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"コロナ期の旅行会社がいかにやばいか"がわかる話。せっかくなので旅行会社の今後についても考えてみた

旅行業という業界

旅行業に身を置いて一年。上場企業のグループ会社COOとして、サービスを運営する中で感じたことを書きます。
まず、僕は旅行業に関してズブの素人でした。そして、今も何十年とこの業界にいる方には、知識も経験も到底及びません。
ただ、この1年間爆速でサービス運営をしてきた中で、既存の旅行業に対する認識、今後の旅行業の形態変化について感じたことが多々あったので、その話をしたいと思います。

旅行業の業界構造

業界構造の話をする前に、まずはお客さんについて考えてみます。そもそもお客さんは、どうやって旅行を手配しているのでしょうか。海外旅行における手配については、

自己手配が51.3%、旅行代理店のパッケージツアーの手配が45.3%となっています。
JTB総合研究所「海外旅行実態調査」

情報不足だった時代から、情報が世の中に溢れるようになり、さらに雑多な情報が整理・比較されるようになった時代において、容易に最安値を検索できるようになりました。

その影響から、旅行会社を挟むより、自分で手配したほうがお得に手配できると感じる方も多くなってきたようです。お客さんが旅行代理店を挟まず、自分で手配することが多くなっているという傾向は、旅行代理店からすると極めて危機的な状況と言えます。

他方で、旅行会社の収益構造についてはどうでしょうか。各社の営業利益率について見てみます。下のグラフ(2018年)は、旅行取扱高全体に占める各社のシェアです。

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最新データは、欠損値が多いためちょっと古いデータになってしまいました。※出典:観光庁HP掲載のデータを加工(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/toriatsukai.html)

これを見ると、上位6社だけで旅行取扱高の70%以上を占めている状態となってます。そして、なんと、そうした企業の旅行取扱高に占める営業利益率は0.3%程度です。

旅行販売額が1兆円ある旅行会社でも、仕入れの支払いや人件費の支払いをすると、営業利益として手元にたった30億しか残らない構造になっています。

こんな業界にコロナショックが襲って、旅行販売の停止、全額返金対応なんかやっていたら、数年蓄え続けた内部留保なんて、一瞬で吹き飛んじゃいますね。。。

まとめると、旅行代理店としての市場規模は縮小していく可能性が高いことに加え、営業利益率が極めて低いため、一定規模の旅行を取り扱える大手企業しか生き残れない厳しい業界ということです。

果たして旅行業での起業は諦めるべきか

これを見てると、旅行会社として新たに起業するなんて、、、と早々に諦めたくもなるのですが、まだ可能性は残されていると個人的には考えています。

新しい旅行会社でも勝機があると考える理由

僕が初めて旅行手配の裏側を知った時は、衝撃的でした笑
ほんとに。。。
デジタル化がもう進みまくっている時代に、FAXで旅券のやり取りをしたり、紙媒体での申し込みをしていたり、システムへの入力も手入力だったり。ものすごく裏側のオペレーションコストが高くなっていました。それも、人の手がかかりすぎている。パラダイムシフトが起きるべき分野だなと実感しました。

ただ、旅行会社は、バリューチェーンの中流(というか仲介)に位置していることもあり、独自にオペレーションを変えづらいのもまた事実です。

非効率だから勝手に手配方法を変えて、航空会社や宿泊施設に『オペレーション変更したから合わせてね!』なんてとてもじゃないけど言えないです!

