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型を持っていることの強さ

「書く仕事がしたい」(佐藤友美 著、CCCメディアハウス)読了。

さとゆみさんは「ライターになりたい」と思っている後進やその前の状態の皆さんのためにこの本を書いたとおっしゃっていたように思うので、最初に謝っておくと、わたしは書く仕事がしたいわけではありません。ごめんなさい。
わたしがこの本を手に取った理由は、ライターのお仕事が好きだ、ライターであることが幸せだ、と常に体現しているようなゆみさんが、そのお仕事についてプロの技で書いたものを読んでみたかったからです。
もちろん、単なる好奇心ではなく、今、自分の業務に対して心理的に行き詰まっているので、なんらかの示唆が得られるのではないかと予想したから、なんですが。もっと言えば、仕事に対する姿勢という意味でもの凄い喝を入れられる結果になるのでは…?という期待もありました。
お友達とか知り合いとかにそういう話を聞くのって結構、時間もいるし、ご時世としても難しいので図々しくお願いしづらい。それをプロがわざわざ!開陳してくれるなんて貴重な機会、そうあるもんじゃないよな、というのが、動機です。そしてその予想は結構当たっていたと思います。
この本は、簡単にまとめるなら、自身現役バリバリ旅の途中のゆみさんが、ライター人生をトータルにマネジメントして長く描き続けるために行ってきたことや工夫したこと、そして変わってきたことについて、氷山の4、5割くらい?の内容が書かれていました。
ライター志望じゃなくても、参考になったりグサッとくるところがきっとあるはず。

まあ、わたしの場合はそんな動機なので、当然、一番心に響いたのはThink17と5章の特に前書きでした。

5章については、さとゆみさんは「メタ認知能力」と名ざしているけれど、多分、これは友美さんがテニスをするなかで体と頭に叩き込んだ、超実践的な戦略と攻略の型なんだろうなとわたしは理解しました。
この、人生に通用し補助できる自分なりの成功へのセオリー(方法論)を身につけることが、教育の一つの役割なのだとしたら、友美さんの御尊父は大変に優秀な指導者だし、実際に使いこなして優勝までするご本人も、方法が合っていて優秀な生徒だったのだろうなとつくづく思います。これがない人生は、挫折とまではいかなくても、紆余曲折だらけになるから。
どこかに自分のことを「挫折がほとんどない陽キャ」的に表現していた箇所があったけれど、さもありなんと思うし、しかも、今その方法論を手放せるところまで来ていることを自覚しているのだから、それこそ成功以外の何物でもないような。
もちろん、ここまで自覚的ではなくても、多かれ少なかれみんな、それぞれそれなりに自分で身につけていくのだろうけれど、ここまで使いこなし言語化できることの意味は計り知れない。
逆に、各論はともかくつい最近まで概論に無自覚に生きてきた為体がこれ(わたし)だとしたら、もう少し遡って整理し直さなきゃなあ、と、とりあえず現状に対しやれそうなことを一つ確認しました。

Think17については、まずそもそも、やらなきゃいかんことを自分にやらせる姿勢がわたしはグタグタに甘いんだなということがずいずいと突きつけられ理解させられ、あー、そうだよね orz と。17の心構えは、もういいからとにかくまず真似しようと思いました。悩むのはその後だ。

わたしはさとゆみさんのTellingの読書の連載が好きで、よく読むのですが、読むたびにこの人一体どんだけ働いているのだろうと思っていたのです。多分一本書く背後には他の候補も、関連書籍も読まれているはずで。
他にもドラマのこととか、いろんな連載をしてて、そもそものとこで仕事に割いている時間が長そうだなと。

で、Think4で実際の配分とモデルタイムテーブルが開示されていました。配分の方は物書かざる身としてはわからないものの、一日のスケジュール、さとゆみさんって一日に一食しか食べていない(!)。多分昼は適当に仕事の合間か食べずに済ませて、平日は家事に余計な時間割いてなさそう。この割り切りは大事だな、と思いました。わたしは食べないのは無理だけど、要は内容より、取捨選択ですね。
仕事への向き合い方と自覚的な時間管理。まずはやってみたいと思います。

この本は文章の書き方の本ではない、と最初に断りがありますが、実際に書くことについての章では、なんだかとてもワクワクしてしまって、ちょっと何か書いてみたい気持ちになります。
ゆみさんの自著の文章は、多くの場合、とてもさらさらで、それも春の小川方向じゃなくて洗い立てのコットンの手触りで、展開が自然でちょっと口語調なのが今の雰囲気なんだろうなと思うのですが、どこまで自覚しててどこから滲み出てるものなのかなあ…。「こうやれば上手く書ける」と教えるより「ちょっとこの方法で書いてみたい」って思わせる方が何倍もライター志望には意味がある気がします。そういうのはきっと、さとゆみさんの意図せずにできるところなんじゃないのかな。

とまあ、とりとめもない感想文になりましたが、すごく面白かったし、まじリスペクト、って思ったし、わたしももう少し実践的に頑張ってみようかなと思えて、とても良い読書になりました。ありがとうさとゆみさん。
人間ある程度の期間までは型があるほうがその後の成長を助けるという風姿花伝みたいなことをまたも考えたのも収穫かもしれません。


最後に、これは中身には関係ないのですが、昨今の実用書(この本はエッセイ?か?もしれませんが)ってフォントの使い方がにぎやかなのは、なぜでしょうかね。
実は去年、フォントのチョイスと組み合わせ気持ち悪くて一章しか読めなかったのがあったのですよね…本書は比較的シンプルで意図も明快でしたがやはり微細な引っかかりはありました。
あと漢数字と英数字とアルファベットとカタカナの使い分け、転ばせるかさせないも含めて、そろそろ統一基準が欲しいなと。DTPになってからかれこれ久しいですし…もうあるのかな。
物によってはそんなのどうでもいいくらい内容も軽いですが、内容がいい時は、そこが微妙なノイズになって気が散るのが、せっかくの読書体験としてもったいないなと思いました。
ちゃんちゃん。

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