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「デザイナーさん」からの脱却

こんにちは。ちゅうさんです。
往々にしてデザイナーやエンジニアは、「デザイナーさん」「エンジニアさん」と役職にさん付けで呼ばれることがないだろうか。特に企画職などのビジネスサイドからで、反対に企画さんとかビジネスさんと呼ぶことはない。

さん付けで呼ぶことが極端にマイナスに感じることは無いかもしれないが、やはり距離感、違和感を感じたりする。実はこの「さん付け」の違和感の中に、なんか上手くいかない、チーム感が無いの正体が眠っているのかもしれない。

この「さん付け」が外れる瞬間が私の周りではあった。その経験を基にデザイナーと主にビジネスサイドのチームのあり方や、デザイナーのビジネスサイドへの向き合い方を語ってみたいと思う。


専門職というセクショナリズム

「デザイナーさん」が生まれる組織構造

役職にさん付けがなぜ違和感を感じるのだろうか。名前に対してではなく、役職に対して敬称を付けていると、パーソナリティではなくデザイナーとしての機能に期待値を持たれている感覚がある。それがNGではないと思うが、不都合が生まれやすくもある。

様々な要因はあると思うが、一番は組織構造によって生み出されると考えられる。ある規模の企業になってくると、エンジニア組織、デザイナー組織とセクションを分ける場合が多い。

マネジメント上の隔たりが存在し、マインドセットやパーソナリティの理解は各セクションの中で循環し、他のセクションに染み出すことは少なくなる。そこに「〇〇さん」の存在は希薄になり、社内でデザイナーやエンジニアに依頼する/される関係と、「デザイナーさん」が生まれるきっかけになる。

よくわからない専門職

依頼する/される関係になると、コミュニケーションミスがとても発生しやすくなる。チームで話すのではなく、要件をまとめて渡すようなことになるので、シームレスな対話は発生せず、質問会であったり、確認会のようなMTGが増える。(もちろん仕組みやカルチャーで上手くいっている組織も多い)

リモートなど環境要因もあるかもしれないが、シームレスかつスピード感もって会話ができず、なんちゃら会を1.5時間やったあと、とりあえず作ってみるみたいな方法は、強いデザイナー以外では大体上手く行かない肌感がある。

上手く伝わらない、レスが遅い、依頼通りじゃない、ユーザーユーザーうるさい、ビジネスサイドの要件がなにもユーザーの考慮をしていない、実現可能性を無視している。などなど。

些細なことから対立構造が生まれ、各セクションの溝は深まり、相互理解はどんどん不可能になってくる。

組織のデザイン機能として個の尊重は薄くなり、チームメンバーのデザイナー主体のプロセスへの関与が下がったり、アウトプットに対しても「デザイナーさんがいいって言っているから大丈夫でしょ」が常態化する。

よく聞く当たり前の話ではあるが、組織ではなくデザイナー個人はどういうアプローチができるのだろう?

(だいたい)誰もが「どうにかしたい」と思っている

前提として持っておきたいのが、皆それぞれプロダクトや事業を、会社を、または社会を「どうにかしたい」と思っているということだ。

【初めてデザイナーと働いたメンバーとの会話】
■デザイナーと働く以前はどうだった?
同じアプリ担当に長くいるのに全くアプリを良いものにできない、何も変えられないのを悔しいと思っていた。
・周囲は変わっていくがその中で居残りされている感じ。成果が見えない状況だった。

■デザイナーと協業してから何か変わった?
・いま成長していこう、よくしていきたいと思うと意識が変わった。
・インタビューに参加して学ばないといけない状況、やりたいことを言語化して対話して実現できたらいいなと思う。

誰もが漠然と良くしていきたいという気持ちがあるものの、具体的な実現方法が思いつかなかったり、現状維持バイアスに囚われてできていないだけだ。視点は違えどそれぞれのメンバーも良くしたいという想いを持っているという前提に立脚するところから始めよう。

互いに探索する姿勢

よく「共にデザインをしていく」という言葉を聞くし、デザインの民主化などもトピックとして挙げられるが、そもそも「デザイン」という言葉に様々なバイアスがかかるのではないだろうか?「UX」という単語と同じように様々な意思や認知の差が入りこむ言葉だ。

感覚的なものではあるかもしれないが、「一緒にデザインをする」「一緒に数字のことを考える」という場の設定やコミュニケーションを取るのではなく、「良いプロダクト/サービスを創るために一緒に探索する」ことを意識したアプローチがいいかもしれない。

【互いに探索するための実践例】
■体制

・プロジェクトの掛け持ちは避ける。そのプロジェクトで探索できるような状況にする。
■日々のコミュニケーション
・オフラインでは同じ場で働く。何か気になったら顔を上げたら会話できるようにする。
・専門性の高い部分を除き、デザインや仕様に関わる話題には全てのメンバーにメンションを付けて、議論に参加を促す。
■MTGの設計
・インタビューは全メンバー参加必須。デザインや仕様に関わる話題も全員参加のMTGで会話する。
・どんなデザインがいいか、実装的に問題がないかではなく、「どうすればユーザーにとって使いやすい◯◯画面になるか」など問いを立てて議論する。
■議論の方法
・「作られたデザイン」から話すのではなく、ユーザーストーリーなどをベースに皆で議論し、プロトタイプ、デザインへとシームレスに対話を移行していく。

