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宮川慶子が【 Suisui 】に20の質問をするゆるトークインスタライブ-後編-

こちらは、2022年11月30日(水)にInstagramのライブ配信で開催された美術作家のSuisuiへのロングインタビューの文字版アーカイブです。
音声データから文字起こしをした後、文章として読みやすいように編集や補足をしています。
ちょっと長いので記事を前編・中編・後編に分けて掲載しております。

前編はこちら
中編はこちら


エピソード質問

⑫今までの制作で一番苦労したことは何ですか。

【宮川慶子】
作品についてのエピソード質問です。
「今までの制作で(今年の個展で展示した作品でもいいです。)一番苦労したことは何ですか。」

【Suisui】
大きな作品は単純に作業量も多いから物理的に苦労します。
でも一番大変なのは梱包。

【宮川慶子】
制作ではなくて、展示するための梱包作業なんだね!

【Suisui】
実は制作中の大変だったことって忘れちゃう。
よく言う、出産の痛みを忘れるみたいな。

【宮川慶子】
もう生まれたからハッピー!みたいな?産んだことないけど。

【Suisui】
そう!産んだことないけど(笑)
だから記憶に残っている苦労したエピソードは梱包とか、大きな作品を2階のベランダから降ろす作業とか。

【宮川慶子】
梱包は好きですか。それとも嫌いですか?

【Suisui】
嫌い(笑)
でもいるよね、梱包マニアみたいな作家さん。いや偉いと思う、うん。
私も最低限ちゃんとはするんだよ。どちらかというとキチンとしてる方だとは思うんだけど、梱包する作品が大きいと体力がいる。

【宮川慶子】
しかも岩絵具だからキャンバスを木枠から外して、絵を巻いて梱包はできないもんね。

【Suisui】
できない。
岩絵の具も使い方によっては、絵巻き物や掛け軸があるぐらいだから巻けるんだけど、私はぽってり絵の具を塗っていることが多いから巻けないね。

『Swing the boundary』作品部分


⑬浪人時代の記憶に残るエピソードがあったら教えてください。

【宮川慶子】
次の質問に移りまして、「浪人時代が3年間あったと思いますが、記憶に残るエピソードがあったら教えてください。」

【Suisui】
正直あんまり良い思い出がない(笑)
「弱いものは淘汰される」とか「オオカミは生きろ、豚は死ね」って言われて鍛えられてた。私は体も心も弱かったから、死にたくない〜!って頑張ってたな。

【宮川慶子】
そうだよね。。

【Suisui】
修行みたいなかんじ。その中でも、喜びとか楽しみとかあったけどね。根性はついたかな。

【宮川慶子】
根性すごくあると思う!

【Suisui】
朝から晩まで黙って絵を描いていたんだけど、一時期、ずっと歯を食いしばっていたみたいで、お昼にお弁当を食べる時とか、講評が終わった帰りの駅のホームで口が開かなくて、嘘みたいなんだけど必死に力を入れて「う〜〜」パカッて口を開けてました。
3年間ずっとじゃないんだけど、そういう時期もありました。

でも、もちろん辛かっただけではなくて。
一日中同じモチーフを観察して描いていると、目の前のモチーフの中に、光や影の映り込みや、質感や、重力の現象がいっぱいあって、そういう宇宙の仕組みのようなものを感じていました。
デッサンって描くこと以上に見ることが大切なんだよね。見えたことしか描けない。そして描くことで探っていく。目と手の両方で掴んでいく。

10代の頃、私は病気のせいもあって、周りがあんまり見えてなくて、クリアじゃなかった。アトリエに引きこもって、静物画や人物画や植物画に没頭することで、クリアじゃなかった世界の解像度が上がっていくような…。
絵を描くことで、周囲を見て、知って、考えて。それが結局今も繋がっていて、描くことで理解したい、ということなんだと思う。そのベースが浪人時代だったのかなって思います。

左上からクルクマ、チューリップ、アンスリウム
2011年頃
透明水彩絵の具、不透明水彩絵の具、白象紙

【宮川慶子】
描けば描くほど今自分が生きてる世界と接点ができてくる。

【Suisui】
そんな感じ。


⑭いつから現在のテーマに取り組んでいますか?

【宮川慶子】
次の質問に移ります。
「いつから現在のテーマに取り組んでいますか?」

【Suisui】
今の植物とか明るい作風になったのは、2021年。

【宮川慶子】
2021年!割と最近だね。

【Suisui】
うん、コロナ禍になってから。それまでも徐々に変化はあったんだけど、模索してる感じがあって、明確に変わったのはその頃。

「サンクチュアリへ」
2021
S30(910×910mm)
岩絵の具、アクリル絵の具、アートグルー、キャンバス


⑮研究したい内容の変化はありましたか?変化があった場合それはどのような変化ですか?

