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リーダーと考える経営の現場・第15回 リーダーシップの旅 後半

前回に引き続き、なぜ私が一人でも多くの方にリーダーになってもらいたいと思うようになったのか、私の「リーダーシップの旅」について、記載をしたいと思います。

リーダーと考える経営の現場(第14回 リーダーシップの旅 前半)

私は、新卒で就職した上場企業でキャリアをスタートし、当該上場企業で経営者となったため、いわゆる「サラリーマン経営者」でした。そのため、株式会社における「パワー」の根源である株式を多く保有しておりませんでした。しかも、当該上場企業の株式を不当に買い占める株主がいるなど、権力基盤は極めて不安定な状況でした。

このような状況下で、メンターのアドバイスから、組織の地位や権限など「パワー」は一切使わずに、リーダーシップだけで企業再生させることを目指すことになりました。

企業再生をしなければならない業績不振企業には特徴があります。それは幹部社員クラスで社内政治が横行するため、一般スタッフの多くは顧客軽視・社内偏重となってやり過ごすこと・動かないことが良い選択肢のように思えてしまうのです。

私が企業再生をしなければならない会社は、過去においては、長年の歴史から来るブランドと莫大な不動産を有しており事業基盤がしっかりしていたので、真正面から事業に取り組むよりも、社内政治をして、地元の大企業の幹部としての名誉ある地位と利益の配分を少しでも多く掠め取ったほうが理にかなっていると思わせるには十分でした。そのような企業体質の中で、バブル崩壊が起き、金融負債が過多となり、業績不振になっていました。

当初の私の企業再生プランは、当該企業はブランドと不動産が事業基盤で、顧客からすればサービス・オペレーションをするスタッフによる付加価値はごく僅かだったため、まずは、とにもかくにも、株主権を行使してでも、一切仕事をせずに社内政治ばかりしている役員を解任(手続きは辞任に追い込む)し、一般スタッフの目線を社内ではなくお客様に戻す必要があると思いました。その後、しっかりと全社一丸となって、経営戦略の策定やマネジメントシステムの再構築などをしたほうがよいと考えました。

合理的な企業再生プランだと思ったのですが、メンターからは反対をされました。理由は簡単です。「その社内政治ばかりしている役員は、一般スタッフの生活のことなど考えずに、赤字の会社の地位に汲々とするような人たちなのだから、向き合って、リーダーとして正しく導きなさい。」ということでした。

言われてみて「それもそうだなぁ。」と思いはするものの、放っておくと、当該役員も企業に残れるか・残れないかの瀬戸際ですから、死に物狂いで嫌がらせをしてきます。たまりかねて、メンターに対して、「なぜ『パワー』を持っているのに行使しないのですか。『パワー』を適切に行使して解任すれば、すぐにこの問題は解決するのではないですか。あなたも昔だったら『パワー』を行使したのではないですか?」と聞いたところ、「自分が若い時でも『パワー』は行使しないと思う。『パワー』を持っていて、なおかつ、人として正しいことをしていれば絶対に負けないから、その人たちと向き合いなさい。」と言われました。また、「『パワー』を行使すればした分だけ、リーダーとしての自分の価値が下がる。」とも言われました。

私が、マネジメントからリーダーシップへと価値観の転換が起きるまで、数年を要しました。

その途中でも、当該役員からは、会社で正式に機関決定したものを、裏で根回しされて嫌がらせされるなどがありました。相変わらず社内政治も横行していました。私も若かったので、不振企業で会社が生き残れるかの瀬戸際なのに、自己保身のために、会社のためにならない酷い行動をとる幹部もいるものだと心底がっかりしました。

私の中で霧が晴れた瞬間がありました。私が、メンターに対して、当該役員の社内政治の酷さを話したところ、メンターから「君は、その彼と同じ程度の人間なのか?」と言われました。この何気ない一言が私に「気づき」を与えてくれました。「あぁなんだ。この役員は弱い人だから邪魔をしていたんだ。本来は、対等な関係ではなく、守ってあげなければならない弱い人なんだ。」と思った瞬間に、私が行ってきた企業再生の進め方の間違いに気づいたのです。

その後、企業再生の成果が出て、徐々に会社の業績が良くなってきたある日、当該役員から、実は改革について自分が何をやっていいか分からないため、不安に駆られており、改革に横やりを入れていたと聞きました。一般的なサラリーマンと同じように、彼もまた「善なれど弱い」人だったのです。

メンターからリーダーシップを教えてもらったおかげで、私は人間的に成長することができたと感謝しています。リーダーシップに興味をもって、様々なリーダーシップに関する本をたくさん読んだのもこのときです。

以前もご紹介しましたが、メンターからは、「本来ならば利害関係の一切生じない人物を、リーダーシップを発揮して口説き落として、会社のために協力させなさい。」や「人生どこで何があるか分からないのだから、敵と思っている人を愛しなさい。」などと教えを受けました。後者については、お正月で、新年の挨拶に行ったときに言われ、年明け早々難しい宿題をもらったものだと思ったものです。

企業再生においても、マネジメントだけでなく、リーダーシップを意識することで、一般スタッフもより自律的に動くようになり活気が生まれました。リーダーシップをもって接することで、多くの人と繋がることができ、奇跡のような出来事が続いて、社会に溶け込むような一体感・連帯感を覚えるようにもなりました。これらの経験を通じて、すっかりリーダーシップの面白さにはまってしまいました。今では情熱をもって人を動かすことの醍醐味を多くの人に知ってもらいたいと思っています。

私の「リーダーシップの旅」は、30代にして、本当にスタートしたと思っています。出会った人を、一人でも多くのリーダーに育てたい。私の旅はまだまだ続きます。



※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2019年2月25日公開の「リーダーと考える経営の現場・第15回 リーダーシップの旅 後半」 を転載したものです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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