ドラマ『Followers』シンデレラ願望と無理ゲー社会を生きる苦悩
あらすじ
インスタにアップされた1枚の写真がきっかけで有名になった女優の卵をはじめ、東京で悩み傷つきながら幸せを追い求める女性たちの人生が意外な形で交錯していく。
監督:蜷川実花
キャスト:中谷美紀、池田エライザ、夏木マリ
お姫様だった女の子が、何かをきっかけに普通の女の子として生活しなければいけなくなった。
お姫様のままでいる間は、努力しなくても白馬に乗った王子様との結婚が約束されている。
でも今は普通の女の子。
だから努力して自分がお姫様である事を周囲の人に認めてもらい、白馬に乗った王子様に見つけてもらわなければならない。
女性には本能的にそういうシンデレラ願望があるらしく、生まれがお姫様ではなくても、「アタシをお姫様のように扱ってほしい」という深層心理が働いている。
そんな女性は自分の見た目をすごく気にしていて、周りに愛されるような女性になるための振る舞いを常に意識しながら、それを維持するために努力する。
他人に見向きもされなかったり、せっかくの努力を認めてもらえなかったりするとすごく落ち込む。
若くて可愛いければみんなチヤホヤしてくれるけど、その若さと見た目も1日ごとに老いに向かって目減りする事を知っているから、承認される喜びと同時に焦りや不安も常につきまとう。
「若くて可愛い」という女性の容姿に対する評価は金銭的価値を生む。
イギリスの社会学者キャサリン・ハキムはこれを「エロス資本」という言葉で提唱した。
エロス資本の効用は20代後半くらいまで。
女性はそれまでに自分を養ってくれる男性と結婚するか、若さや見た目以外の能力で生計を立て、自立した何者かにならなければいけない。
今は見た目の若さや可愛さを維持出来る様々な技術や方法があるから、20代後半を過ぎても才能と努力次第でエロス資本の効用を延長する事は出来る。
そしてなりたい自分、理想の自分をしっかりと掲げ、高い意識を持ってアップデートして来た女性たちだけが、世間が羨むきらびやかな世界で生き残る。
日本ではこの容姿の良し悪しが経済格差を生むエロス資本の存在はタブー視されているようだ。
いつまでもシンデレラで居続けたい。
『Followers』はそんな女性たちの葛藤と苦悩が見れるドラマだ。
時代が工業化社会から情報化社会に移行した事により、現代では個人の才能や人間性に対する他人の評価が経済を生む。
フリーランス、YouTuber、インスタグラマー、インフルエンサーなど、自分個人の能力や人間性をネットで世界に発信して、それが他者や社会にとって価値のあるものであれば、会社などの組織に依存しなくてもお金が得られる評価経済社会。
ネットで世界と繋がり、交流する相手の範囲が広がった評価経済社会では、学校や会社に馴染めず「自分には何の取り柄もない」と感じていた人たちでも、ある日突然その才能と人間性を世の中に認められて、シンデレラやヒーローになれるチャンスがある。
はじめは自分の興味関心事をベースにして、細々と発信しているうちに、誰かが見てくれて「いいね」と評価してくれる。
自分が発信するものに広告収入や会費などの有料システムを紐付ければ、フォロワー数、いいね、コメント数が増えるにつれて自分の経済的価値も上がっていく。
どうやったら他人に認めてもらえるのか?
どうやったら他人に興味を持ってもらえるのか?
他人が喜ぶ事、他人が面白がる事を常に模索し、戦略を立て、魅了して成功する。
全ては他人の評価。
評価経済社会で自分の経済的価値を決めるのは他人であって、自分ではない。
人気者になるにつれ、好感も反感も増えていく。
人気者になるにつれ、世間の自分に対する要求もシビアなものになり、好感より反感の評価が多くなればあっという間に転落して、きらびやかな世界にはいられなくなる。
そして成功するために、自分軸の生き方からどんどん他人軸の生き方へシフトしていく。
評価経済社会では、自分にとって必要なもの、価値あるものでも、他人にとって不要、無価値なものであれば収入が得られない。
その結果、他人に気に入られる自分を演じ、本当の自分は抑圧される。
欲しいものは何でも手に入ったのにどこか虚しい。
努力して演じたお姫様キャラに疲れ果てて、何もかも嫌になったりする。
だけどお姫様キャラをやめた自分を誰が評価してくれるのか?
誰が愛してくれるのか?
評価されるのは他人が望んでいる理想化された自分だけ。
橘玲氏の著書『無理ゲー社会』では「すべての人が自分らしく生きられる社会を目指す」という世界的なリベラル化の価値観が、現実的には自分らしく生きられない人を増やしたと主張する。
ドラマの主人公たちもきらびやかな世界の中で、「社会的・経済的に成功し、評判と性愛を獲得する」という困難なゲームをたった一人で攻略しなければならない。
きらびやではない世界でもそれは同じ。
この残酷な社会の到来でみんな自分の人生を幸せに生きる難易度が格段に上がった。
「自分らしく生きる」
このオリジナルの人生ゲームには裏技も攻略本もない。
自分は何者でどう生きたいのか?
それを全部自分で決める覚悟をした人だけがこの無理ゲー社会で生き残る猛者になるのかもしれない。
蜷川実花が描くリア充たちの世界観が好きだから、画的にもすごく面白いドラマだった。
自分は何者でどう生きたいか?
そんな事を自分にも問う。
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