見出し画像

宮川慶子が【 Suisui 】に20の質問をするゆるトークインスタライブ-前編-

こちらは、2022年11月30日(水)にInstagramのライブ配信で開催された美術作家のSuisuiへのロングインタビューの文字版アーカイブです。
音声データから文字起こしをした後、文章として読みやすいように編集しています。
ちょっと長いので記事を前編・中編・後編に分けて掲載しております。

中編はこちら
後編はこちら

Suisuiとは


Suisui

美術作家。生命と生命にまつわる繋がりや境界についてをテーマとし、平面作品をメインに制作を行う。


はじまりはじまり

【宮川慶子】
美術作家のSuisuiさんに20の質問をします。
前情報として、Suiちゃんと私は、ほぼ毎日作業通話をしています。
今、私はロンドンに住んでるから日本との時差が9時間で、私は昼の12時、Suiちゃんは夜の9時だよね。
そうやって日々作業通話をしていたある時、友人の片平ゆふ子さんの作品に対して素朴な疑問が湧いたことにより、twitterのスペースで片平ゆふ子さんに2人から質問する会をしました。
(※片平ゆふ子さんのアーカイブ記事は諸事情により一時的に非公開にしています。2024年に再公開予定です。)
そして今回、第2弾としてSuisuiに質問する会ってことにしたんだよね。

ロンドン(上:宮川)と日本(下:Suisui)の
それぞれのアトリエからライブ配信

【Suisui】
第3弾は宮川慶子に質問する会をします!

【宮川慶子】
怖いけど楽しみにしています!

【Suisui】
ワクワク!


人物像

①出身大学と専攻、卒業年を教えてください。

【宮川慶子】
じゃあ、質問していこう。
質問を20個を用意していて、とても素朴な質問が第1問目なんですが。
出身大学と専攻、卒業年を教えてください。

【Suisui】
出身は女子美術大学芸術学部美術学科日本画専攻で、卒業年は2016年です。


②そこを選んだ理由、学んだことや作品に影響していることはありますか?

【宮川慶子】
にゃるほど、 じゃあ2問目が、そこを選んだ理由や、学んだこと。あと、作品に影響してることがあったら教えてください。

【Suisui】
まず、日本画を専攻しようと決めました。日本画を選んだ理由は絵画がやりたかったから。
絵画だと日本の美大の場合は油絵か日本画かというざっくりとした選択肢がある中で、油絵の画材は体質的に合いませんでした。
揮発性の画溶液が体に合わなくて気分悪くなっちゃったり、ひどい場合は、描きたての油絵がいっぱい展示してある美祭や卒展の空間に1歩入っただけで倒れそうになるんです。
油絵自体にはとても興味があるけど、体質的に無理だなってなりました。

他には、子供の頃に通っていた絵画教室の先生が、創画会の作家さんだったことも影響しているかも。
現代の「日本画」を初めて見たのは、その先生の個展でした。日本画という言葉からイメージしていたものとは違っていて、額に入っていて大きくて重厚で、西洋的な絵画で驚きましたが、絵肌がキラキラして色がすごく綺麗だなっていうのが、最初の日本画の印象でした。

女子美を選んだ理由に関しては、私は三浪していて、三浪目で唯一受けた私立が女子美だったんですよ。
なぜかというと、女子美は試験日程が2月頭と早くて、東京藝大の入試までに体調を立て直す期間が確保できるからでした。

【宮川慶子】
五美大の中で受験日が1番最初だよね女子美。

【Suisui】
そうそう。
私は体が強くなかったのと、あと兵庫県から泊まりがけで受験しに行かないといけなかったから。一校乗り切ったら、絶対にそのあと熱を出したり、体調を崩して寝込んだりしてたので、たくさんは受けれなくて。となると、私立は結果的に女子美しか受けなかったっていう感じかな。

【宮川慶子】
うんうん。

【Suisui】
影響を受けたこと…女子美に行って面白かったなと思うのは、女子美の日本画研究室は日本画材料研究が盛んで、粉体工学のレベルから岩絵の具について学ぶことができたのはすごく良かったなと思いますね。
自分で拾ってきた石を、自分で粉砕して絵の具を作ったり。

女子美術大学日本画専攻「日本画材料研究」より
(https://www.joshibi.net/nihonga/)

【宮川慶子】
えー!楽しそう!

