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どうして、学ぶの?|数学ガールを読んで

息子から、塾の宿題について質問された。「これ、どうやって計算するの?」


簡単な1次方程式。数学が苦手な私にも、これくらいは分かる。
でも、困ってしまった。なにしろ小5の前では、1次方程式として解いてはいけないのである。

それに私は、「私がなぜこの計算ができるのか?」がわからなかった。解き方は知っている。でも、解き方を説明できないのだ。……どうしようとなったとき、ある本のことが頭の中に浮かぶ。

『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』
数学ガールは、数学が好きな高校生「僕」が、年下のいとこや後輩たちと、数学について考え、おしゃべりしていく物語だ。

『学ぶための対話』では、僕のいとこ・ユーリと、そのクラスメイト・ノナが登場する。ノナは、「数学、ぜんぜんダメ」という女の子。

私は、彼らのおしゃべりを参考にして、次のようなことを息子に話した。

=の記号は、右と左の式が同じことを表しているのはわかるよね。
□は何か?を知りたいのだから、□=?というかたちにすると、□がわかる。
右の式=左の式のとき、両方の式に同じ数字をかけたり足したりしても、右=左になる。
つまり、□=?のかたちにしたら、□の答えが出るよ。

一緒に計算をしてみると、答えは出た。
「なるほどね〜」と理解したかのように思えた息子だったが……、似たような問題に手をつけなかった。小4で習ったはずの漢字も、7割くらい覚えていなかった。ちゃんと、書き取りの宿題をやってきたのにも関わらずだ。

またしても困ってしまう。
彼は、私の説明を理解していなかったのだろうか。もしくは、私の説明がわかりにくかったのか、まちがっていたのだろうか。それに、漢字が書けるようになるとは、どういうことなのだろう。そういえば私は高校生のとき、必死に英語を勉強しても、成績が上がらなかった。覚えきれない単語がほんとうにイヤだった。

数学ガールの「僕」も、ノナとのおしゃべりの中で、しばしば悩む。
たとえば、Y=Xのグラフを説明していると、ノナは点の色は何色なのだろう?と考える。さらに「暗記しますか?」「まちがいですか?」と、何度も聞く。そして、「ノナは頭わるいから」と言う。

「僕」は、自分のことを頭が悪いなんて言ってはいけないよと諦めずに、ノナと対話を重ねる。そして、なぜ彼女がそんなことを言うのか?の背景に、近づいていく。

物語の終盤、「僕」はノナに対して「どうして?」をくり返す。涙目になってしまうノナ。彼女は、これまでの経験から「自分は間違ってしまって、責められているのだ」と受け取ったのだ。「僕」に、スイッチが入る。

≪どうして≫は、理由を問うている。そして理由を問うことは≪考える≫ことに直結している。だから≪どうして≫という問いかけは大切なんだ。

『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』211ページより

コロナ禍で、子どもの教育まわりも大騒ぎである。
「子どもたちが学ぶ機会を奪われている」「オンライン授業を」という声が増えた。でも、「どうして」学ぶのだろう。そして学ぶ機会とは、学校へ行くことなのか、教室で先生の話を聞くことなのだろうか。教室で受けていた授業をオンラインで再現するとして、子どもは理解をするのだろうか。そもそも、教室で理解できていたんだろうか。テストの点は、理解の証明になるのだろうか。

管轄の教育委員会は、オンラインとテレビで学習動画を配信しはじめた。対面の授業であいまいになっていたことが、デジタルになったからといって解決するわけではない。

──それでも。やりはじめなくちゃ、改善点も良い点もわからない。
あれこれいろんな声が上がるだろうけれど、いつものずっとずっと早いスピードで、学ぶ環境が変化している。そこには、どうして学ぶのか?が問われている。

数学ガールの「僕」は、ノナがこれまで置かれてきた環境とこれからを憂いて、言いようのない不安と無力感に襲われる。ノナの近くには、「どうして?」と対話する相手がいないのではないか?と思ったのだ。

そんな「僕」に対して、ノナは「大丈夫」とほほえむ。「僕」はノナに、自分は何を考えているかを表現する、ある方法を伝えていた。彼女はそれを理解したから、怖がらずに自分自身の力で学んでいけることをイメージできるようになった。

ひとりでもみんなでも、どんな手段でも、対話することが学びを動かしていく。頭のなかで自分と、家庭で子どもと、オンラインで先生や友達と、話そう。

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