携えることで、その防具を今では脱いで、しっかりと地に足をつけて人間として戦っている。そんな彼が生まれることを私は知らなかった。成長を感じて、良かったと心から思ったし、おばあちゃんの気持ちで泣いた。

ただ別にこれを聞いたからすぐに付き合いたくなったとか、そういうことはまったくないけれど、別れたときに感じていた大きな彼への嫌悪感や違和感は、ほとんどきれいに拭われた。これからまた対等に付き合って、交わることがあるかもしれないし、どうかはわからないけど、ひとまず彼が自分を成長させていったことに対して本当に拍手を贈りたいと思う。

後半まとまってないけどとりあえずこれで今日は終わる。


(2021/02/16に別アカウントで書いたものを転記しました。)

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