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ムエタイジムに毎日通う旅人の忘れられない一言

なんでもないシーンのさりげない一言が、ずっと心に残るーーー

そんな体験はないだろうか。
ぼくは定期的に思い出すある人の一言がある。

***

その人は8年前、世界一周ひとり旅をしているときに、タイのチェンマイという街で出会った男の人だ。2,3日一緒にいた気がするけど、名前を名乗らない人だった。ここでは仮に「ヒロシ」さんと名付けよう。(芸人の「ヒロシです...」にちょっと似ていたから)

ヒロシさんは、バンコクからチェンマイにやってきた旅人だ。チェンマイでムエタイのジムに通いはじめてから格闘技の面白さにハマって、2ヶ月くらい毎日通って身体を鍛えているといった。

当時ヒロシさんは30歳くらいで、僕は23歳の若造だった。

ヒロシさんは瓶ビール片手にムエタイの面白さや魅力を語っていた。僕もビールを飲みながら、楽しく聞いていた。僕もいってみようかな、なんて考えていた。

ある時、一緒に聞いていた女の子が、ヒロシさんに聞いた。
「ムエタイが面白いのはわかりましたけど、プロにでもなるんですか?」

ヒロシさんは言った。
「いや、プロになるなんてそんな。無理だよ」

女の子は返した。
「じゃあ、なんでそんなに一生懸命練習してるんですか?せっかく旅にでているんだし、観光地だってたくさんあるし、毎日練習している意味はあるんですか?ヒロシさんもう、30歳ですよ」

場の空気が一瞬で変わった。ヒヤヒヤした。こういう発言する人って、どこにでもいるんだよな......。

そしてヒロシさんは少し沈黙したあと、自信満々にこういった。

「意味なんて考えたことないよ。ただ今は、とりあえず強くなりてぇ」

女の子は理解できていないのか「?」な表情をしていた。「へぇ〜...」と言って、女の子は席を外して出ていった。

僕はしびれた。なんてことない、なんでもない一言だけど、「意味なんて考えたことないよ。ただ今は、とりあえず強くなりてぇ」に、しびれた。


***

何かをはじめるとき、なんでもかんでも意味を求めてしまう時がある。

「なんでこんなことやっているんだろう?」
「これ意味ある?」
「お金になる?」
「なんのため?コスパはいい?」

そうやって打算的に、頭で電卓をはじきながら動いてしまう時がある。

ヒロシさんも、意味なんて考えていたらムエタイジムに毎日通ったりはしていないかもしれない。
女の子からしたら「プロでもないのに旅人が毎日ムエタイジムに通う=意味のないこと」なのかもしれない。

でもヒロシさんは「ただ今は、とりあえず強くなりてぇ」んだ。

強くなることに意味なんてないかもしれない。強さを身につけた後に何が待っているかなんて誰にもわからない。「ただ今は、とりあえず強くなりてぇ」

意味づけしないと動けない
意味づけしないと価値を感じられない

そういう人になりたくない。でも

「コスパいいからやる」「稼げるからやる」「ラクそうだからやる」そんなことばかりいって、ついつい打算的に生きていると感じる瞬間がある。

そんなとき、いつもヒロシさんのあの一言を思い出す。

「意味なんて考えたことないよ。ただ今は、とりあえず強くなりてぇ」


強くなりてぇっす。

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