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はじめの一本 

テニスをする上で、必ず通る道がある。
『自分のラケットを用意すること』である。
しかし、困ったことに、何を持ったら良いのかがサッパリわからぬ。
ナダルに憧れてバボラ。
錦織やフェデラーに憧れてウィルソン。
ジョコビッチに憧れてヘッド。
松岡修造に憧れてミズノ。
伊達公子や大坂なおみにあやかってヨネックス。
他にもいろいろありすぎて困る。
『形から入る』とか『憧れの選手が使ってるから』という、日本人が好みそうな選択方法は、果たして自分には最適なのか。
素朴に思う。

『え? 持ってなかったの?』
今まで、職場の先輩から借りてた。
ダンロップのCX200とかCX400とかいうやつを。
でも、『暫定』であって、自分には正直扱いに困ってた。
それは3つの理由がある。
1.飛び過ぎてホームランになる
 つまり、コートの中に収まらないってこと。
 打ち方の問題もあるとは思う。
 面が上に向いてしまうとか、正しく振れてないとか。
 ラケットの握り方が合ってないとかの。

2.飛び過ぎるのを恐れるあまりにラケットを振れない
 これはずっと引きずっていて、球出しで打っても実戦でも飛び過ぎる。
 コートの中にボールを収めないといけないから合わせるだけで終わってし
 まう。
 ストロークでブンブン振り回したいのが人情ってもの。
 それでも、飛ばないラケットを持たせてくれたらしい。

3.ズブズブの素人である
 そもそも自分に合ったラケットは何なのかがわかってない。
 テニスそのものをよくわかってない。

ある日、ラケットショップの近くで所用があった。
『近いから行ってみるか...』と脳天気にふらりと寄った。
品揃えの豊富な店だ。
おまけに試打まで出来て、測定することも出来る。
打ったボールの速度や回転量、予測される軌道など。
測定がなければ打った感覚でしかわからぬが、数字で客観的に示すことで買う方も薦める方も納得の1本を選ぶことが出来る。
そこへラケットメーカーと契約しているプロが絡む。
メーカーが新作を発売する時にある、試打とプロのワンポイントレッスンがセットになってるキャンペーンの一環で『これは…』という一本に出会った。

プリンス ツアー100 O3 

これが良い感触を得ていたラケット。
プリンスは赤いフレームのビーストシリーズを推しているようで、店先にもたくさん並べているのを見て察するのは素人でも容易だった。
全種を打ってみたのだが、感触は悪くないものの、ツアー100 O3を超える感触は得られなかった。
しかし、持ち合わせがないので即買いは見送りとなったが、基準にはなった。
打った感触は、振り抜いた感覚が良くて、ボールの当たりはとても軽くて柔らかくて腕や肩肘にかかる負担も少ない感じがした。
正しいスイングを身に着けて行く過程も無理なく行けそうだ。
これが基準となる。

しばらくは借り物で過ごしていた。
その間にも巡り合ったラケットの感触さえ忘れていたが、買う日も決まったから、その前の最終確認に再び測定してもらうことにした。
カウンセラーの人が測定前にいろいろと好みやら現状を訊いてくれて、いざ試打となる。
ナダルに憧れてるのもあって、バボラはどうかと相談してみたのだが、『今の佐々木さん御希望からはちょっと…』ということで外れる。
そうか、飛んじゃうのかと。
そして、他のメーカのフレームの厚いラケットも対象外となった。
基準としていたラケットに近いものをとなったが、それとて意外なラケットを出して来た訳でもなかった。
フレームの薄いラケットを選ぶことになる。
その過程の中で、今まで借りてたラケット、ダンロップCX400を打ってみたのだが、『こんなに硬かったのか…』と驚いた。
今までは、その硬ささえもわからずに使っていて、しかもそれをフルスイングで打たずに飛んできたボールをただチョンと合わせていただけだった。
『腕力のない自分にはこれはキツイな…』と。
打てば打つほど疲れるだろうなと。
芯を捉えないともっと疲れると。
今は当たり前に芯を捉えることすら出来ぬ状況には辛いことは間違いなかった。
そしてプリンスのラケット。
素人でも打った感覚の違いがわかるのは驚きと発見があった。
いわゆるスイートスポットが広く取られていて、今の自分には助かる。
『今後、上手くなっていくと仮定して…』という希望と楽観的進歩を盛り込んで、協議した結果、基準を超えるラケットはなかった。
『振りに行く、打って出るラケットを選びましょう』と。
『後は、どちらかというと来たボールの勢いを借りて打ち返すには良いでしょうけど、そこまでの…』
みなまで言わせるなということらしい。
『今のあなたには、これ意外にはないから、これで頑張りなさい』ってのを確認と承知の作業になった。
『ここまでやったんだから…』ってなれば買わない訳にも行かない。
お買い上げとなった。
今後辿って行く道筋の中で、下手さをラケットのせいには出来ないが余計なことは考えずに済みそうだ。
買ったは良いが、問題はガットの選択と張り具合。
『これで打ってみて下さい』って言われるがままに打ってみたが、ラケットの重さによる違いは体感出来たものの、ガットまでは気が回らなかった。
『普通でいいです』なんて言ってしまう有様だから、違いなどはわかりようもなく、店に任せることになった。
違和感あったら張り替えてもらうまでのことだと割り切ることにした。
お買い上げとなったものの、ガットを張る時間が欲しいとのことだったので、こっちも急いでないから受領は二日後となった。

待っている間は急いでないとは言ったものの、どこかで急いでる。
こっそりどこかで練習できる場所はないかと探し回った。
テニススクールはないかとネットで検索かけた。
出て来る出て来る….
新しいラケットを傍らに置いて、『これで世界を周るんだ』と妄想は広がる。
















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