そこで、オペレーションの効率化を図ることで、コスト面で構造改革に挑むのではなく、売り上げ(利益率)を向上させることで勝機を見出す必要があると感じました。旅行手配に非連続的な付加価値をつけたいな、と。

そして、日々旅行会社の経営に携わる中で、付加価値の付け方は、主に3つありそうだなと考えています。

(1)顧客接点の早期化
どういうことかというと、これまでの旅行代理店が持てていた顧客との接点をもっと気軽に手前まで持ってこれるようにしようというものです。お客さんの大半は、『なんとなく旅行に行きたい』という思いを持っていて、その段階では、どこに行くのか、どんなことがしたいのかがほとんど決まっていないんです。

その初期段階からお客さんと接点を持っておいて、行きたい場所や、やりたいことを聞き出しながら、旅を提案していくというサービスは今までにない価値を提供しています。

ここに注目したのが、「ズボラ旅」です。
LINEで行きたいところや、やりたいことを相談しながら、旅行予約までできるサービス。

一方で、顧客接点を早期化するということは、旅行へのモチベーションが高くないお客さんもノイズとして自社チャネル内に取り込む可能性があります。そうした層への初期アプローチに費やすコストと、最終的な営業利益がバランスするのかについては凄く気になっています。

その瞬間に成約とまではいかなくても、自社チャネルに取り込んでおけばそのお客さんに繰り返し接触することができる為、長期的にみたらプラスという視点もあるので何とも言い難いですが、一度離脱したお客さんのモチベーションが再燃し、成約に至ることはどれくらいあるのでしょうか。ここがバランスするのであれば、超優良な高付加価値サービスだと考えています。

(2)旅手配の形態を変化させる
(1)と似たもので、手配という形態を変化させることも有効だと思います。国内旅行を念頭にしていますが、『旅行したい』と言っているお客さんが、指定の場所に行きたいという場合はかなり少ないです。旅先で体験できるコンテンツ(海、温泉、懐石料理などなど)を最重要視しています。

逆に言うと、旅行場所に拘りがないお客さんって結構多いんです。だからこそ、旅先を決めてもらうところがめちゃくちゃ難しい。

『晩ご飯なんでもいい』と言う人に、『それめちゃくちゃ食べたい!』
と思わせるのが難しいのと同じような感覚です。

経験上、そういう人に対しては、食べたい物を口頭で挙げるより、写真を並べて『どれがいい?』と聞いた方が、相手は内に潜む言語化できない感情を喚起してくれます。同じことは、旅行にも言えると思っています。

旅先やシーンの写真をインプットしてもらい、その写真から直感的にいいなと思うものを複数選択してもらいます。その選択を基に、裏側のアルゴリズムで旅先を自動で選定し、旅先を提案します。

これは、旅先を選択して、航空券を手配して、ホテルを手配して、といった一連の手配フローの中の、『行先を選択する』という所にフォーカスしてサービス化するものです。この場合、提案の精度が非常に重要になってきます。

直感的とは言いつつも、写真を何個も選び、診断している感を出したり、旅先選びの制約条件となってくる情報もきちんと聞き取ることが重要です。例えば、小さい子供がいる人に対して、ダイビングツアーを紹介しても反感を買うことになります。

感覚的で、なおかつ高精度の旅先提案サービスは、情報におぼれる現代人にとって、多くの価値を提供してくれるでしょう。

(3)旅の目的を変える
最後に、旅の目的を変えることが非常に有効だと考えています。今まで自分がしてきた旅を思い返すと、鮮明に記憶に残っているのは、いつも現地の人と仲良くなった体験でした。

僕自身、新潟に行ったとき、現地で仲良くなった人に、地元を体感できるスポットを色々連れまわしてもらったことがあります。
めっちゃくちゃうまい海鮮、めっちゃくちゃうまいお米、めっちゃくちゃリラックスできる温泉。何より、その人と一緒に飲んで話しまくった時間。
今でも自分の中で大切な思い出になっています。

こうした現地の人と友達感覚で交流できる体験を、再現性高くサービスとして提供できるようになれば、これまでのような「場所」を目的とした旅が、人を目的とした旅になるのではないかと考えています。

「場所」から「人」へ。こうした目的の”ズラし”が、お客さんにとっての旅行という概念を一気に覆すんじゃないかと期待しています。

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