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欲望という名の電車 1951年アメリカ

欲望という名の電車

「ザ・大人の映画」というべき作品ですね。
これも、見逃していた傑作映画のうちの一本でした。
原作はテネシー・ウィリアムスという作家の小説ですが、ヘイズ・コードで性表現やモラル規制がガチガチだったアメリカで、この人の原作によるの映画化作品は、かなり攻めていました。
マセガキの映画マニアだった自分としては、とにかく背伸びをして、かなりきわどい映画ばかり追いかけていましたので、知らず知らずのうちに、この人の作品は何本か見ていました。
もちろん映画館で見るわけではありません。
映画館で見れる映画は、小学生時代はまだ怪獣映画専門でしたから、大人の映画となれば、テレビの映画劇場で鑑賞するしかない時代です。
色気付き始めた1970年代の前半頃には、毎日のように放送されたていたテレビの映画劇場で、そんなエロいシーンが期待できるような映画のチェックには、日々余念がありませんでした。
まだアダルト・ビデオなど影も形もない時代です。
美人女優の直接的なヌードなど、そう簡単に拝める時代ではありませんでしたが、それでもその可能性があるような作品は、しつこく追いかけていましたね。
「熱いトタン屋根の上の猫」という、テネシー・ウィリアムス原作の映画化作品がありましたが、ヌードとはいかないまでも、エリザベス・テイラーのしどけない下着姿にはやはりドキドキさせられました。
「去年の夏突然に」も、エリザベス・テイラーが出演していましたが、これはロボトミー手術を扱ったかなりキワどい作品。
「ガラスの動物園」は、今で言うところの「引きこもり」扱っていましたし、「ベビイ・ドール」は、スタンリー・キューブリックの「ロリータ」よりも数年前に、「幼妻」を取り上げていました。
とにかく、既存のモラルに対するアンチテーゼがテネシー・ウィリアムス作品の真骨頂でしたので、その名をしっかりとインプットした後は、学校推薦の外国文学などには目もくれず、この人の小説を片っ端から読み散らかしていました。
かなり怪しい中学生でしたね。
読み進めてみると、この人の作品には、どれも隠れテーマとして同性愛が描かれていることが多かったのは気がついていましたが、ウィリアムス自身がゲイであることは、今回Wiki してみて、はじめて確認。
確か本作の原作にも、ブランチの元夫がゲイであったという設定があった記憶ですが、映画の方では、その設定はたくみにボカしていました。
さて、そんな本作をなぜ今までスルーしていたかといえば、原作を読んでいて、主役のブランチが、オールドミスという設定であるとわかっていたこと。
この役を演じたのは、あの「風と共に去りぬ」で、スカーレット・オハラを演じたビビアン・リーでしたが、本作では、彼女もすでに38歳になっており、顔に深く刻まれたシワが前面に強調された彼女のスチール写真を、映画雑誌などではちょくちょく見ていたので、「美人女優」を堪能するために映画を見ていた感のあるマセガキとしては、ちょっと食指が動かなかったと言うことだけは正直に白状しておきましょう。

しかし、今回還暦を超えてから、本作を鑑賞してみますと、やはりこの作品は改めて、凄い作品だと認めざるを得ない感想でした。
監督は、エリア・カザンです。
脚本には、テネシー・ウィリアムス自身も参加。
ブロードウェイで上演された舞台では、ブランチを演じたのは、ジェシカ・タンディ(「ドライビング・Miss・デイジー」で最高齢アカデミー賞主演女優賞を獲得)でしたが、この舞台のロンドン公演でブランチを演じたのがビビアン・リーでした。
この人のご主人は、男爵の称号を持つ偉大な舞台俳優であるローレンス・オリビエ。
この亭主に少しでも近づきたかった彼女は、この役に気合を入れまくります。
これを評価したエリア・カザンは、映画化にあたっては、年齢的に少々難のあったジェシカではなく、彼女を抜擢。
ビビアン・リーはこの演技が認められ、出世作「風と共に去りぬ」以来、二度目となるオスカー・ウィナーとなります。
対して、ブランチを追い詰めていく、妹ステラの粗野で乱暴な亭主スタンレイ役には、マーロン・ブランド。
ブランドは、本作が初主演で事実上のデビュー作です。
彼は、舞台でもこの役を演じていましたが、この人が習得していた演技スタイルは、いわゆる「メソッド・アクティング」。
これは、リー・ストラスバーグたちが提唱した演技理論で、役の内面に入り込むことにより、よりリアルな感情表現を前面に出す演技スタイルです。
ジェームズ・ディーン、ポール・ニューマン、マリリン・モンローなど、当時の名だたるハリウッド俳優たちが、ストラスバーグのアクターズ・スタジオの門をたたいたことでも有名です。
と言うわけで、本作はアクターズ・スタジオ仕込みの、ブランドのリアル演技と、ロンドン公演の舞台で磨き上げたビビアン・リーのコテコテの舞台演技とのアンサンブルが見どころでした。
どちらの演技に軍配が上がるかは、人によって違うでしょうが、個人的には、ブランドーの演技が、結果として、ビビアンリーの鬼気迫る演技をより強調させたという印象です。
どんな美人であろうとも容赦なく襲いかかる老醜を、これでもかと言わんばかりの演出で、残酷に描き出したという意味で、凄みのある映画でした。
その意味で、鑑賞しながら、脳裏をかすめた映画が二本。
一本は、1962年に製作されたロバート・アルドリッチ監督の「何がジェーンに起こったか?」。
ベディ・デイビスとジョーン・クロフォードという老優が姉妹を演じた、サスペンス・ホラーでしたが、かつての美人女優ベティ・デイビスの、皺に白粉を刷り込んだ鬼気迫る老醜メイクが、あまりに強烈な印象を放っている映画でした。
本作から10年後に作られた映画ですが、この映画から、美人女優の老醜を、そのままホラー映画にしてしまおうというアイデアが生まれていたのかもしれません。
そして、もう一本は、本作の前年の1950年に作られていた映画です。
それは、ビリー・ワイルダー監督の大傑作「サンセット大通り」。
主役を演じたのは、サイレント時代の大女優だったグロリア・スワンソン。
彼女が演じたのは、実際の彼女をモデルにしたような往年の大女優ノーラ・デズモンド。
齢50歳を超えても、まだスクリーンへの復活を諦めきれない彼女は、ウイリアム・ホールデン演じる若き脚本家を抱えて、自身の復活作品のシナリオを執筆させますが、彼が自分から去っていこうとすると射殺してしまいます。
そして、精神に異常をきたした彼女は、彼女の屋敷に押しかけたマスコミのフラッシュの中を、二階からゆっくりと・・・
まず、この有名すぎるラストシーンを彷彿とさせるシーンが、この映画にもありました。
スタンレーが、ポーカーゲーム中に、家で乱闘騒ぎを起こすと、二階の家へ逃げ込んでしまうステラ(演じているのは、キム・ハンター)。
スタンレーは、2階に上がる階段の下で、頭を抱えて絶叫します。

