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お寝坊サンタの切りかえどき

 pixivのブックサンタ2024企画の参加作品です。
 寝坊をしてしまい、クリスマスにプレゼントを届けられなかったサンタさん。サンタセンター長と妖精さん達で緊急会議。さて、どうする?

お寝坊サンタの切りかえどき


 その日ぐっすり眠って目覚めたサンタさんは、時計を見て飛び起きました。
「まずい、まずいぞ。今日は朝から地図を確認して、プレゼントの確認をしなければならなかったのに」
 サンタさんは大慌てで準備を始めました。仕事を手伝ってくれる妖精さんにも、応援を頼みました。
「今からやって間に合うだろうか」
「間に合わせないといけませんね」
 来てくれた妖精さんに手伝ってもらい、サンタさんは朝から頑張りました。地図を確認し、子供たちのプレゼントをひとつひとつ誰のものか確認し、地域ごとに分けていきました。そうして辺りはすっかり暗くなり、気付けば明るくなっていました。
「なんてことだ。クリスマスを過ぎてしまった」
 サンタさんは、サンタ物流のサンタセンター長に報告に行きました。
「クリスマスのプレゼントを渡しそびれるとは何事だ。サンタとしてあるまじきことだ。クリスマスのサンタからのプレゼントは、当日に渡さないと消えてしまうんだぞ」
 サンタさんは、サンタセンター長に怒られてしまいました。
「申し訳ない。私もこんなことは初めてで。いつもは大体できていたのだが」
「困ったぞ。どうしたものか。これではクリスマスエネルギーの均衡を保てない」
 子供たちに贈るはずだったプレゼントは、ただのプレゼントではありません。喜びのエネルギーがたくさん入っているのです。そのエネルギーは一年を通してずっと持続することもあります。
「子供たちの元気の源になり、ひいては親御さんたちの笑顔の元にもなるのだ。さて、何か手を考えなければならないぞ。どうしたものか」
 サンタさんとサンタセンター長、そしてお手伝いしてくれた妖精さんも一緒に、みんなで会議をしました。
「来年のプレゼントに二倍のエネルギーを入れるのはどうでしょう」
「それでは反動が大きくなってしまう」
「それに来年では子供ではなくなってしまう子もいます」
「今からでもプレゼントを贈ってしまえばいいのでは」
「今からではクリスマスプレゼントは作れない。今年の分はもう消えてしまったからね」
「では普通のプレゼントに、クリスマスエネルギーを注いでしまうのはいかがでしょう」
 一人の提案に、サンタセンター長は首を傾げました。
「それはどういうことだ?」
「幸いまだ年は明けておりません。プレゼントは消えてしまいましたがクリスマスエネルギーは残っております。そのエネルギーを既にあるプレゼントに込めるのです」
「なるほど、それなら出来そうだ。では早速みんなに話し、プレゼントの確保とエネルギー注入、配送ルートの手配をしよう」
 みんなはさっそく動き出しました。

 その日、幼い娘と手を繋いで歩いていた母親は、街で知らないおじさんとぶつかりました。その拍子におじさんの手から何かが落ちました。
「まあ、すみません。大丈夫ですか」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ない」
 女の子は足元に落ちた箱を拾って渡しました。
「ありがとう」
「これ何が入っているの?」
「お人形だよ。最近流行りの人形らしいんだけどね。姪っ子が欲しがってたやつだと思ったら、これはオレンジの髪だから違うって言われちゃったんだ。欲しいのは紫の髪のやつなんだって」
 え、と女の子は目を大きく見開きました。それは女の子がほしいと言っていた人形でした。
「まあ、でしたらそのお人形、もしよかったらお譲りいただけませんか。お代は払いますから。それ娘に買ってあげる予定だったんですけど、どこも売り切れていて」
「ああ、それならタダでいいよ。俺もどうしようかと思ってたし」
「ありがとうございます」
「ありがとう、おじさん」
「どういたしまして」
 女の子は大喜びしました。
「良かったわね」
「うん!」
 おじさんが歩いていった方を振り返ると、おじさんの姿はもうありませんでした。

 その日、父親と一緒にコンビニに行った男の子は、足元に落ちていた紙きれを拾いました。
「パパ、これ落ちてたよ」
「なんだろうな。くじみたいだね」
 父親は店員さんに聞いてみました。
「ああ、それクリスマスギフトのくじですね。もう終わったんですけど、まだあったんですね」
「開けてもいい?」
 店員さんが頷いたので、男の子が開けてみると番号が書いてありました。
「5番だって」
「子供用のおもちゃですね。まだあったかな」
 店員さんが奥へ行き、箱に入ったロボットを持ってきました。
「これなんですけど、いります?」
「いいんですか?」
「まだあったし、どうせもう終わってるんで、いいんじゃないですかね」
 男の子はそれを受け取り、大喜びで父親と帰っていきました。
「クリスマスギフトのくじに、おもちゃなんてあった?」
 親子とのやりとりを見ていた店員が、同僚に聞きました。
「さあ、よくわからないけど。棚に同じ番号のものがあったから、そうなのかと思ってあげちゃったんだけど。違ったのかな」
「ふーん。まあ、あったんならそうなんだろうな」
「だよな」