【宮川慶子】
その流れで次の質問です。
「研究したい内容の変化はありましたか?変化があった場合それはどのような変化ですか?」
Suiちゃんの作品は、作家自身が過ごしてきた時間や周りの環境によって結構変化するような印象なんだけど、自分の環境とかも大きく変わったりしてるのかなって思いました。

【Suisui】
そうだね、割と変わります。根っこは変わってないんだけど、命とか、境界とか繋がりとかを考えながら、その時の環境で考えた結果や周囲の状況で変化している感じかな。


⑯制作を通して発見したことや見えてきた世界はありますか?

【宮川慶子】
なるほど。もう答えてくれた内容になっちゃうかしれませんが、次の質問です。
「制作を通して発見したことや見えてきた世界はありますか?」

【Suisui】
おそらく色々あって、わかりやすい例は2019年の横浜で開催した個展と2022年の東京で開催した個展の変化です。

2019年の個展のタイトルは「揺れる境界」という意味なんですが、2019年頃は、色々な物の境界…例えば生と死、記憶と現実、自分と誰か、とか、そういったものの境界はカーテンのように揺れる薄い布みたいなもので、その揺らぎを運命的に受け入れるような作品を制作していました。

個展「Swaying baundary」展示風景
(f.e.i art gallery, 2019)

そして2022年のこの前の個展のタイトルが「境界を揺るがす」という意味でした。運命的に受け入れる受容の段階から発展して、 私たちはその境界を鳥が飛び交うように内側からすり抜けていくような力を持ってるんじゃないかなと考えるようになりました。

個展「Swing the boundary」展示風景
(Gallery Field, 2022)

【宮川慶子】
なんかちょっと主体的になったね。

【Suisui】
絵の雰囲気は明るくなったんだけど、根本は少しパワー出たぞ!みたいな。エネルギーがあるような、開放的な考え方が入ってきた。

【宮川慶子】
結構ポジティブな変化ですね。
面白いね。見えてきた世界がだんだんはっきりしてきたね。最初のまだ中高生の時のSuiちゃんから見た世界の見え方と比べると、格段に解像度が上がっている。

【Suisui】
周りを見るところから始めて、受け入れるのに精一杯だった段階から、自我が芽生え始めたって感じなのかもしれない。


⑰これから作風の変化はありそうですか?

【宮川慶子】
じゃあ、次の質問です。
「これから作風の変化はありそうですか?」

【Suisui】
あると思います。私の大元は変わらないかもしれないんだけど、そのベースの上で変化していくと思います。
まだうまくいってないから発表してないんだけど、最近はずっと立体作品の試作を作ってて。
2023年の展示では発表したいなと。頑張る。


⑱Suisuiにとって、作品を作ること、展示をすることはどんな意味や役割を持ちますか?

【宮川慶子】
では、展示の話もされていたので流れとして、次の質問です。
「Suiちゃんにとって、作品を作ること、展示をすることはどんな意味や役割を持ちますか?」

【Suisui】
思考するための手段、理解するための手段。
考えたことを視覚的に表現して、言語化もして、それを客観視して、また考えながら作る。その客観視として役立つのが発表の場。 色々考えながら作った作品や展示空間を発表して、自分と第三者が共に見て、さらに考える場所です。

【宮川慶子】
繋がってるんですね、展示を通して。
これは質問リストに入ってないんですけど、
作家人生は、あと何年ぐらいとか考えてたりしますか。何歳までやりたいですか?

【Suisui】
終わりとかわかんないな…死ぬまで。描けなくなるまで。
重い病気になったりして、本当にどうしようもないとかじゃない限りはやめるっていう選択肢がないかな。

3人展「旅」設営風景
(Gallery Field, 2022)


⑲『カードキャプターさくら』が好きなのはなぜですか?

【宮川慶子】
良い話を聞いたあと残り2問の質問ですが、突然ふざけた内容です。
Suiちゃんは『カードキャプターさくら』が好きなのはなぜですか?

【Suisui】
強火のファンからするとぬるいかもなんだけど、好きです!

