バイトの思い出シリーズ@高級カフェ

高2の時、カフェでバイトしていた。

チェーン店ではなく、コーヒーはサイフォンで出し、サンドイッチにはローストビーフが入っているような、少し高級なカフェ。

故にお客さんは、経済的にも精神的にも余裕のある年配の方が多かった為、いつもゆったりとした空気が流れていた。

ドトールしか勝たんと思っている庶民の私は普段近づかないような高級店だったが、バイトとして入ってみると女性の店長も気さくな方で、

ロイヤルミルクティーをいつも注文するおじいさんを裏で

「ロイヤルジジィ」

と呼んでいたり、

いつも大きなリュックでご来店のおばさまを

「登山家」

と名付けたり、

暇なときチラシの裏でONE PIECEのルフィの練習をしていたりする姿を見てすぐに馴染めた。

(もっとスネ夫のママみたいな人かと思ってた)


ある日、出勤すると初めましての方がいた。

挨拶をすると、今日が初出勤らしい。

ノーメイクでひょろりと細く、赤いメガネが可愛らしい井下さん(仮名)という女性だった。

井下さんは話してみると同い年ということがわかり、親近感が湧いたのでぜひ仲良くなりたいと思った。

当時店は人手不足で、さすがにランチの時間帯なんかは忙しかったので井下さんは歓迎された。

しかし、井下さんははっきり言って、仕事がまったくできなかった。

まず、あがり症でまともにお客さんと話せなかった。緊張からか舌が回らず、

「メニューお持ちいたしやすッ!」

「お待たせいたしやした!」

“下っ端”みたいな噛み方をよくしていた。

「らっしゃいやセェッ!」

元気だけは良くてウケる。

お客さんは江戸時代の蕎麦屋に入っちゃったのかと思っただろうな。


ケーキを注文された時は、レジ横のケーキ用ショーケースから取り出し提供する。

注文をとった店員が提供担当の店員に伝える時、

チェリーのタルトを「チェリー」、シブーストを「シブ」など略して端的に伝えるのだが

その日、注文をうかがう担当になった井下さんは提供担当の私に

「ポ!!!!!!!」

と叫んだ。

ごめんなんて?

「ポです!!!!!!!」

後から聞いたら「タルトポワール」のことだった。

それはもう略でもなんでもない。


更に忙しいとテンパる井下さん、ペン立てと間違え提供前のジュースが入ったグラスにボールペンをぶっ刺したり、

両替の3万円を全て100円玉にするなど数々の伝説を残したが、結局一ヶ月くらいで辞めてしまった。

失敗は誰にでもあるし、少しずつ慣れれば大丈夫、、、と思っていたが

やはりミスの多さを自分なりに気にしていたのかな。


一度も使うことはなかったが、井下さんとは連絡先を交換していた。

スマホの電話帳を開くと、あいうえお順に名前が並ぶので必然的に「井下さん」が最初のページに表示される。

連絡先を整理しているとき、もう絶対連絡することはないので消去しようかと思うのだが、この数々の可愛くて面白い失敗を忘れたくないからか、未だに消せずにいる。


#日記 #エッセイ #バイト #アルバイト

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