【Suisui】
今はもう退官された橋本弘安先生に、この石で絵の具作りたいですって持っていくと、まずはジョークラッシャーなどの粉砕機でガガガって粉砕するところから始まり、いくつかの工程を経て、岩の絵具の状態になるまで行うことができる設備が整っていて、すごく面白かった。

【宮川慶子】
Suiちゃんにとっては小さい頃に習っていたお絵描き教室の先生が日本画の人だったのも大きいね。
たまたま通ったお絵描き教室の先生が油絵の具を使う先生だったら、体に合わないから教室行きたくないとか、体調悪くなって絵が嫌いになってた可能性も!?

【Suisui】
確かにー。でも日本画の作家さんの教室だったけど日本画を学んではいなくて、水彩絵の具や鉛筆でモチーフ観察して描いたり、風景画描いたりだった。

【宮川慶子】
なるほど。

【Suisui】
でももし油絵の教室だったら、自分が油絵描いてなくても、近くで描いてる人がいるだけで体調悪くなっちゃうから、行けなくなっていたかもしれないね。

【宮川慶子】
油絵の匂い嗅ぐと、鼻水止まらなくなるんだよ。私、受験生の時にずっと鼻水垂らしてて。まあ、普段から垂らし系なんだけど、いやでも垂らしすぎだろうと思ってたから、私もそういうことなんだろうな。


③なぜ「Suisui」というアーティスト名なんですか?

【宮川慶子】
次の質問で、なぜ「Suisui」というアーティスト名なんですか?

【Suisui】
学生時代の愛称なんだけど、「すいちゃん」とか「すいすい」って呼ばれていたので、そのままアーティスト名にしました。

なぜアーティスト名にしたかというと…。
私は大学生の頃、障害者福祉施設の余暇支援サークルの絵画教室講師を勤めていたこともあって、大学卒業後は地元の特別支援学校の教員をし始めたんですが(※現在はフリーランス)、アーティストとしての自分と教員としての自分を分けたかったんですよね。
そして本名じゃないアーティスト名で活動するとなった時に考えたのが、日本画家っぽくない名前がいいということでした。

日本画って明確な定義が曖昧で、何をもって日本画と分類するのかは画材によるものとするのが一般的になっています。ここで言う日本画は、明治期にヨーロッパから入ってきた洋画に対抗して生み出された明治維新以降のもので、主題や様式においては洋画との明確な区別はつかなくなっており、日本の伝統画材にアイデンティティを依存しています。

日本画専攻の学生は卒業制作として100号以上の大作を制作します。私も200号を2枚繋げた幅5m以上の大作を仕上げました。
その際に指導されていたのは、完成間近に絵が裂けないように気をつけましょうということでした。素材の性質として、膠と和紙は縮むので、大画面に膠で厚塗りしていくとどんどん縮んでパネルが歪み、酷ければ和紙が真ん中で裂けて絵が台無しになります。それを学生たちは教わるテクニックでなんとかしたり、なんとかできなかったり。
そういうものだと大学で指導されること自体に当時の私はひっそりと疑問を抱き、卒業制作には膠ではなくアクリル樹脂製のメディウムを使用しました。

渉る仔たち
2016
F200×2(5180×1815mm)
岩絵の具、アートグルー、雲肌麻紙
卒業制作優秀作品賞

従来の日本の伝統絵画は、西洋画のような一枚の大画面には描かれてはいなくて、岩絵具と膠で大きな画面に厚塗りして描く現代の使われ方は膠の性質には合っていません。アイデンティティを日本の伝統画材に依存した状態で西洋化された現代の日本画の、偏った「伝統」に対する保守的な側面に馴染めず、また自分自身のアーティストとしての気質や制作への向き合い方を考えたとき、日本画という枠組みは私の活動フィールドには適さないかもと徐々に考えるようになりました。

私は日本画専攻で学び、岩絵の具を使って絵を描いているからおのずと日本画家と呼ばれることがほとんどでしたが、自分が何を軸足にして作品を作っているのかクリアにしたくて、日本画家っぽくないアーティスト名にし、美術作家と名乗るようになりました。

【宮川慶子】
なるほど。
ということは卒業してからアーティスト名をつけてたんだね。

【Suisui】
卒業前ぐらいから、ちょっとずつアーティスト名にしようとはして、はじめはもっと私の名前っぽいのにしてたんだけど、最終的には勤め先の生徒や保護者の方が私の本名を検索したときにアーティストとしての私が出てこないくらいの距離感がいいなって。なので特にアーティストとして本名を隠しているわけではないんだけど。

