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猫(のいない)街


四半世紀とちょっと生きてきて、猫のいない街というものを見たことがありません。

生まれ故郷の小都会ではその辺の家やマンションの前に、
祖母の家のある山奥では納屋や田んぼや店前に、
進学先である山間の学生都市でもいろんなところに、
就職を機に引っ越した街では路地という路地に、
家を持たない猫たちがいました。


一人暮らしを辞めたいま、はじめて野良猫のいない街に住んでいます。
集合住宅が立ち並び、まっすぐで広い道路の通った郊外です。


ここは犬が愛される街のようです。
駅前の大きな分譲マンションに住んでいる人が、よく小型犬を散歩させています。飼い猫はきっと家の中で大切にされているのでしょう。

一軒家の並ぶ地帯は、碁盤の目のようなずいぶんと見晴らしが良い街並みで、やはり広い庭に犬を遊ばせています。ただ塀や屋根で勝手にくつろぐ野良猫は、見たことがありません。

わたしの住んでいるのは、そのちょうど中間地にある集合団地です。こういうところは生き物が飼えません。綺麗に手入れされた敷地内には、鳥ばかりが遊んでいます。

生まれた日から愛らしく、そこらじゅうにいる野良猫は、
そこらじゅうでご飯をもらい、うんちをし、喧嘩をし、花壇を掘り返し、ゴミを漁るので、
可愛がられさえしますが、歓迎はされません。
そして、屋根も食べ物も綺麗な水も限られていて、怪我や病気の絶えない短いいのちを、
春が来るたび、何代も何代も増やしていきます。

そのあたたかな被毛を撫でるとき、彼らと人類の差は何であったかと考えます。

ここは大変住みやすい街です。
でも猫のいない街です。







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