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勝手にしやがれ 1960年フランス



1960年公開のフランス映画。

トリフォーと並ぶヌーベルバーグの騎手ジャン=リュック・ゴダールの長編デビュー作です。
原案は盟友フランソワーズ・トリフォー。
映画史上においては、諸々の意味でエポック・メイキングな作品なのですが、学生時代に見たか見ないかが定かでありません。
ラスト・シーンを鮮烈に覚えているのですが、果して映画としてちゃんと見たものか、何かの映画特番で、そのシーンだけを見ているのか。
もしくは、巷に出回る映画のスチール写真のイメージに、勝手に音と動きをつけてしまっているのか。
それが、今回改めて鑑賞しても結局わからずじまい。
こんなに記憶があてにならないのなら、名作傑作と言われる作品は、全て見直しておかなければいけないかもしれません。

主演のジャン=ポール・ベルモンドも、ジーン・セバーグも、もちろん魅力的なのですが、この映画を日本で大ヒットさせた影の功労者は、どなたかは存じませんが、個人的にはこのカッコいい邦題をつけた人だと思っています。
原題の”A BOUT SOUFFLÉ”は、フランス語で、「ちょっと息が乱れる」くらいの意味ですから、この邦題のセンスは抜群。
映画の中では、ミッシェルとパトリシアのドライブ中の会話に出てきましたね。
それを映画のイメージに合わせて、上手に拾ったセンスに拍手を送ります。
本作は、後にハリウッドでリメイクされた時には、この原題の意味をとって「ブレスレス」というタイトルになっていましたが、リチャード・ギアが出ていた割には、映画はパッとしませんでした。
日本では、このタイトルのインパクトは強烈なようで、本作の大ヒットの後、ご存知の通り沢田研二の大ヒット曲にも使われましたし、佐野元春のデビュー・アルバムにも同タイトルのナンバーが収録されていました。
セックス・ピストルズの、唯一のオリジナル・アルバムの邦題も、これでしたね。
この邦題が、後の日本のエンタメ業界に与えた影響は、かなり大きいと思われます。

本作は、スタジオから飛び出し、手持ちカメラによるロケーション撮影で全編が撮られています。
とにかくカメラが動き回りますので、効果的に使われた編集がジャンプ・カット。
ワンカットの連続した動きの中の適当な部分を、無造作にハサミを入れてちょん切り、つなぎ合わせるという結構乱暴な編集方法です。
動きがジャンプするように飛ぶので、不自然ではありますが、妙なインパクトと不思議なテンポが出るんですね。
こんな編集方法をやった映画は今までありませんでした。まさにヌーベルバーグです。
実は、このジャンプ・カット、今では世界中のYouTuber たちがこぞって取り入れています。
こちらは、長いと、視聴者から敬遠されて、全編見てもらえないというという事情で、YouTuberたちは、「あー」とか「うー」とか「ええっと」とかいう動画の中の無駄な間を、撮影後にこまめにカットして、時間を凝縮し、テンポをあげようとするわけです。
全くテレビを見ない生活になってしまっているので、YouTube は、個人的には貴重な情報源。
毎日のように鑑賞しているので、ジャンプ・カット多用の動画には、知らず知らず慣らされていたようです。
本作を鑑賞しても、公開当時は斬新だったであろうその編集技術は、今はほとんどなんの違和感もなく受け入れられるようになりました。
ゴダールは、映画を撮り終えた後、製作会社に「長すぎる」と文句を言われて、ならばと、フィルムをランダムにちょん切って繋げて、90分の尺にしたとか。
編集する前のバージョンも見てみたかった気がしますが、おそらく、こちらの方が斬新でヌーベルバーグ感が伝わる気がします。
後の監督たちが、みんなこの手法をこぞって取り入れていくようになりましたから、やはりゴダールの柔軟な感性は、本作によって映画界に大きく貢献したと言えるでしょう。

フランス映画というと、僕の世代ではなんといっても天下の色男アラン・ドロンが筆頭に来てしまいますが、実は彼の人気は日本だけの現象で、本国フランスでの人気は圧倒的にこのふてぶてしいバッドガイ、ジャン=ポール・ベルモンドなのだそうです。
同時期に公開された「太陽がいっぱい」は、日本では大ヒットしましたが、本国では本作の方が興行的には成功しています。
オーソドックスな色男アラン・ドロンでは、確かに、ヌーベルバーグの香りは出せないかもしれません。

本作が、60年代後半にムーヴメントになる、アメリカン・ニュー・シネマに多大な影響を与えたのは有名な話。
特に「俺たちに明日はない」は、かなりの部分で、本作を下敷きにしていますね。
自分の映画からの影響を見て、後にゴダールはなんと言ったか。

多分、「勝手にしやがれ」。

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