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調香師マンガ〜グラースへの道〜第三部 中編

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さて、存在しない調香師マンガのあらすじ、第三部は究極の香水編(@グラース)中編

さて、香水再現が暗礁に乗り上げた主人公の薫が目にしたのは、当時の別の香水の調香メモに残された日本語の走り書きでした。
当時ラーゲンの屋敷にいた日本人は母親だけだった筈。ただし母親は調香師やその助手ではなく単なる使用人だったに過ぎない。一体なぜ?

疑問を抱いた薫は、直接「帝王」を問いただします。「帝王」が語った物語は意外なものでした。

サユリは、風変わりな小娘だった。紹介状も持たず、自分は香りが好きだからこの屋敷で働かせてほしいと言ってきたので、当時の当主であったニコラの父親が面白がって雇った。
サユリは、良く働いた。そんな中、ニコラは彼女が調香の道具や香水に興味を抱いていることに気づいた。ニコラは軽い気持ちでサユリを自分の調香室に入れると、サユリは非常に喜び、凄まじい勢いで知識を吸収しだした。サユリはやがて自分で香水を生み出すようになった。フローラル、ウッディ、グルマンなど、ジャンルは様々だった。
ニコラは調香師だった。それも名門と言われる調香師一家の嫡男として、最高の教育を受けていた。しかしこれといった代表作を世に出したことはなかった。ニコラは若干後ろめたい気持ちがありつつも、サユリが作った香水を自分の名前で出してみた。すると瞬く間に売れた。彼女はそれを知っていた筈だが、気にするそぶりはなかった。彼は自分の名前で彼女の香水を世に出し、人気調香師となっていった。
いつしか彼は奇妙な感情を抱くようになっていた。一方で彼は彼女のひたむきな姿に恋情を抱くようになっていた。もう一方で彼は焦りを感じていた。盗作がバレたら自分は破滅する、と。そして一つの結論に達する。彼女を妻として囲い込んでしまえばいい、と。幸い彼には親が決めた婚約者がいただ、まだ正式な婚姻には至ってないので、何とでもなるだろう。
ニコラはサユリにプロポーズした。当然受け入れらるれると思っていた。何も持たずにフランスにやってきた日本人の小娘は、小躍りして喜ぶに違いない。
しかし返ってきた答えは意外なものだった。サユリは最初は驚いて言葉を失っていたが、やがて口を開きこう言った。
「本当にありがとう。嬉しいわ。でも私は結婚を約束している人がいるの。あなたとは結婚できないわ。私はここで香水を作るのはとても楽しかったし、ずっとこうしていたいと思ったけど、こうなったからには難しそうね。さようなら。」
私は血の気を失い、彼女に掴みかかった。騒ぎを聞きつけて使用人たちがやってきた。元々、使用人の間では彼女が夜な夜な私と二人きりになっている事は噂になっていたようだった。この件は婚約者にも知れ渡り、彼女は主人に手を出された上に捨てられた小娘という汚名を着せられ、屋敷を去ることになった。私はその後、調香師としての自分の才能に見切りをつけ、経営の方に注力することにした。その後の彼女のことは知らない。ただ、彼女が最後に作った「永遠の愛」を持ち出していたことに後から気づいただけさ。

帝王ニコラは話をやめた。
「では、僕はあなたの息子ではないのですか?」
「違う。私はサユリとそのような関係になったことはない」
「そんな筈はない!あなたは僕の父親だ!」
「違う」
そう言って、帝王ニコラは色眼鏡を外した。そこにあったのは、灰色の目だった。
「これでわかっただろう?お前のラベンダーのような紫の目は、私と血の繋がりがないことを示している」
「‥じゃあ、誰が?」
「知らん」

薫は帝王の私室を静かに後にしました。帝王の体が何故か小さく見えました。

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