【宮川慶子】
「カードキャプターさくら」の話を始める前の追加情報として、Suiちゃんが学部卒業、私が院を修了する3月に一緒に卒業旅行に行こうと計画し、 二人で香港へ行ったんだよね。香港に行く事前学習として、『劇場版カードキャプターさくら』を視聴してから行ったというエピソードがあります。

左:香港に向かう宮川とSuisui、羽田空港にて
右:九龍のネイザンロードを歩くSuisui
(2016年3月)

【Suisui】
そうそう。小狼君の故郷の香港が舞台の劇場版を 2人で視聴して、「よし、これで香港大丈夫!」って(笑)
当日は「これカードキャプターさくらで見た!」とか言いながら観光していました。

どういったところに惹かれているか…。
好きな理由はまず、絵がすごく綺麗!
コミックもアニメもどっちも絵がすごく綺麗で、 シンプルに美しい世界だなと子供の頃見て感動していました。
あとね、自分とさくらちゃんが全然違うところ。
さくらちゃんに限らず登場人物全員なんだけど、人の気持ちに寄り添い、誰かの大切なものを自分事のように大切にできる。
生まれ変わったらさくらちゃんみたいな心優しい子になりたいって思っていた小学生だった。

【宮川慶子】
小学生の時にそれを思うんだ!面白い。

【Suisui】
自分にはなれない存在…まあ、魔法使えない時点でなれないんだけど。
とにかく自分には到底なれない眩しさがあった。

【宮川慶子】
なるほど。眩しい人物なんですね。
作品の影響とかってあったりしますか?

【Suisui】
わかりやすい影響は、例えば画面いっぱいに広がる植物とか、花びらとか、ひらひら揺れる布とかそういうビジュアル的な世界観は少女漫画、特にカードキャプターさくらをルーツにしてるように思います。

「Deep deam」
2020
F3(220×273mm)
岩絵の具、アートグルー、雲肌麻紙

【宮川慶子】
Suiちゃんは結構少女漫画とか読んだりするの?

【Suisui】
そうだね、ベースは少年漫画よりは少女漫画かな。
美しいと思うものや、理想の世界を考えた時に、少女漫画の世界観が自分の中に深く染み込んでいるのかなって感じる時はあります。
『カードキャプターさくら』で起こる「災い」の性質や、ストーリーの端々からもわかるように、精神的なものにより重きが置かれているのが少女漫画なのかなと。

【宮川慶子】
全然私と違うから新鮮です。

【Suisui】
あと他に『カードキャプターさくら』で好きなところは、男性キャラクターの家事能力が高くて、家庭内やストーリー上でのジェンダー役割が脱ステレオタイプ的だったり、同性愛や多様な愛のあり方についても自然なこととしてキャラクターたちの人間関係が描かれているのがいいなって。

もちろん『カードキャプターさくら』が完全なる理想とは思ってないよ。
例えば小学生と教員のカップルとか、そういった子どもと大人のカップルも素敵な描かれ方で複数組出てくるんだけど、それに関しては真の理想にはなり得なくて。大人と子どもの対等な恋愛関係を実現するためには、フィクションの世界だと大人のように成熟した精神や判断力・社会的な自己決定権などを持つ子どもを登場させることができるけど、現実には不可能だから。


⑳自分と似てると思うキャラクターはいますか?そのキャラクターは好きですか?

【宮川慶子】
『カードキャプターさくら』だけじゃなくていいんですけど、キャラ繋がりの次の質問です。
「自分と似てると思うキャラクターはいますか?そのキャラクターは好きですか?」

【Suisui】
『カードキャプターさくら』の中だったら私はケロちゃん!
関西弁なのと、よく仮の姿のケロちゃんの顔みたいな「点・点・ぴゅ」ってかんじの、単純なデザインのゆるキャラに似てるって言われることが多かったから(笑)
なので、あえて言うならケロちゃん。

【宮川慶子】
なる。ケロちゃんは好きですか?

【Suisui】
ケロちゃんは大好き。

【宮川慶子】
好きなキャラクターと自分は一致してますね!
ケロちゃんって実は怪物なんだっけ。

【Suisui】
封印の獣。

【宮川慶子】
ケロちゃんの真の姿もSuiちゃんは自分だなとか思ったりする?

【Suisui】
時々、自己認識してるより私って体が大きい!って自分でもびっくりする時がある。

【宮川慶子】
へえ。自己認識と実際が異なるのか。

【Suisui】
自分のボディーイメージよりも、実際の身体は手足が長くて、距離感が違う。

【宮川慶子】
私は結構自分は大きいつもりで動いているのだけど、客観的に見たらチビじゃん!みたいな。Suiちゃんと逆だね。


おわりに

【宮川慶子】
そんなわけで20の質問は以上です。
最後に展示のお知らせなどはありますか?

【Suisui】
予定はありがたいことに2024年ぐらいまで色々入っています。

【宮川慶子】
おお、すごい。

【Suisui】
2023年は個展もあります。 7月に初めて関西で個展、しかも大好きな神戸で企画していただいています。
あとは東京でのグループ展を中心に、2024年ぐらいまでポツポツ予定があるので、頑張って制作します。

【宮川慶子】
締め切りが重なり大変かと思いますが頑張ってください!
また作業通話しましょう。ありがとうございます。

【Suisui】
ありがとうございます!




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