「作られたデザイン」とは、デザイナーがよくやるとりあえずデザインを作ってみる行為だ。スピード感があるしモノベースで議論ができるし、イメージも湧く。だがあまりにもモノに寄った議論だ。主軸がデザインになるし、会話の主体もデザイナーになってしまうし、作られた以上それを無駄にしてはいけないように思える。まずデザインを作るのではなく、共に対話し課題に対して探索する姿勢を忘れずに。

【appendix:「専門性で殴る」のは不条理に対抗する最終手段に】
チームで探索していく中でも、常にデザイナーとしての専門性を発揮する。なぜその設計に至ったか、なぜそのリサーチをするのか、対話と理解を常にやっていけば、特に問題はないだろう。
ただ中にはちょっとUXを勉強した、OOUIを読んでみたという具合に、べき論で誤った設計を押し付けて、曲げない人もいる。説明と理解が得られないならば、ありとあらゆるデザインの叡智やガイドラインなどで封殺するしかないだろう。あくまで最終手段であり、プロダクトやサービスを守るためだ。

事業責任者はデザイナーが思う以上にユーザー視点かもしれない

事業責任者はビジネスサイドの中心にいることが多い。デザイナーにとってはユーザー視点が欠けている、お金のことばかり考えているなどと、苦手意識を持たれていたりする。

だが果たしてそうだろうか。会社によっては謎の人事もあるかもしれないが、彼/彼女が意思決定の座に任命されているのには理由があるはずだ。誰よりも会社やプロダクト、ユーザーのことを理解しているのではないだろうか。

極端な例だけどこう思われてそう

そもそもデザインやユーザー視点を持ってくれないという前に、デザイナーは事業全体やビジネスのことへの理解の場を持たない。(関わりたくないであったり、忙殺されていて時間がないなど様々な理由で)
事業責任者を始めとするビジネスメンバーとの対話と紐解きをしてみてほしい。

またそもそもの場の設定が間違っている可能性もある。突然デザインを見せてどう思うか聞いても各論しか言えないし、事業を背負っている身からしたら、ビジネス的な優先度は考慮したかどうか「も」気になる。
要は圧倒的なコミュニケーション不足なのだ。彼らはありとあらゆる外的要因もあるので、常に複数のことを考えないといけない。先週言ったことを忘れて困るかもしれないが、異常な思考量の中にいるのである意味仕方ないのだ。
MTGが始まる前に前提のインストールや、そのMTGで学びたいこと・得たいことを明確にシェアした上で、どの脳みそ/知識を引き出してもらうかセッティングすべきである。

しかし実際のところ、デザイナー以外、つまり経営者も事業責任者もマーケターも、ユーザー、顧客、消費者を見ている。真剣にビジネスに向き合っている人ほど、ユーザーや顧客についての議論に、多くの時間を割いている。デザイン以外の分野でも、顧客視点、顧客理解が大事だと、口を酸っぱく何度も言われている。なぜなら、ビジネスとは突き詰めると「人の理解」に他ならないからである。そして人を理解するということは、そこには当然、人の体験も含まれている。

ユーザーや人間を真剣に理解しようとしてるのは「デザイナーだけ」というのは完全に誤解である。本気でそう思ってるのなら、それはデザイナー以外の人たちのことを知らない、無知からくる驕りといえるかもしれない。そういう発言はデザイナー以外の人たちに失礼なのでは、とも思ってしまう。

https://baigie.me/blog-ui/2024/02/06/what_is_ux/

このあたりはベイジの枌谷さんの記事も是非参考にしてほしい。

【appendix:ユーザーインタビューは得意なのに、ビジネス側へのインタビューは苦手】
私はリサーチャーとしても活動しているので、ユーザーインタビューなどには一定の知見がある。だが社内のメンバーにヒアリングしたりするのはとても苦手だ。
「そんなことも知らないの?」と思われている不安と、そんなことに時間を使っていいのかという不安、そして一種の恐怖心からだ。
デザイナーをしていると知らないフレームワークや、論理が出てくると言葉が違う宇宙人にさえ思える。ユーザーへのインタビューでは探索のモードに入れるが、身内の宇宙人に対しては怖さが勝ってしまう。
ヒアリングしだせば組織構造や事業構造を理解でき、よりビジネスとユーザーに寄り添ったデザインを考えられるが、そのためには同じ釜の飯を食うとか、飲みに行くとか、そういう些細なコミュニケーションから初めて、同じ人間だと認識してみることから始めるといいかもしれない。

軸足があるだけで他に違いはない、という状態を目指そう

結局どういうチームなら「デザイナーさん」が生まれないのだろうか。体制的なものは変えることは出来ないが、前提や対話のセッティングや相互理解を深め、互いに探索する姿勢で取り組めば役職というものは溶けてなくなっていくのではないか。

◯◯な人がちょうどいいのかもしれない

セクションで閉じたコミュニケーションやMTGを行うと、チームとして横でつながっていても、どうしても縦のセクションに閉じてしまう。
相互理解と探索を進めていけば、横のつながりが強くなり、同一の目的意識を持ったデザインやエンジニアリングなどの責任領域を持ったメンバーになる。

ありきたりな結論ではあるかもしれないが、この状態を構築・維持できる能力を持つのはデザイナーだと思う。ファシリテーションやシステムコーチングの能力などに親和性の高い私達なら、目的意識を失わずに共創できるチームを作れる力を発揮できるだろう。
あなたも「デザイナーさん」と呼ばれていて、モヤモヤしているなら是非アプローチの方法を考えてみてほしい。


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