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読むクラブ・ミュージック(長文記事)

ここ1~2年マイブームになってることのひとつが、クラブミュージックやダンスカルチャーについて書かれた書籍を読むこと。

この手の本はあまり多くないから、↑で紹介されている本とほとんどモロ被りだったりするんだけれど、まぁ仕方ない。

とりあえずの定番本

この手の本のなかで定番なのはやっぱり、ティム・ローレンスの"ラヴ・セイヴス・ザ・デイ"とメル・シェレンの"パラダイス・ガラージの時代"、それからビル・ブルースターの"そして、みんなクレイジーになっていく"の三冊。

70年代のアメリカで生まれたいわゆるアンダーグラウンドのダンスシーンの歴史に興味ある人なら、まず間違いなくどれも面白く読めるはず。

"ラヴ・セイヴズ・ザ・デイ”と”パラダイス・ガラージの時代”はともに70年代~80年代のディスコ黄金期について書かれたもので内容自体はだいたい同じ。ただ、一方はルポ形式、もう一方は自伝なので同じ内容でも書き手によって微妙にニュアンスが異なるから、そのあたりを比較して読んでみるのもいいかもしれない。

もう一冊の"そして、みんなクレイジーになっていく”はもう少し内容のスコープが広くて、UKのノーザンソウルから始まってレゲエ~ディスコ~ヒップホップ~(パラダイス)ガラージ~ハウス~テクノ~ハイエナジーと時系列に沿った形でDJやクラブミュージックの歴史について書かれている。

600ページ超の大ボリュームだけれど、クラブミュージック全体の歴史について体系的に理解したい人にとっては多分この本が一番最適。メルカリやアマゾンでは高値で取引されてるからなかなか手を出しづらいと思うけれど、きちんと勉強したい人であれば多少プレ値で買っても損はないはず。

多くの本が出ているヒップホップ

さて、いわゆるクラブミュージックの中でもリスナー層が格段に広いこともあり、ヒップホップに関する書籍はとても多い。この手の音楽関連本だとジャズ関係の本が圧倒的に多い(ジャズ入門的な書籍の多さが異常)けれど、次に多いジャンルがたぶんヒップホップ。体感ではロックより多い。

日本では長谷川町蔵さんと大和田俊之さんの”文化系のためのヒップホップ入門”なんかが10年くらい前に話題になったりしたけれど、個人的には雑誌VIBEが編集してblastが翻訳版を監修した大判本の”ヒストリー・オブ・ヒップホップ”がとエド・ピスコーがコミック形式で書いた”ヒップホップ家系図”がオススメ。

ヒップホップ家系図の方は去年2色刷りの廉価版が出たから気になる人は買えるうちに買っておくといいかも。

比較的新しい本ではソーレン・ベイカーが書いた"ギャングスター・ラップの歴史"も面白かったかな。サブタイトルにはケンドリック・ラマーまでって書いてあるけど、実際には80年代のギャングスター・ラップ黎明期から東西抗争を経て50セントあたりまでの内容を中心に掘り下げて書かれてる。

最初に挙げた定番本の三冊もそうだけれど、個人的にはこの手の本って全般的に日本で書かれたものよりも洋書を翻訳した本の方が好み。なんというか日本人の変なフィルターがかかってない分、リアリティがあって面白いんだよね。

なかでも読んでて熱くなったのは”ヒストリー・オブ・ヒップホップ”のわりと最初の方に書かれたシュガーヒル・ギャングのインタビュー。

ジョー・ロビンソンJr.は語る。「俺たちは一度だって、自分たちがヒップホップを始めたなんて言ったことはないよ。シュガーヒル・ギャングが元々グループじゃなく、うちのオフクロが仕掛けて作ったもんだってことも認めてる。自分たちがクール・ハークやその他のパイオニアたちと同じカテゴリーに属してるなんて言ったこともない。けど、俺たちだって間違いなく俺たちなりの貢献をしたと思うぜ」。

Blast監修 "THE VIBE HISTORY OF HIP HOP" 39ページより

ヒップホップの歴史ではクール・ハーク、アフリカ・バンバータ、グランマスター・フラッシュの3人のDJが圧倒的レジェンドで、史上初のヒット曲をレコーディングしたシュガーヒル・ギャングは「リアルじゃない」とされ半ば悪者扱いされることもしばしば。そこにあえて切り込んでインタビューしてるのが面白い。

全世界に対してヒップホップという音楽を知らしめたのは間違いなくシュガーヒル・ギャングだから、ここで言ってる「俺たちなりの貢献」の影響の大きさって実は果てしないんだよね。

ちなみにこの"ヒストリー・オブ・ヒップホップ"でへ少しだけ日本人も取り上げられてるんだけど、その対象が当時日本で流行ってた日本語ラップではなく、UKで評価されてた旧メジャーフォース勢だというのがまた面白い。

