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『無職本』装丁の元ネタはエレファントカシマシの『生活』です。

2020年7月初旬に刊行した『無職本』ですが、特に装丁が印象的で目立ってインパクトがあるという声をよく耳にします。白地に黒い太字で「無職本」のみと至ってシンプルな装丁。このような奇をてらった装丁にすることに企画者としては不安はあったものの、どちらかというと好意的な声が(たぶん)多く聞こえてきて少し安堵したところがあります。

また、2020年8月7日に放送されたNHKラジオ第1「高橋源一郎の飛ぶ教室」内で小説家の高橋源一郎さんに「ジャケ買い」していただき、アナウンサーの小野文恵さんには「6畳一間の真っ白い部屋に無職の人が大の字になって本を読んでる、みたいな。」という印象を持っていただきましたが、(放送内容の文字起こしはこちらから。→「職業ってなんだろうね!」)そんなお二人の言葉は、私が『無職本』の装丁に託したイメージというものがきちんと伝わっているのだと自惚れてしまうような大変嬉しい言葉でもありました。
それは、タイトルにもありますが、『無職本』の装丁はロックバンド・エレファントカシマシの4枚目のアルバム『生活』のジャケットを引用しています。装丁打ち合わせの際にもブックデザイナーの方に『無職本』の装丁イメージを伝えるために自宅から『生活』を持参し制作を依頼しました。

というのも、私が「無職の生活」で想起したのがエレカシの『生活』収録曲のイメージでした。実際に事務所に所属し「エレファントカシマシ」というバンドで活動している当時の宮本浩次氏は無職でもなんでもないのですが、ひたすら自部屋で自問自答し、近所を散歩し目についた光景そのままを詩にして、孤独に世の中と自分の在り方を考え抜く。そんな人の「生活」というものは傍から見ると何もしていない人と見えてしまい、他者からの視線も相まって己自身も無意味な時間を過ごしていると悲観してしまうかもしれませんが、この『生活』収録曲のように苦しくも自分自身の人生と対峙する時間は絶対に必要な時間で、振り返ってみると実は充実した時間でもあり、つまりは、すべての人の「生活」している時間に無駄な時間など一切ないという説得力を十分過ぎるほどに持っているものだと(勝手に)感じ、そして、極私的内省的世界に終始し鬱屈した世界観を強要するこの『生活』という傍迷惑で力強いアルバムと同様の精神性を『無職本』にも宿したいと思い、装丁は『生活』のジャケットに寄せた形になりました。

本日2020年9月1日のちょうど三十年前の1990年9月1日に『生活』が発売されています。
そして、このエレファントカシマシ四枚目のアルバム『生活』に水窓出版刊行四点目『無職本』を合わせるという極私的な満足感があります。

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内容
どこにでもいる普遍的な人々が「無職」という肩書がついたときに考えていたこと、感じたことを、それぞれの表現方法で自由に書いてもらいました。
目次
無職ってなに?/松尾よういちろう
職業:無職/幸田夢波
無色透明/太田靖久
平日/スズキスズヒロ
底辺と無職/銀歯
僕、映画監督です!/竹馬靖具
浮草稼業/茶田記麦
本のなかを流れる時間、心のなかを流れる時間/小野太郎
著者プロフィール
松尾 よういちろう (マツオ ヨウイチロウ) (著/文)
1981年4月8日 愛知県名古屋市生まれ。
2008年~2020年3月までフォークロックバンド「井乃頭蓄音団」のオリジナルメンバーとしてボーカルを担当、フルアルバム6枚を発表。現在はソロで活動中。日本のフォークソングに傾倒しており、中でも高田渡、さだまさしに影響を受ける。家族や故郷を題材にした歌が多く、日常の些細な出来事を切り取り、優しく温かくユーモラスに描く。
フジテレビの音楽番組「お台場フォーク村デラックス」に出演して以来、THE ALFEEの坂崎幸之助氏から恩顧を受ける。FUJI ROCK FESTIVAL 2015(木道亭/Gypsy Avalon)&2016(苗場食堂)と、異例の2年連続出演を果たす。2016年出演の際は、鈴木慶一氏(はちみつぱい/ムーンライダーズ)と共演。ARABAKI ROCK FEST.2018ではフラワーカンパニーズ、あがた森魚氏、曽我部恵一氏他と一夜限りのユニットとして出演。鈴木茂氏(はっぴいえんど)、暴動(グループ魂)、樋口了一氏などとも共演。
松尾よういちろうHP: http://ma-yo.info
幸田 夢波 (コウダ ユメハ) (著/文)
声優ブロガー。オンラインサロン『夢波サロン』オーナー。高校生で声優デビューし大学在学中にアーティストデビュー。約8年間の声優事務所所属ののち、フリーランスとなりブロガーになる。ブログでは声優業界のあまり知られていない裏側の話やフリーランスとして働く上で必要な知識などの記事を公開中。
ブログ:幸田夢波のブログ(https://yumemon.com/)
Twitter:@dreaming_wave
太田 靖久 (オオタ ヤスヒサ) (著/文)
1975年生。神奈川県出身。2010年『ののの』で第42回新潮新人賞。2019年に電子書籍『サマートリップ 他二編』(集英社)刊行。フィルムアート社ウェブマガジン「かみのたね」にて『犬たちの状態 犬を通して世界を認識するための連作』(共作/写真家・金川晋吾)を連載。その他、インディペンデント文芸ZINE『ODD ZINE』を企画編集している。
スズキ スズヒロ (スズキ スズヒロ) (著/文)
1992年宮城県仙台市生まれで在住。小学3年生の時、「石ノ森章太郎のマンガ家入門」を読んでマンガを描き始める。著書に『空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集』(イースト・プレス)がある。第2種電気工事士、危険物取扱者などの資格を保有している。
銀歯 (ギンバ) (著/文)
名前 銀歯
年齢 39歳
住処 不詳
職業 底辺労働者
田舎で生まれ育ち、底辺労働を続ける傍らで、クルマで山道をドライブしながらYouTubeにて底辺労働者の日常や仕事のこと、自己哲学を延々と垂れ流すラジオ動画を投稿し続けている。期間工、ブラック企業、工場労働、零細企業で主に働く。
竹馬 靖具 (チクマ ヤストモ) (著/文)
1983年生まれ。2009年に監督、脚本、主演を務めた「今、僕は」を全国公開。2011年に真利子哲也の映画「NINIFUNI」の脚本を執筆。2015年、監督、脚本、製作をした「蜃気楼の舟」が世界七大映画祭に数えられるカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のフォーラム・オブ・インディペンデントコンペティションに正式出品され、2016年1月より、アップリンク配給により全国公開。2020年、夏より映画「ふたつのシルエット」がアップリンク吉祥寺ほか全国公開。
茶田記 麦 (チャタキ ムギ) (著/文)
1981年7月、水面と同じ高さの東京下町で生まれ、川を越え坂を上り山の手の学校に通ったため、どこ育ちと地名とともにアイデンティティを語ることが難しい。小中高をエスカレーター式の女子校で過ごし、早稲田大学第一文学部を卒業。現在は千代田区にて労働する会社員です。
小野 太郎 (オノ タロウ) (著/文)
1984年山口県生まれ。これまで東京堂書店神田神保町店、文榮堂山口大学前店、ブックセンタークエスト黒崎店で働いた。2019年秋、退職。現在、福岡県北九州市で妻とルリユール書店を営む。
HP http://reliureshoten.com


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