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チェコの藍染め工房へゆく

10月のちょっと冷え込む日、「ストラージュニツェ」という街に降り立った。スロヴァキアとの国境にほど近い、チェコのモラヴィア地方の街だ。
もう、駅からして可愛すぎる。駅は改装の真っ最中で、この建物も新しくペイントされたばかり。

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ホテルまで歩く道すがらに、駅と同じもようが入っているお店を発見した。

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壁面にはモラヴィア地方の伝統紋様が描かれている。ちょっと可愛すぎるな…。
店名は"Vino Botur"だが、大きく書かれた"Vinoteka"の文字が目立つ。
Vinotekaは、ひとくちにいえばワイン屋さんだ。わたしはてっきりワインを振る舞うレストランのようなものだと思っていたが、ここはワインセラーもあるワインショップのような場所で、レストランとは違った。ちょっとしたバーのようにもなっていてワインを飲めるようになっている。

3分も歩けばすぐに、街の広場にたどりつく。この街のタワーは高さ20mくらい。タワーの高さも含め今回の旅の中で一番「こぢんまり」した街で、不思議と落ち着く雰囲気だ。

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この街での第一目的は、藍染の工房を訪れること。チェコにはかつて藍染工房がいくつもあったが、現在はこちらともう1箇所、合計2箇所のみになっている。チェコの藍染について知ったのは、チェコの藍染を日本に紹介されているViolka(ヴィオルカ)さんがきっかけだ。実際にヴィオルカさんが販売されていた藍染の商品を愛用するにつれ、その製法が伝統的な「手押しの技法」であるということを知った。はんこ作家としても興味津々で、こちらの工房を訪れた。

実際にヴィオルカさんが販売されていた藍染の商品を愛用するにつれ、その製法が伝統的な「手押しの技法」であるということを知った。はんこ作家としても興味津々で、こちらの工房を訪れた。

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『Strážnický modrotisk』通称「アリモ」と呼ばれる工房。藍染をはじめて五年目というガブリエラさんが紹介してくれた。

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藍染めができるまでのステップ

こちらでの藍染めはすべて手作業の工程からできている。大変な工程を経ているからこそ、藍染製品は安価ではない。数百年の歴史を経て今なお残っている、残している人がいることがすごい。

工程の大まかなステップはこんな感じだ。

1 はんこで糊をスタンプしておしていく
2 糊をおした布を十分に乾燥させたのち、藍の染料に浸けていく
3 乾燥させたのち、糊を洗浄して落とす
4 糊のあった場所だけ白く抜けて、模様が浮き上がる

1 はんこで糊をスタンプしておしていく

カブリエラさんが右手に持っているのは、大きな「はんこ」!
こちらでの藍染めは、このはんこを使って模様をおしていきます。

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薄緑の液体は糊で、その具体的成分は企業秘密。この糊をはんこにつけて、布にくまなくおしていきます。

角に印があって、そこにあわせるようにして連続模様をおしていく。

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まっすぐに置いて、ドン!と拳で叩くようにおす。

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配列や、捺印の均一さがお見事…!!それでも多少の不均衡が出るのが手作りの藍染めの特徴だ。

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2 糊をおした布を十分に乾燥させたのち、藍の染料に浸ける

はんこで糊をおしたあと、布を十分に乾燥させてから藍の染料に浸す。浸す時間の長さで色は変わるが、浸して、持ち上げてかわかしてまた浸す、を数回繰り返す。全てが手作業というのは、本当に職人さんの集中力と経験がものをいう。

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藍は世界中にあるが、国や工房によって色の程度がまったく違うそう。ここの工房の藍は濃紺なのが特徴だ。
「ベテラン職人は、朝出勤して藍の匂いをかいだだけで何をどのくらい足すべきか、調整すべきかわかるんです。」
それを彼女もできるようになるには10〜15年ほどかかるという。

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タイマーで測りながら数回に分けて浸していく作業。右下、机に傷がついているのがみえますか?安全ピンが置いてあるのは、今何回浸したかという回数を数えているためだ。人間が作業しているのだなぁということを強く感じる。

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3 乾燥させたのち、糊を洗浄して落とす

そして藍に浸した布を十分乾かしたら、今度は糊を落として洗浄する。そうすることで糊のあった場所は色がのらず柄になる。

4 糊のあった場所だけ白く抜けて、模様が浮き上がる

すべてが手作業でつくられるからこそ、よーくみると絵柄に多少の差があったり、糊がかすれたりなどする場合もある。だからこそ、完璧すぎる柄が街中で安価に売られていたら、それは手作りではなくコピー品だと思う、とガブリエラさん。「ちょっと失敗したような箇所も含めてコピーする商品もあるけれど、失敗箇所も含めて全部同じパターンで複製しているから、コピーだということがわかるときもあるんです」

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この工房は、1906年創業。ガブリエラさんの祖父がいまはオーナーで、その兄弟や長く働いている職人さんのもとで彼女は修行している。

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藍染めは「テキスタイル」 ーなんでもできる

「はじめはまったく藍染めに興味がなかったんです。ファッションデザインの勉強もしていたし、別分野だと思っていたから。でも「一度やってみたら?」と誘われて試しにやってみたら、もう楽しくなってしまって。いまはもう、「一生の仕事にする!」と決めています。そのくらいこの仕事が大好きです。

藍染めはたしかに伝統的なものだけれど、それだけじゃない!テキスタイルだから、なんでもできるのよ!」そうガブリエラさんは熱弁してくれた。

たとえばこれは、この街の出身の夫婦からの希望で、なんとウェディング衣装を藍染めで作りたい、という依頼があったものだったそう。伝統柄が使われた衣装の可愛いことったらない…!!

