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くるり「In Your Life」と「California Coconuts」を語りまくる。

くるりは2023年10月4日に新しいアルバム「感覚は道標」を出す。14枚目(!)。
その上、ドラムのもっくん(森信行氏)との3人での新しい音。いまオリジナルメンバーの新曲を聴けるなんて思いもしなかった。
素敵なサプライズを仕掛けまくるくるりに、ますます惚れているところ。
先行シングル2曲がたまらなく愛すべき曲なので、(勝手な)歌詞解釈を語りまくる。

「In Your Life」

先行シングル「In Your Life」でのブリティッシュ・ロックを思わせるイントロに、試聴段階から骨抜きになった。
フルで聴くと、ギターの美しさとドラムの力強さ、底を支えるベースの安定感が染み渡ってくる。あぁこれ!とため息をつくような安心毛布の気持ち。

ただ歌詞がいつもと違う。電車に乗っていない。車を運転してる。なくしたはずの鍵を見つけた様子。
今までは、約束は破るし教科書は捨てるしすぐに忘れるし子猫は逃げる。常に雨が降ってるくるりの主人公だったのに。
今回は晴れのち曇りが揺るがない。上昇気流の進行にポジティブなメッセージがあふれていて、聴き手の心も開放される。
くるりが新たな階段を登っている。私たちも追いかける。

「California Coconuts」

アルペジオから始まるイントロに、ほこり混じりの光線を見ているような、暖かいけど切ないような気分にさせられる。
この歌詞は摩訶不思議だ。突然の南の島設定、(カリフォルニアは島ではなさそうやねんけど)などとつっこみ入れつつ聴きはじめる。
演奏はどこまでも懐かしさの4つ打ちを追求し、コーラスも歌謡的な心地がする。くるりのことだから凝りに凝った音に違いないのだけれど、音の仕掛けに気を取られない。歌詞に聴き入ってしまう。

待てよ。現実世界ではなさそうなこの場所は。主人公はきっとこの世の人じゃない、もしくは死期が近いのかもしれない。と、気がついた時には唐突に涙腺崩壊する事態に。

「ロックンロール」で儚い命を散らしそうな若者の叫びを(勝手に)読み取ってしまい、ライブで聴くたびに泣いていた。
最近はある程度平常心で聴けるようになったのだが、そこに出現したのが「California Coconuts」。またも心の沈殿物を引っ掻き回す曲を爆誕させた繁氏。

「There is(always light)」 
どうなんだろう あなたは なんて言うんだろう あなたは

「だいじなこと」 
時が過ぎても覚えてる あなたのことは覚えてる

「Smile」 
あれから時は流れたさ 君の知らない世界になったよ
でもね  僕は君とたくさん笑って 少しずつ大人になった

くるりの歌詞たち

「Smile」と「California Coconuts」には共通点がある。
いずれも「朝の太陽が地上の汚れを光で飛ばす」というニュアンスの歌詞を持っている点だ。
朝が来たから元気に頑張れという励ましは微塵もなく、「ただ照らす」だけ、「有耶無耶にするだけ」でしかない。
残酷な現実は一瞬見えなくても、存在しているんだ。覚悟して今日も生きて。そんなふうに聴こえてきた。

私は岸田繁氏の描く歌詞に死生観を感じている。
亡くなった誰かへの思慕や、空から見ている人に恥じない日々を送りたいと願っている主人公が時に立ち現れ、はっとする。

「California Coconuts」では2番の歌詞で「暖かい南の島から 君の夢叶えるため 歌う」とメッセージを地上に暮らす私たちに直接送っている。
そちらの国は南の島のように暖かいんだね。幸せな気持ちで私たちのことを見守ってくれているんだね。
地上の私たちはこの曲を聴きながら、それぞれ大切な誰かのことを考えているんだと思う。

それにしても朴訥と言っていい繁氏のボーカルにはいつも泣かされる。彼が語りかけるように歌う時、心を全部持っていかれたような心地になる。そんな時に自分の感情が解放されるのだ。

(音楽ライターさん、ぜひ岸田さんに「死生観と歌詞」について掘り下げてインタビューして頂きたいです^^)

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