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【小説】アルカナの守り人(36) マザー


マザーの部屋を出て、正面入口にあるロビーへ戻り、そこから逆方向に伸びる廊下を進んでいくと、大きな扉に突き当たる。

 そういえば、ここの扉は、いつも鍵がかかっていて、中に入れなかったんだよなぁ。どうにか入ってやろうと、何度かチャレンジしてみたことはあるんだけど…。その度に、マザーに見つかって、こっぴどく叱られたんだよな──。
 
 マザーが、扉の鍵を開けて、中へと入っていく。初めて入ったその扉の先には、螺旋状の階段があり、下へ下へと続いている。部屋ではなかったことに驚きつつ、マザーの後をついて階段を降りていくと、左右にいくつかの扉が並ぶ廊下にたどり着いた。
 
 一見、何の変哲もない場所だけど…──なんだ、ここは。

 一つの扉の前で、マザーは立ち止まると、ヒカリに、告げる。

「さぁ、ヒカリ。おまえは、この扉からだよ。──開けてごらん。」

「はい…─。」

 ヒカリは、扉の前に進み出ると、ドアノブに手をかける。
 ふぅ──と深く一息吐くと、おもむろに扉を開いた。
 
 扉を開けた瞬間、湿度を含んだ、むわっとした風が吹き抜け、草木の香りを運んでくる。扉の先の高い木々に囲まれた森は、一見、孤児院からちょっと外に出ただけ──くらいの、なんてことない場所のように思わせる。しかし、この空気感、光、風、どれをとっても、この周辺の森では感じたことがないものだ。

「マザー…、ここって一体…。」

「ふふ。──ここは、私が、作り出して、管理している空間の一つとでも言っておこうかねぇ。こうやって、自然を管理するのも、私の仕事の一つであり──、ってまぁ、詳しい話は、また今度だ──。」

「──それじゃぁ、ヒカリ。『憂いの沼』にはここから行けるからね。採ってきてほしいのは、『万象の睡蓮』だ。いいね。気をつけて行くんだよ。」

「ヒカリ──、気をつけろよ。無理すんなよ。」

 ヒカリは、マザーとフウタの言葉にこくりとうなづく。そして、扉の中に足を踏み入れていった──。扉を通り抜けると、ヒカリの姿は見えなくなり、扉は勝手に閉じていく。それを見届けると、マザーは、違う扉の前まで進み、今度はフウタを手招く。

「さて、フウタ──、おまえはこっちだよ。いいかい、お前に頼みたいのは──、」

「──滝の下にある、『タイガークロー』 鮮度が命、だろ?」

 フウタの返事に、マザーはふっと笑う。
 

「そうだよ。──気をつけていっておいで。」

「ああ、任せとけって。」

 フウタは、ニヤリと笑うと、勢いよく扉を開き、飛び込んでいった──。




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