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花嫁のスカートの色は、浸す回数によって藍の色を変化させるなどさまざまな工夫を凝らしたグラデーションになっている。

工房に代々伝わるスタンプは、すでに廃業してしまった他の藍染工房から譲り受けたものも含め、古くは200年以上前のものもある。

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過去にあったパターンでいまは型が失われているものもあり、いつか復刻したい、そして自分のオリジナルデザインもつくりたいという夢もある。このスタンプを制作する業者さんももうほとんど残っていないという。

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世界文化遺産登録されている「ヨーロッパの藍染め」

現在ヨーロッパの藍染めは、世界文化遺産登録されている。これはチェコを含む5か国共同での登録になるのだが、それぞれの国で少しずつ違うという。たとえばスロバキアは黄色地に刷り、オーストリアは緑の生地に刷るのだそう。チェコは白だ。登録国に含まれていないエストニアにも、かつて藍染があったがいまは工房が断絶してしまった。しかし近年新たに工房を立ち上げはじめた人がこの工房を訪ねてきたそう。まだ一年だから技術も稚拙だけれど、また五年、十年したら新たな文化として生まれるかも、と他の国の藍染の未来にも前向きだ。

藍染めを世界へつないでいくガブリエラさん

他の国の藍染関連の人が訪れたり、インドの染物とコラボしたり、オリジナルの模様をデザインする人がいたり。私のはんこを見せたら、もしかしたらこれで模様を作ってもいいかもよ?とも言ってくれた。フレンドリーでアツいガブリエラさんだからこそ新たなものがどんどん生まれているのだろう。次から次へ進行中のプロジェクトを見せてくれ、話す口調もとても楽しそうだ。

毎日新しい発見があって、驚きの連続よと彼女は嬉しそうに笑う。いまは朝の7時から夜の7時まで工房で働いているけれど全然飽きない!という。注文もたくさんあり、毎日対応するのに忙しいようだ。

朝7時から夜7時って大変では?と、1日のスケジュールを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「だいたい午前は染色についてベテラン職人さんと一緒に作業しながら修行します。午後は入っている注文の作業をする。その他メール対応したり、学校やその他のところへ講演に行ったり。伝統的な文様に学びながら、自分のオリジナルデザインも考えたりする。藍染にまつわる仕事は果てしなくあるんです(笑)。たとえばこのポットには伝統的な紋様が描いてある。こういうものからも学んでいます」

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大変だと語るガブリエラさんは、それにしたってうれしそう。
藍染めという、脈々とつづいてきた伝統文化のもとに学びながら、新しい挑戦を続ける彼女にまた会いに来ようと思った。

6月にはフォークロアフェスティバルが開かれる

この街はフォークロアのお祭りでも有名で 2020年は6月25日〜28日という日程で開かれる。これもチェコ語のページだけれど、写真をみるだけでも楽しい。というか6月のイベントだけれどFacebookのイベントページがあって、もう参加表明おしてる人がこれだけいることがアツい。

このお祭りで着用される伝統衣装にも、藍染は多く使われています。6月にチェコを訪れる予定のある方はぜひ足を運んでください。

日本で、チェコの藍染を見たい・知りたい方は

冒頭でもふれましたが、日本でチェコの藍染めを紹介している「ヴィオルカ」というブランドがあります。ヴィオルカさんは日本未上陸だったチェコの藍染を、伝統工芸として、そして現代ファッションへ展開できる高いデザイン性と品質を持つことを一貫して広報し、作品を制作されています。
チェコの藍染にご興味を持たれた方は、どうぞヴィオルカさんまでお問い合わせください。

ストラージュニツキー・モドロティスク工房と 2015 年 5 月、日本国内における独占販売契約を締結し、日本正規輸入元として、日本国内におけるチェコの藍染め生地及びその生地を使った製品の独占販売を一任されており、チェコの藍染めを日本人の視点で見つめ直した作品を制作し、伝統の藍染めを今の時代に生かすことに取り組んでいます。 
                                          チェコの 藍染め ヴィオルカ www.violka.jp

※情報はすべて2019年10月時点のものです。
今回の旅費宿泊費は一部チェコ政府観光局に負担していただいております。

この小さな村にある工房を訪れたあと、私は驚きの体験をします。その体験がきっかけとなり書いた旅行記エッセイ『チェコに学ぶ「作る」の魔力』、かもがわ出版より発売しました。
ないから、自分の手で作る。社会主義下の時代を経たチェコの方々に根付くものづくり精神を取材した、版画・マンガ・イラストエッセイです。


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