ヒップホップに比べて少ないハウス・テクノ関連書籍

さて色々と本を読んでいくなかで感じるんだけど、ヒップホップ関連の書籍の多さに比べて、ハウスやテクノについては関連書籍が少ない。

有名な野田努さんの"ブラック・マシン・ミュージック"以外だとロラン・ガルニエの"エレクトロ・ショック"、それから漫画の"マシーンズ・メロディ"くらいかな。

”ブラック・マシン・ミュージック”の名著ぶりはよく知られていて、後に増補版が出版されてたりもするけれど、実は同じ河出書房から邦訳版が出てる"エレクトロ・ショック”もロラン・ガルニエの視点で書かれたロード・ムービー風の本でかなり好きだ。

特に初めてデトロイトへ行ったときのことを思い起こしている章は秀逸。

シカゴの音楽は僕の腰を動かすけれど、デトロイトの音楽は僕の心を動かす。僕はデトロイトの音楽で泣いたことがある。とても強く信じられない感情を伝えてくれるから。「ワールド・2・ワールド」、あるいは「ストリングス・オブ・ライフ」のようなレコードは自分の人生を語るサウンドトラックだよ。何千回聴いても鳥肌が立つ。この財産もまた、金なんかでは買えない。これが僕の本心だ。

ロラン・ガルニエ著”エレクトロ・ショック”226ページより

デトロイトから帰って来てからというもの、そこで感じたことに捧げる曲を作りたいと思っていた。僕は中心となるテーマ、あの町が僕に与えたショックを可能な限り再現できるようなメランコリックなメロディを見つけ出し、そこからいろいろ試して広げていった。明け方の灰色の光がパリの上に昇ってきたとき、僕は”トラック・フォー・マイク”の最後の作業をした。曲を聴き直すことさえせずにベッドの上へ倒れこんだ。

ロラン・ガルニエ著”エレクトロ・ショック”231ページより

当時ヨーロッパでリアルタイムにデトロイトテクノの影響を受け、自分でも曲を作り始めた(そしてオリジネーターからも認められた)DJの側から書かれた本だから、興味がある人は読んでみるといいかもしれない。

あと比較的最近ele-kingから出た本でジェシー・サンダースが自ら書いたハウス・ミュージックの歴史本もなかなかだってかな。

80年代なかばのシカゴのシーンについて当事者の視点から書かれてる。ただ、当事者が書いてるだけあって見方が少し偏ってるから"そして、みんなクレイジーになっていく"と併せて読んだ方がいいと思う。

ちなみにele-kingからはもう一冊、レイブ文化について書かれたものも出てるけど、ヨーロッパのレイブシーンにあまり思い入れがない僕にはあんまり合わなかった。もう少しアンダーグラウンドというかストリート感があるものの方が興味あるし読んでいて面白い。

そういう意味ではドラムンベース(というかジャングル)創世記からブーム全盛期の97年くらいまでを追ったマーティン・ジェイムズの"Drum'n'Bass:終わりなき物語"はわりとハマった。

ドラムンベースは90年代にバブルが弾けたあと、コアなファン以外から取り上げられることがほとんどなくなってしまったから、この本の資料的価値はかなり高いと思う。当時これが翻訳されていて良かった。

あと、これは日本人が書いたものだけど石田昌隆さんの"黒いグルーヴ"も名著。著者自身のルポ本だけどジャマイカとUKのブラック・ミュージックについて書かれていて非常に面白い。

日本じゃあまり話題に上がらないけど、ジャマイカがイギリス連邦の一員ということもあり、実はUKとジャマイカは音楽的にもかなり関係が深い。

アシッドジャズにしろグラウンドビートにしろジャングルにしろ、レゲエだったりジャマイカ移民の影響はかなり大きいのでそうした観点から読んでみてもいいと思う。


そんなわけで今日は僕がいろいろ読んできたクラブミュージック系の書籍についていろいろと書いてみた。

本当はディスクガイド系やアートワーク本、雑誌なんかについても書きたいんだけど、そこまで書くとちょっと長くなり過ぎるから、また別の機会にしよう。

ちなみにamazonのリンク先に飛ぶと分かると思うけど、この手の本って基本的に売り切りで増刷がなかったりすることもあって、古本だとわりと高くなっちゃってるものが多い。

以前も紹介したことがあるけど、意外と図書館に置いてあったりもするから、まずは図書館で借りて読んで気に入ったら買うパターンがおすすめ。

いまネットで書かれたりYoutube動画でYoutuberに解説されてたりする内容って、実は今回書いた本に書かれてるものの引用だったりすることが多い(から間違った内容については間違ったまま引用される)から、興味があるようであればちゃんと一次ソースにあたった方がいいってのが僕の持論。

明日からのゴールデンウィーク、特に大きな予定がないなんて人はこれを機にたまには読書なんかをしてみても面白いかもしれない。

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