【宮川慶子】
うん、確かに。便利だと思う。私は高校の先生をしてたけど、名前をみんなが検索してくれるから、アーティストとしての私のこともわかるんだよね。

【Suisui】
それはそれでいいよね。
慶子ちゃんの勤め先は美術系の高校生達だし。

【宮川慶子】
そうなんです、なのでありがたいですけど。


作品について

④作品のコンセプトを教えてください。

【宮川慶子】
Suiちゃんは9月に江戸川橋のギャラリーで個展をしたり、 10月に台湾のアートフェアに出したり、結構忙しい制作をしてますよね。そういうわけで私たちは毎日作業通話をしてます。
改めて、作品のコンセプトを教えてください。

【Suisui】
作品コンセプトは、「生命と生命にまつわる繋がりや境界」をテーマに、その時々に考えていることからコンセプトを立てて制作しています。


⑤サンクチュアリや境界などの場所や空間を考えさせる言葉を使う印象がありますが、それはなぜですか?

【宮川慶子】
繋がりや境界。Suiちゃんの制作の話を聞いてる時に、サンクチュアリとか、境界とか、場所や空間を考えさせる言葉を使う印象があるんだけど、それはなぜですか?

【Suisui】
10代の頃の身体感覚がベースになっているように思います。
生まれつき少し感覚過敏もあるんだけど、10代後半にストレスが原因で左内耳の平衡感覚をつかさどる器官の機能が低下したことによるめまいや転倒に悩まされたのと、人混みや他者の言動などの外的要因で脳貧血を起こして倒れることがよくありました。
起立性調節障害や自律神経失調症に似た症状も出ていたので、基本的に午前中は意識が朦朧として、水槽の中から周囲を見ているような、自分とそれ以外の世界の隔たりを身体感覚として毎日感じていました。

その時の体験がベースとなって、生きる上で遭遇する、存在と存在あるいは事象と事象の間にある違いや隔たりと、それでも相互に与え合う影響やそれらが混ざり合う境界に興味が向くようになりました。

【宮川慶子】
なるほど。最近は出てこないけど、以前の作品にはレースのカーテンにワンちゃんが包まれるような表現があって、絵の中にもそういう部分は感じられる。そういうことなんだね。

Swaying red ribbon
2019
SM(227×158mm)
岩絵具、アートグルー、雲肌麻紙
(個人蔵)


⑥動植物を描いているのはなぜですか?

【宮川慶子】
じゃあそこからの作品についての質問で、動植物を描いているのはなぜですか?

【Suisui】
動物の中でも特によく描いてきたのは犬なんですが、それは子供の頃から1番一緒に暮らしてきた動物が、私は犬だったからです。
犬って人間語を話さないけど、人間とかなりコミュニケーションが取れますよね。でもやっぱり別の種族だから、完全には理解できない。犬は人間を分かりたいと思って見てるし、人間も犬を分かりたいと思って見てる。近さを感じるけど、遠さも感じる存在。

高校生の終わり頃に、子供の頃から初めて一緒に暮らしてきた犬を病気で亡くした後、ずっと一緒にいたのに亡くなった子のことを全然わかってなかったことに気づいたんです。
喪失感の中、『アンジュール』という絵本を知りました。本屋さんでもよく見かけるんですが、ガブリエル・バンサン作のとある1匹の犬の物語で、言葉は一切なく、鉛筆の線や描かれた犬の佇まいから犬の気持ちが痛いほど伝わってくる名作です。鉛筆の線から、私が分かっていなかった犬の内面が伝わってくるような気がしました。

最初の犬が亡くなってから約1年後にまた犬を飼い始めたんですが、スケッチブックに何冊もその子をスケッチするようになりました。それが始まりです。

18歳〜20歳頃に描いた犬のスケッチの一部

【宮川慶子】
ふむふむ。

【Suisui】
最近は植物、特に木を描いているのは、場所を作ったり守ったりするものだからです。
私は自然が豊かな山間部で育ったんですが、身近に鎮守の杜に囲われた神社が、大きいものから小さいものまであちこちにあって、そこが普段は子供の遊び場にもなり、お祭りの時には村のみんなが集まる。
そういう木に囲われた場所、木々が境界になっている場所は、その森の中に入ると違う空間というか、空気があります。

【宮川慶子】
ありがとうございます。納得です。

個展「Swing the boundary」展示風景
(Gallery Field, 2022)


中編へ続く!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?