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ちっちゃい店のオーナーシェフ青春雑記#5我慢の限界

生意気な若僧だった自覚はある

それでも自分を保つ事が出来るくらいの努力はしたつもりだった

それでも

どうにもならない日はやって来る


同期や先輩に睨まれるのにも慣れて来たものの

それでも面白がって可愛かってくれる奇特な先輩が2人

自分より2年早く入社した同い年の先輩と副料理長

馬鹿で生意気な小僧が、つまずきながらも何とかやって行けたのは2人のお陰だった

職場で2回目の春を迎えた時期

副料理長は他店の料理長に栄転

先輩は地元で家業を継ぐために店を去った

翌日から、賄いは僕の専業になった

「賄いはお前の役目やろ?」

「え・・・今日・・・休みですよね?」



電話で呼び出されて賄いを作って、寮に帰る

どれだけ事細かに引き継ぎのメモを置いて帰っても、呼び出しの電話は鳴り止まない

彼らには、調理台の上に置かれたA4が見えなかったのだ

「なるほど。これがイジメかww」


翌週から、3ヶ月間

1日も休まず働いた

「お前らみたいなのに負けるかよ」


出来るだけ爽やかな笑みで賄いを作り、必要以上の仕込みで上司たちを追い立てた

「もう出来てるんですけど、まだですか〜?」

「僕がペース落としましょうか?ww」


やり過ぎたし、言い過ぎたんだろうと今なら分かる

でも、こっちだって負けるつもりは無かった

いい加減に見かねた役員が仲裁に入り、賄いは当番制に

引き継ぎはスムーズに行われるようになった

余程のことが無い限り、休日のスタッフへの電話は禁止された


・・・のが運の尽きだったのか

その日は思ったより早く訪れた

苦楽を共にした相棒の

思い出したくもない無惨な姿に

自分でも意外なほどあっさりと、心の糸は千切れて燃えた

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