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影なき声 1958年日活

影なき声

Amazon プライムで見つけました。
クラシック映画は大好物ですので、飛びつきました。
1958年の映画ですから、僕の生まれる前年の映画。
日活作品です。
原作は、松本清張。
なるほど、内容は確かに「ザ・松本清張」という感じ。
耳のいい電話交換手に扮するのが南田洋子。
彼女が間違って繋げてしまったのがなんと殺人現場。
そして、電話に出た犯人の声を聞いてしまうわけです。
300人の声を聞き分けられる彼女は、その声を覚えていて、数年後思わぬ場所で、その犯人の声を聞いてしまい・・・
とまあ、そんなサスペンス映画です。
犯人探しはともかくも、こういう古い映画を見る時の楽しみの一つは、当時の文化風俗に触れられること。
もちろんスタジオ撮影もしていますが、社会派松本清張の原作とあれば、都内のロケーションもふんだん。
小平霊園や、田端の操車場などは、よく仕事でも行ったことのあるところなので、60年も前とはいえ、多少なりとも見覚えはある景色でした。
アリバイづくりに使われていたトリスバーは、のんべだったお祖父ちゃんがよく通っていたところ。
街を走っていたバスは、昔懐かしいボンネットが前に出ているタイプ。
新聞社の車は、みんなデカくて、あれはニッサンのセドリックか、トヨタのクラウンでしょうか。
父親が、石油会社の重役専門の運転手をやっていたので、あんな車によく乗せてもらいました。
事件を解決に導くブンヤが二谷英明。
日活映画の大スターたち、石原裕次郎、赤木圭一郎、小林旭の影に隠れたような存在でしたが、本作では堂々と二枚目の主人公を演じています。
宍戸錠も相変わらずのアクの強い悪人顔で登場。
芦田伸介や金子信雄は渋いバイブレーヤーですが、芦田伸介演じる村岡の子分役の野呂圭介。
この顔、どこかで見たことがあると思っていたらハタと思い出しました。
「ドッキリカメラ」ですね。
ドッキリの最後に、ヘルメットかぶって、プラカード持って現れる人をやってました。

そうそう、監督が誰かと思ったら、あの鈴木清順だったのでビックリ。
松竹から日活へ移って、監督作を量産していた頃の作品です。
そういえば先日、渡哲也主演の「東京流れ者」を見たばかりです。
物議を醸した「殺しの烙印」が日活の社長の逆鱗に触れ、以来およそ10年間監督を干されてしまうわけですが、「ツィゴイネルワイゼン」で見事復活。
とにかく難解ではあるけれど、強烈な美意識に裏打ちされた作風で、多くのファンを持つ監督です。
しかし、本作では清順タッチはまだ封印されていて、社会派推理劇をオーソドックスにまとめ上げています。
日活の封切りローテーションの一角を担って量産していた頃ですね。
この人のキャリアを見ていると、あのチャップリンを思い出します。
1914年からの数年間、スラップスティックな短編コメディを量産していたチャップリン。
1921年の「キッド」から、彼は長編製作にシフトし、以降は寡作にはなりましたが、映画史に残る傑作を産み続けます。
鈴木清順監督も然り。
監督業を干されて、10年のブランクを経てから復活した後の彼は、作品数こそ少ないものの、これぞ鈴木清順という作品を世に送り出し続けます。
最晩年の2本「ピストル・オペラ」と「オペレッタ狸御殿」は未見ですが、「大正ロマン三部作」の高評価は周知の通り。

そんな監督の、片鱗がどこかに出てないものかという興味で映画は見ていましたが、ちょっとゾクっとするシーンがありました。
鈴木清順監督のキャリアに、ホラー映画はありませんが、ちょっと怖いシーンでしたよ。
芦田伸介演じる村岡の情婦(妻?)マリは、元ダンサーなのですが、完全なサイコパス。
演じているのは、石塚みどりという女優で、この映画で知りました。
そのマリが、殺人現場で、何をしているのかと言ったら、鶏を捕まえて・・
あれは、多分今じゃ出来ません。
むしろ、あの時代だからこそ撮れたシーンかも。

気になる方は、どうぞ映画をご覧あれ。

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