「ステラ〜!」
(これぞ、ブランドお得位のメソッド・アクティングの極致)

その声を聞いてステラは、階下で顔をクシャクシャにしているスタンレーの元へ、階段を一歩一歩降りていくのですが、これがなかなかの迫力で、思わず「サンセット大通り」のノーマ・デズモンドを思い出してしまいました。
ラスト近くの、精神が崩壊していくヒロインのゾッとするような「壊れっぷり」も、両作品はかなり共通しています。
ほんの一瞬でしたが、ビビアン・リーが、床に倒れる瞬間のシーンで、その目がギョロリと寄り目になるカットが確認できましたが、かつての「天下の美女」が、コメディではない、シリアス・ドラマでこれをやられると、ちょっとホラー映画並みの凄みがあります。
そんなわけですから、このブランチ役は、演技派と呼ばれるようになった中年以上の大女優にとっては、キャリアに箔をつける意味でも、相当に挑みがいのある役のようです。
かつてブランチを演じてきた女優は、海外で言えば、テレビ版で、アン・マーグレットとジェシカ・ラング。
日本で言えば、やはり白眉は舞台での当たり役とした杉村春子。
それに続くように、浅丘ルリ子、水谷八重子、大竹しのぶ、岸田今日子、栗原小巻などなど。
まあまあ、そうそうたる女優陣が、このブランチ役に挑んでいます。
映画の冒頭で、駅に降り立ったブランチが、水平服の若い青年に訪ねます。

『「欲望」という電車に乗って、「墓場」に乗り換え、「楽園」で降りるのだけれど・・・』

のっけから、嘘臭い現実味のないセリフだなあと思っていたら、これ実際に当時のニューオリンズに実在するものばかりなのだそうです。ちょっとビックリ。
ラストのセリフも、完全にイッちゃっているブランチが、彼女を迎えに来た施設の医師と腕を組んで語りかける一言。

「どなたかは存じませんが、私はいつも見ず知らずのかたのご親切にすがって生きてきましたの。」

「サンセット大通り」の、「デミル監督。クローズアップを!」もかなり怖かったですが、こちらもそれなりにゾッとするラストでした。

ちなみに、本作において、それまでは下着でしかなかったTシャツを、普段着のように着こなしたマーロン・ブランドがあまりにカッコよかったので、以降、Tシャツが、若者ファッションの定番となっていったのは有名な話です。

マーロン・ブランドは、アカデミー賞の主演男優賞は本作ではノミネートのみで、獲得には至りませんでしたが、ステラを演じたキム・キンターは、ビビアン・リーと共に、見事に助演女優賞を獲得。
本作での彼女の表情を見ているうちに、ある映画での彼女の面影がなんとなくオーバーラップしてきてしまいました。
そうです。
あの「猿の惑星」のジーラ博士ですね。
あの猿のメイクから、キム・ハンターの素顔はとても、想像できませんでしたが、彼女の素顔からは、どことなくジーラ博士の面影が窺えてニンマリしてしまいました。
ご存じでした?

え? そんなこと・・「スッテラ〜!!」

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