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我が家のテレビ、数えで11歳。

 「地デジが死んだ日」というタイトルにしようと思ったが、電波使用関連の各方面に対し誤解を生むと思ってやめた。勇気ある撤退ということにする。

 先日、いつものようにテレビの電源を消して買い物に行き、帰ってきていつものようにテレビの電源をつけた。映らなかった。代わりにE202のエラーコードが表示された。アンテナの接続を確認するように、と。天候等の影響かもしれない、と。まもなくスマホを手に取りE202の対策を検索した。テレビの電源、テレビ線、B-CASカードを抜いて、入れて、繰り返した。映らない。地デジ電波受信の初期設定をやり直した。信号はゼロのまま、映らない。BSは映る。ああ、今日は漫才日本一を決める日、テレビで見ようと思っていたのに。日本中のそれなりに多くの人が面白かっただ、優勝は違うコンビだ、漫才なのかそうじゃないとか、なんだかんだ言い合えるイベントに私も参加したかったのに。リアルタイムで視ることで。よりによってこんな日に地デジが死ぬなんて。師走の日曜日、stay homeに更なる追い打ちをかける事態に襲われた。

 我が家は賃貸の集合住宅である。室内の接続が問題なければ、アンテナの問題かもしれない。とすれば、他の部屋もテレビが映っていない可能性がある。であれば、誰か他の住人が先に管理会社に通報しているかもしれない。それで修理屋さんが来てアンテナの不具合が解消すれば、そのうち地デジも映るようになるだろう。そう思って私は待った。この時の私は、完全に他力本願であった。

 管理会社に自ら問い合わせる選択肢はもちろんあった。しかし、もし我が家だけの不具合で、アンテナのせいでなかったらどうしよう。アンテナの修理を依頼などすれば大事になってしまうし、早合点をしたとなっては恥ずかしい。ためらいが勝っていた。しかし地デジが映らないのは何かと不自由が多い。何とか自分の力で解決できないものか、繰り返しスマホで検索を続けた。

 そうして丸二日待っても、地デジは生き返らなかった。いよいよ嫌になってきて、そして思いついた。これだけ回復しないのだから、他の住人から訴えがないのかもしれない。であれば、管理会社に他の住人から地デジが映らないという訴えがあるかを問えば良いではないか。アンテナが悪いと決めつけることにはならないのだから穏便に事が進むはず。よし。覚悟を決めて、管理会社に電話をした。

 担当者は丁寧に対応してくれた。「おっしゃる通り、他の部屋でテレビが映らなければアンテナの問題になりますので、こちらで他の部屋の方数名に連絡を取ってテレビが映っているか確認を致します。」こちらの訴えがちゃんと伝わって嬉しかった。すぐに折り返し連絡が来て、結果が判明したと伝えられた。「他のお部屋では映っているそうです。」我が家の問題だった。

 心当たりはあった。我が家のテレビは、製造が終了してる国産メーカーで2010年製のテレビだった。仕事をし始めてお給料をもらったから、よし、テレビを大きくしよう、と12インチくらいのテレビデオを手放して買った32インチの液晶テレビだった。あれから10年と半年くらいだろうか。数回の引っ越しを経て、ここ1年程はさすがにリモコンの接続が悪くなっていたが、それでもちゃんと放送、録画、再生と美しく活躍してくれていた。家電の寿命を考えるとそろそろ買い替え時かな、と思ってはいたが、積極的に買い替えたいとは思っていなかった。しかし、今回の地デジ問題はアンテナでも接続の問題でもないとすれば、もはやテレビ自体の問題としか考えられない。これは電気屋さんも同意見で、さすがにテレビ本体を買い替えるしかなかった。

 新しいテレビを台車に載せてその店員さんとレジの順番を待っている時、列の前に家族連れが入ってきた。保っていたディスタンスが生んだ現象だろう。まもなく家族は横入りしたことに気づいたようだが、その時、私はどうぞ、と順番を譲った。そしてほっとした。それは数日前に、私が順番を抜かしてしまった気がしてもやもやが残っていたからだった。カラオケに行こうと歩いていた時、店のすぐ手前で若い二人組を抜かして歩いた。そのまま私、二人組、の順番でカラオケの受付に並んだ。私が単に速足で歩道を歩いて行っただけだと言えばそうだが、二人組が同じお店に行くかは分からなかったし、店のすぐ目の前だっただけに抜かしてしまった様な罪悪感が残っていた。(注:カラオケは一人利用、他に大人数のグループは見受けられなかった。)

 こうやって巡り巡っていくのだな、と思った。誰かにかけた(かもしれない)迷惑を他の人に返したり、誰かから受けた親切を他の人におすそ分けしたり、どこかで何かがつながっていくのだな。きっと、善かれと思ってやってきた何かは無駄にはならないのだろう。あの二人組にも何か良いことがあってくれることを願おう。テレビがくれた偶然の御縁に、私は少し安心できた。

 元来テレビっ子の私を支えてくれたテレビとの別れは、想定外の出費というおまけ付きで突然やってきた。家に帰ってから新しい軽量薄型テレビの設定をし、古いテレビを台から降ろした。ぐらつきもせずしっとりと重みのあるテレビで、今までの仕事ぶりを感謝したい気持ちが強くなった。細かい凹凸に溜まったほこりを出来るだけ拭き取って、頭から新しいテレビにかかっていた薄いプラスチックでできた袋状の保護材をかけた。数日のうちに電気屋さんに持って行って、適切に処理してもらう予定になっている。

 テレビさん、長い間働いてくれてありがとう。感謝したいけどなかなか伝えられないので、文章にしました。新しいテレビさん、我が家では稼働時間が長めだから重労働だと思うけど、よろしくお願いします。おかげで私は、これからも世の中と一緒に暮らしていけそうです。メリークリスマス。

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