高架下と血液パッド
おならをする。
ぶーぶーぶーぶーする。
ぶーぶーぶーぶーしても終わらない。
私の腸はどれだけ長くなったのか。
ぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶーぶっぶっぶぶぶぶぶっ。
1回でこれくらい。
心配になるほどぶーぶーぶーぶーした後、終わったと思ったら肛門近く1メートルぶんくらいの腸が血色を帯びて、急に肌から透けて見えて恐ろしい。
高架下から道路を見上げる。
雲一つない空はただの空色。
進路に沿って道を進もうとするが、ふさがれていて通れないので諦めて支柱の反対にまわる。
枯れているのか分からない茎だけの草が辺りに生える。
思ったよりも光がさしこむ。
生気のまばらな気配がする。
まわりこむと一軒家がぽつんと建っていた。
昭和に建てられたであろう赤い屋根。
掃き出し窓とよばれる両開きの採光窓。
白い蛍光塗料でぬられた外壁。
窓からしかめっ面をしたむくみ顔のおじさんがこちらを見ている。
「通りますね」と一声かけて敷地を通らせてもらう。
うなずくだけの無言の返事。
おじさん、こんなところに家を建てているわりに寛容だな。
どこにたどり着いたかは覚えていない。
部屋の中。
家の中を浮かび上がらせる蛍光灯の光。
カビすら生えなくなりそうな冷めた色味に寒気がする。
私はなぜかうろうろしている。
部屋から部屋へ。
部屋のすみへ。
役割をもらっていない場違いな演者のように。
下腹部右側には、外国語で説明書きが書かれたA5サイズのビニールパッケージのシールがついている。
ぶーぶーぶーぶーすると、透明のそのシールの下で腸が赤くなるのが分かる。
母は恐ろしいような顔をして私のシールを見る。
「なんでこんな血液パッドがついているの」と。
よく見るとシールに見えたパッドの中で、血液が細い管を通ってぐるぐるしている。
血の気が引いた。
煙のように恐怖が襲った。
「怖い。」「お母さん。」
叫びは言葉にならない。
母は「書類を確認してくる」と言って部屋から出ていった。
なんの書類なのかは分からない。
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