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短編小説集

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2,000~5,000文字程度の短編小説をまとめています。
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お別れまであと五秒

この作品はPrologueの再掲です。 いつからだろう、彼が私を見てくれなくなったのは。気のせいかもしれない。もしかしたら見つめられているのかもしれない。でも、昔に比べて明らかに触れられる回数は減った。今では腕を伸ばしても、なんの反応も返ってこない。私に無関心なのだ。 「あ、この歌手懐かしいね。子供の頃好きだったなあ」 車のスピーカーから流れてくる曲を聴いて、わざと楽しそうに振る舞う。せっかくのドライブなのに、私のせいで険悪になってしまうのは良くない。彼は今そこまで怒っ

姥捨山でピクニックをしよう

※この作品はPrologueに掲載していたものに加筆修正を加えています。 ばあちゃんが変になったのは、あのセールスマンが来てからだ。突然その辺で粗相したり、ご飯をブーっと口から噴き出したり、まるで赤ちゃんじゃないか。 「もう嫌よ、いくらあなたの母親でももう面倒見きれない!」 母さんは、ばあちゃんが変になってからずっと1人で介護していた。 「老人ホームにいれれば?」 思いついて言ってみたが、すぐ母さんのため息が返ってきた。 「どこもかしこも満杯なのよ」 がっくりと

優しい亀の子供

ユウゴは大声で歌を歌っていた。聞いたことのない歌、流行りの曲だろうか?部屋全体に響き渡る声で気持ち良さそうに熱唱している。なぜか俺もそれに続く。 「いい加減うるさいんだけど」 声を発したのは若い女、目の前にいる可愛らしい女性だ。黒いボブヘアがサラリと揺れている。俺の最愛の人だ。ちなみにユウゴも、変わらないくらい愛している。 「集中できない!気が散るし、やかましい。邪魔、出てって欲しいくらい」 彼女はギリギリと奥歯をすりつぶしてこちらを睨みつけてきた。 「そんなこと言

地球を救おうの会

※この作品はPrologueにも掲載しています。 「えー皆さんもご存知の通り、森崎高校は『地球を救おうの会』に参加している県内唯一の高校です。地球温暖化を救いたい、その一心で様々な活動をこれまでにやってまいりました。そしてこの修学旅行は、我々の大事な活動のひとつであります」 「校長先生の話ってなんでこんな長いんだろ」 「地球を救おう〜とか言って、まずあんたのハゲ救う方が先じゃない?って感じ」 「あはは、それ確かに」 うちの校長はハゲで有名だ。ずっとわざとらしいカツラを被

かわいいあの子とかわいくない私

恵梨香はモテる。だってかわいいから。顔もかわいい、中身もかわいい、ぜんぶかわいい。 ストレートの暗髪ボブで清楚なイメージを演出。すっぴん風のナチュラルメイクは男ウケ子ウケ抜群。服装は女子ウケもしやすいキレイめカジュアル。努力で「清楚でかわいい女の子」を作り続ける。これがモテるコツ。男子からも女子からも、「かわいい」って言われ続けるコツ。 「恵梨香、なんか今日良い香りする~」 親友のマリが恵梨香の首筋に顔を近づけながら問いかける。 茶色の長い髪をゆるく巻いて、キレイ目な