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にがい米 1949年イタリア

にがい米

イタリアの農業は、南北でだいぶ様子が違います。
南部の農業は、乾燥に強いオリーブや葡萄を中心にした地中海農業。
そして北部は、肥沃なポー川流域の平地を利用した稲作が中心です。
そんなわけで、イタリアはヨーロッパでは珍しい米の産地。
その生産量は、ヨーロッパでは断然トップです。
ミラノやジェノバを中心にして商工業が発展した北イタリアは比較的裕福で、農業中心の南イタリアとは格差が広がり、多くの出稼ぎが北イタリアに向かうわけです。
そんなイタリア農業事情を反映したのが本作「にがい米」。
1949年の作品です。
この時代のイタリアは、ビットリオ・デシーカの「自転車泥棒」、ロベルト・ロッセリーニの「無防備都市」に代表されるような、ネオリアリズモ映画が主流になっています。
日本と同様、第二次世界大戦で敗戦国になったイタリアには、ハリウッドのような潤沢な映画製作費もなければ、スタジオもありません。
有名なチネチッタ・スタジオも、連合軍の空襲を受けて使えない状態。
しかし、当時のイタリア映画人たちは、そんな状況を逆手にとって、カメラを持って街に出ます。
そして、敗戦で荒れ果てたありのままのイタリアを舞台にして、リアルな現実をドキュメンタリー・タッチで活写。
このムーヴメントが、フランスのヌーベルバーグへと広がり、やがてはアメリカン・ニューシネマへと連鎖していくことになります。
本作の監督ジュゼッペ・デ・サンティスは、リアルに当時のイタリアの米事情を描きながら、そこにメロドラマの味付けをします。
当然欠かせないのはヒロイン。
というわけで、この人です。
当時19歳。これがスクリーン・デビューとなるシルヴァーナ・マンガーノ。
冒頭のクレジット順では、ドリス・ダウリングの方が上になっていましたが、やはりなんと言っても、彼女の魅力なしにはこの映画は語れません。
では、彼女の魅力とは何か。
それは、言うまでもなく、その強烈なセックス・アピールですね。
とにかく、野良仕事のセーターを下から押し上げて、主張することあまりあるそのバストと、圧倒的な太腿。
映画を見終わってみれば、恥ずかしながらそれ以外はまるで記憶に残っていませんでした。
イタリアは、伝統的にグラマー(死語?)女優を、輩出し続けてきた国です。
ソフィア・ローレンを筆頭に、ラウラ・アントネッリ、ステファニア・サンドレッリ、ジーナ・ロロブリジータなどなど。
その豊満で、フェロモンたっぷりの彼女たちの魅力に浸るためだけでも、イタリア映画は見る価値ありと思っていました。
その伝統の出発点となったのが、この人かもしれません。
映画として本作を見たのは、今回が初めてでしたが、僕が映画を見始めた頃、雑誌「スクリーン」別冊の、セクシー女優特集では、ちょくちょくこの人のスチールは見かけたものです。
1940年代のセクシー女優といえば、ハリウッドでは、「ならず者」のジェーン・ラッセルや、「ギルダ」のリタ・ヘイワースなどが有名ですが、ヨーロッパ映画では、ダントツでこの人ではなかったでしょうか。
そんなわけで、シルヴァーナ・マンガーノは、本作は未見でも、しっかりと僕の頭の中にはインプットされ、今日まで保存更新され続けて来ました。
本作公開当時の日本での、彼女のキャッチ・コピーはちょっと凄まじいものでした。
なんと「原爆女優」です。
セクシー・ダイナマイトなどと言われていたお色気女優は結構いましたが、原爆となるとなかなかいません。
しかも、原爆を落とされてまだ間もない国からそう言われるわけですから、かなりのものです。
ポルノ映画やアダルト・ビデオなど、まだ影も形もいなかった時代のことです。
彼女が挑発するように踊る姿、しどけない下着姿、そして両手を上げたときに見えるかすかな脇毛。
その全てが、当時の男性たちにとっては、強烈なインパクトだった事は想像に難くありません。
彼女の魅力は、そういったいかがわしい作品を散々見尽くしてきたスケベ親父にとっても、妙に新鮮でした。

昔の古い映画のポスターが好きで、我が家ではインテリアがわりに、これを、壁一面に貼りまくっています。本作「にがい米」も、当然その中の1枚。
本作はモノクロの映画ですが、ポスターは野口久光画伯の描いた鮮やかなカラー。
野良仕事をしながら、胸を突き出して眩しげに空を見上げる逞しいシルヴァーナ・マンガーノは、リビングの入口脇の、一番目立つところで毎日妖しげに微笑んでいます。
その彼女が着ているセーターは燃えるような赤なので、モノクロの映画であったにもかかわらず、見終わってみれば映画の中の彼女は終始真っ赤なセーターを着ているような印象でした。
習慣とは恐ろしいもので、このポスターのおかげで、シルヴァーナ・マンガーノの若き日の艶姿は、いつのまにやら、潜在意識の中にしっかりと刷り込まれていたのかもしれません。
彼女は1989年に、59歳で亡くなりますが、中年になってから以降も、ピエロ・パオロ・パゾリーニ、ルキノ・ヴィスコンティといったイタリアの巨匠の作品に多く出演して、妖しい熟女の魅力で、強烈な印象を放っています。
そんな映画を浴びるように見ていた僕が、いつの間にやら年上の熟女志向になっていたのは、さもありなんの話で、個人的には、後にイタリアのセクシー女優ラウラ・アントネッリにお熱を上げるようになるのですが、思えばシルヴァーナ・マンガーノはその下地になっていたかもしれません。

日々、野菜づくりに精を出す百姓となった今では、地下鉄の通風口の上に立って純白のスカートを抑えるマリリン・モンローよりも、ブルマーのような野良着で、太ももを露わにして田植えに精を出すシルヴァーナ・マンガーノに、よりセックス・アピールを感じるようになったことだけは、申し上げておきましょう。

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