見出し画像

産業革命を担った水車の話

近年、地球温暖化防止の機運が高まってきています。化石燃料に代わって、再生可能エネルギーの利用を進めようという話は、よく耳にする話ではあると思います。では、再生可能エネルギーとはどのようなものでしょうか。

多くの人が思い浮かべるのは太陽光発電かもしれません。

もちろん、太陽光発電も再生可能エネルギーの一つです。しかし、他にも再生可能なエネルギーはいろいろ存在します。水力もその一つです。

トップの写真は、o_kazu_chan様の作品を引用させていただいたものです。水車にはのどかなイメージがありますね。

一方で、歴史的には、水車は産業革命の展開を支えた動力機械という側面もあります。

工業を支えた水車動力

工業化社会の黎明期といえば、石炭と蒸気機関というイメージが一般的かもしれません。

画像1

Wikipediaより引用

イギリスから世界に広がった産業革命は、石炭火力の時代であり、また、地球温暖化の問題の始まりでもありました。

一方で、同じ時期に、地球温暖化防止の切り札である再生可能エネルギーも産業革命を進めていたのです。それが、水力を利用する水車動力でした。

もし、水力を基礎とした工業化のみが世界的に発展したとしたら、現代の地球温暖化問題はなかったかもしれません。

そう考えると現代の地球環境の状況は実に残念に感じます。そうならなかった理由は何だったのでしょうか。

水車の衰退要因は何だったか

【要因1】馬力差
一つは馬力の差でした。

蒸気機関は、石炭を燃やす炎の力を利用する機械です。当然ながら、炎に触れればやけどをします。それほどに局所的に高いエネルギーを発生させる力があります。石炭という塊の中にその高密度のエネルギーが詰まっていると理解することもできます。

一方で、水の流れも確かに強力ですが、炎のような触れることもできないほどの高密度のエネルギーという訳ではありません。普通に触われます。

この差は、機械を動かす馬力の差として大きな差を生みました。

当時の産業革命は、綿織物の製造で進みましたが、工場が大規模になればなるほど、より大規模な動力が必要になりました。蒸気機関がその要請によく応えたのに対し、水車動力は馬力不足が目立ったのです。

とはいえ、実は石炭と水力の馬力差の問題は、決定的なものにはなりませんでした。水車が、工業動力用に目覚ましく進化したためです。

私たちがよく知るこのような水車は、下掛水車と呼ばれます↓

画像2

大正時代の水車小屋(Wikipediaより引用)

この水車は、産業革命時代に形態を変え、全く別物の姿となりました↓

画像3

フランシス水車(Wikipediaより引用)

エネルギー効率10%程度だった下掛け水車は、フランシス水車では90%を超える効率を誇る性能となったのです。

一方で、蒸気機関の効率はせいぜい10%程度でした。

こうした、性能の向上によって、馬力面においては、水車は蒸気機関に比肩し続けることができたのです。

【要因2】立地の制約
蒸気機関と水車動力で差がついた要素がもう一つあります。

輸送の利便性です。

画像4

上の図はイギリスの模式図です(筆者作図)。

マンチェスターは、産業革命初期におけるイギリス有数の綿織物工業地帯でした。動力は蒸気機関です。一方、あまり知名度はありませんが、ベルパーという都市には水車動力の工場がありました。

リバプールは港町です。ここに織物製品を運んで船に積み、海外に輸出しました。

見た目で分かる通り、リバプールに近いのはマンチェスターです。水車を使う場合、水の勢いを利用する必要があり、山間部の地形を選ぶ必要があります。一方、蒸気機関には場所の制約がないので、輸送の利便性を優先し、港に近い平地を選ぶことができます。

山間部を選ぶということは、必然的に海からは遠い立地となるため、製品の輸送面で蒸気機関に不利となりました。

最終的には、立地の不利さが、水力利用が廃れる有力な要因となったと考えられます。

終わりに

産業革命初期に、水車動力は、一度、石炭を中心とする化石燃料に淘汰されました。

しかし、地球温暖化が深刻化した現代において、今度は化石燃料から再生可能エネルギーの利用へ、という逆の変化が始まっています。

水力は、昔から使われてきた再生可能エネルギーの一つです。自然界に存在するこうした再生可能エネルギーは、必ず立地の問題がついて回ります。

そのため、石油や天然ガスなど、現代の化石燃料の役割を再生可能エネルギーが担っていくためには、水車の技術とか、ソーラーパネルの技術とか、個別の技術面だけでなく、どこで利用するのか、どうやって利用するのか、という都市計画的、社会的側面も重要になります。

その意味で、かつて水車利用をしていた都市は、どのようにまちをつくり、どのように生活物資を調達し、発展してきたのか・・・、歴史から学べるものがあるのではないかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?