5日目・お前は何しに御前崎
10月21日。
知多半島の道の駅あかばねロコステーションで車中泊したものの、夜中の1時過ぎに目覚めてしまい、狭い車内ではくつろぐこともできず、そのままフロントの目隠しを外し、ジムニーのエンジンをかけて一路東へと急ぐ。
気ままな旅とはいえ、先の東京での目的と約束もあって、気持ちは知らず知らずに先に行ってしまうのだ。
闇の半島にもコンビニはあって、昨夜の飲み足らなさから缶ビールを二本と蒸し鶏サラダを購入。
次の道の駅となる潮見坂に車を乗り入れて、さっそく夜中の酒盛り。その酔いの勢いで車中仮眠をして、時間をやり過ごしたのだった。
それでも目覚めたのはまだ夜明け前で、ここで日の出を待つ気持ちの余裕もなく、また慌ただしく東上の途へとついた。
つぎに目指す目的地は勝手知ったる御前崎で、ここで朝食にする算段。
しばらく走るとようやく朝日が昇ってきて、闇の不安な感覚がおさまって安堵としたような落ち着きが訪れる。
御前崎には、3年前だったか立ち寄ったことがあって、あのときは風の強い夕暮れどきで、あたりに人影もなく、追い立てられるように逃げ帰った。
あれは高校時代の同級生と伊豆に温泉旅行に行った帰路で、譲ってもらったばかりのジムニーでの初の車旅だった。
あのときは、癌闘病中のYとの思い出づくりにと行った温泉旅行だったが、思い出づくりは思惑通りに思い出になってしまってYは翌年の10月に他界してしまい、その命日の墓参のために今は逆走しているのだ。
御前崎にはほぼ予定の時間に到着。
朝っぱらからレジャー客がいるはずもなく、敷地をたまにうろつくのは犬のお散歩ばかりで、遠く工事をする重機の音がかえって孤独を誘う。
つまりは広大な広場が貸し切り状態で、こんな環境に身を置けるのが車旅、車中泊旅の余録と、さっそく車中で作ったお茶漬け粥を、蒸し鶏サラダと鯖缶、そしてのどかな景色をおかずに朝食をいただいた。
芝生広場でしばらく大の字になって休みたかったが、横になても飛ばされそうな強風で、いそいそとまた東進をはじめる。
前日までは奈良で高級ホテルに2泊してはいたが、その二日間にも車での移動があったりで、疲れは癒されることはなかった。
走れば走るほど確実に披露は蓄積していて、爽やかなはずの陽光も紫外線のきつさばかりが堪えるのだった。
御前崎を出る前にナビに設定したのは牧之原のコメダ珈琲店で、ここでパソコンの充電を兼ねて作業をすることにした。
車旅での車休めは、ほぼコメダに決めている。
全国至る所に店が点在していて、環境やサービスにハズレがないからだ。
車中泊の翌朝は、真っ先にコメダを探して電源借りてパソコン作業をするしから、旅程のマイルストーンにもなっているのだ。
なんといっても席がゆったりしていて、気兼ねなく作業ができるし、スペースの効率利用むき出しのカフェチェーンの息苦しさとは、まったく趣を異にしているのがいいのだ。
コメダでパソコンの充電はなったが、作業の方は集中してはできず、うたた寝ができたのが収穫といえば収穫。
いくらか疲れも解消されたと思ったが、また走りはじめると疲労感が襲ってきて、2時間ほどの山道を走破して道の駅宇津ノ谷峠に着いたときには、重たいような疲れに襲われていた。
疲れると欲しくなるのは甘いもので、そういえばまだ赤福が残っていたはず。
バックを探って逆さまになった箱をとりだすと、人目も憚らずパーキングエリアの石垣に腰を下ろして赤福ランチ。
この夜の車中泊は道の駅伊東マリンタウンに決めていた。というのも、何年か前に、やはり東上の旅でのこと。ちょうど夜明け前にこのあたりを走っていて、温泉がある道の駅を探したら、そこにあったからで、その朝入った風呂で眺めた朝日が忘れられないからで。
それで、伊豆半島を横断して夕方までに伊東に着きたかったのだが、体力はさておき時間だけは余裕だったので、Yが大学の教養課程で通った三島の校舎に回ってみた。
Yが在三の折、一度訪れていた三島。携帯のナビにエスコートされてわけ行って見ると懐かしさが蘇ってきて、ああ、たしかこんな町だった、あれ、ふたりで麻のタネを蒔いた山はどこだっけ、とキョロキョロしているうちに「目的地に到着しました」。
ウソ!
そこは畑の中の民家の前。あたりに大学らしい建物とてなく、まるでキツネにつままれたよう。
たった一年通っただけの校舎。あたりには遊ぶところは何もなかったから週末のたびに東海道線各駅停車で上京してきていたY、たぶんそれほどの思い入れはなかっただろう。
そう思えば三島にはもう用もなく、三島由紀夫の名前の由来となった地に足踏み入れただけでも良しとしよう、と伊東へのとハンドルを切った。
伊東マリンタウンには、なんとか夕暮れまでには間に合って、さっそく売店に行って、缶ビール300円を小銭買い。
しかし1缶では物足りず、財布に札が入っているのに、わざわざ車までとって返して小銭を持って、もう1缶。
これをちびちびやりながら、夜陰に紛れて着替えを済ませ寝床の準備をしている間、目の前のワンボックスカーが、いつまでもヘッドライトを煌々と照らしていて、これは道の駅ではイエローカードもの。
そこでドライバーの元にいって、ウィンドー越しに尋ねてみた。
「すみません、何かヘッドライトを点けておかないといけない事情でもあるんですか?」
すると、年の頃は30ちょい過ぎか、携帯いじっていた男、突然車内で喚きはじめ、激昂のご様子。
しかし、何をいっているのか聞き取れず、ウィンドー下げるようにジェスチャーで示すと、男はケツに火がついたごとくさらに激昂してしまった。
と、やにわにノブに手をかけてドアを開けたので、そっと身を引くと、出てきた男は185センチは余裕であろう大男。
ありゃりゃ。そう覚悟を決めたが、男は小生には目もくれずに、目の前に駐車のキャンピングカーに向かって行って、叫びだした。
「このキャンピングカー、不法駐車してますよ〜、おまわりさん!」
どうやらそのキャンピングカーのオーナーが小生だと、光栄な勘違いをしてくれたらしく、唾を吐きかけんばかりに男は叫びつづける。
そして、再び運転席にもどると、「警察に通報してやるからな」と、捨て台詞ひとつ履いて駐車場から出て行ったのだった。
「?」
と、お口あんぐりになったところで、夜の食事に和風のレストランへ。
特別空腹だったわけでもなかったが、それまでの小銭買いの反動か、ストレス発散させるごとく、ビールに酒に握りにと、つぎつぎに料理をオーダーしてしまい、余ったポテトといかフライをテイクアウトにして「お愛想」してもラッタところが、5390円也。
別腹ならぬ別財布とはいえ、「わしゃいったい何をしとるんや」
この日の小銭買い
缶ビール2缶 505円
蒸し鶏サラダ 223円
セブンのコーヒー 100円
コメダのモーニング 450円
ゆずレモン・お茶 208円
海苔そば・おにぎり等 402円
缶ビール2缶 603円
温泉 1000円
計 3491円
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