 その日、いつも買うお菓子を買ってもらった女の子が袋を開けると、見たことのないカードが入っていました。
「ねえママ、当たりって書いてある」
「あら、ホント。おもちゃ屋さんの引換券ですって。行ってみましょうか」
 おもちゃ屋さんに行ってカードを見せると、店員さんは少し不思議そうな顔をしましたが、その後すぐににっこり笑っておもちゃを渡してくれました。女の子は大喜びしました。

 その日、母親は職場の上司に声をかけられました。
「あなた息子さんいたわよね。うちの子と同じくらいの」
「はい」
「今朝近所の人からもらった息子へのプレゼントが、他の人からもらったものとまったく同じだったのよ。同じものふたつもいらないから処分しようと思ってたんだけど、よかったらいるかしら」
 見せられたおもちゃを見て、母親はあんぐりと口を開けました。
「ありがとうございます。これ息子が欲しがっていたものです」
「丁度よかったわ。私も今朝、突然だったからついそのまま職場に持ってきちゃってたの忘れてたの」
 家に帰って渡すと、息子は飛び上がって喜びました。

 その日、女の子は鳥が何かをくわえているのを見つけました。なんだか気になってじっと見ていると、鳥はそれをぽとりと落としてどこかへ飛んでいってしまいました。
 地面に落とされたそれは、ツリーのオーナメントでした。女の子はそれを姉に見せました。
「見て、これ鳥さんがくわえてたの」
「それってあの駅前にある店のじゃない? もうツリーはないと思うけど行ってみる?」
 女の子は姉と一緒にその店に行きました。
「ああ、それは確かにうちの店のだ。ありがとう。お礼にそこのぬいぐるみ、どれかひとつ持って行っていいよ」
「あれほしい、あれがいい!」
 女の子は目をきらきらさせて、ひとつを選びました。それは前からほしいと思っていたぬいぐるみでした。渡されたぬいぐるみを抱きしめる女の子をみて、姉も店主もにっこりと笑顔になりました。
「良かったわね」
「うん。お姉ちゃん、よく知ってたね。あの飾りがあの店のだって」
「そうよね。自分でも不思議だけど、何故か思い出せたのよね。見たことある気がして」

 サンタさんたちはみんなで協力し、クリスマスが過ぎてから数日の間に、なんとかすべての子供たちに渡しそびれたクリスマスエネルギーを届けられました。
「なんとかなりましたね」
「大忙しでしたが頑張ったかいがありました」
「みんなのおかげで助かったよ。年内に間に合って良かった」
 大仕事を終えたサンタさんと妖精さんたちは、みんなでサンタさんの家でパーティーをしました。サンタセンター長の顔にも安堵の色が浮かんでいます。
「しかし来年はもっと余裕をもってやりたいものだ。しっかりしたまえよ」
「そうですね」
「いやあ、すまないね。私は昔からどうも段取りが苦手なようでね。それでも昨年まではなんとかなっていたんだが」
「違う地区でもいましたね、そういうサンタさん。その人は事前に他の人に連絡して毎年手伝ってもらうことにしているから、なんとかなっているのだとか」
「そうか。確かに私もそうした方がいいのかもしれないな。私は時間配分が苦手で、予定を汲むのも苦手なんだ。今まで大丈夫だったから今年も大丈夫だと思っていたが、こんなにみんなに迷惑かけることになってしまうとは。もうやり方を変えた方がいいかもしれない」
「そうですね。合うやり方が変わってくることってありますもの。無理しないで、みんなでやりましょう」
「ええ。苦手なことはそれが得意な人に任せればいいのです。苦手だということを隠さず言ってもらえれば、こちらも動きやすいですわ」
「いやあ、そう言ってもらえると助かるよ」
 にこやかに話すサンタさんと妖精さんの話を聞いて、ホットドリンクを飲んでいた妖精さんが小声で言いました。
「実は私、雪かきが苦手なの。雪が多い街なのにいけないわよね、こんなこと」
「あら、私は雪かき大好きで、自分の家の前は毎日やり過ぎてすぐ終わっちゃうから物足りなかったのよ。あなたの家の前もやっちゃっていいかしら」
「それは助かるわ」
「私はあなたの家の前までやっちゃうのは失礼かと思って、遠慮していたのよ」
「そうだったのね」
 ポタージュスープを飲んでいた妖精さん達も話し始めました。
「私は片付けが苦手で、大掃除するときは毎回専門の人に来てもらってるの」
「掃除が苦手な人なんているのね。私は張り切ってお祭りみたいな気分になるわ」
「私は料理が苦手で、毎週得意な友人にお願いしてるわ」
「それいいわね。いつも料理が余るって言ってる人がいるから、私も言ってみようかしら」
「わたしは一人でいるのが苦手で、いつも誰かの家に泊まってるわ」
「あなたが家にあまり帰らないのはそういう理由だったのね。今度うちにも来るといいわ」
 あちこちで自分が苦手なものについての話が始まりました。するとそれが得意な人も見つかり始めました。
 サンタセンター長はそれを眺め、ふむ、と考えました。
「今までひとりでも出来ていたことが出来なくなったのは、人に頼るタイミングということかもしれないな」
 大仕事を終え、新たなきっかけを得た食卓には、みんなの笑顔が溢れていました。

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