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実家

これはAさんが3年前、実家に帰省したときに体験した話です。

Aさんの実家はかなりの田舎で、母屋の隣に大きな蔵がありました。小さい頃は、よく蔵の中で掘り出し物を探して遊んでいたそうです。

そんな時に、Aさんは蔵の隅っこの方で埃を被った120cmほどもある大きなマトリョーシカを見つけました。当時、Aさんは5歳くらいで、自分の背丈よりも大きなマトリョーシカに恐怖を抱いたことを今でも覚えているそうです。それ以来、蔵にはあまり近づかなくなり、大学進学を機に上京してからはほとんど実家に寄り付かなくなっていました。

しかし3年前、お父さんの法事のために数年ぶりに実家に帰省した時、お母さんと蔵の中身を整理しようという話になりました。実に20年ぶりくらいに中に入ったそうですが、20年という歳月をかけて、しまわれていた物には埃がより分厚く積み重なっていました。

少し尻込みしましたが、Aさんはお母さんと二人で一つ一つ埃を払い、思い出話に花を咲かせながら蔵の片付けをしました。朝の9時ごろから始めた蔵の片付けは、終わるころには日が暮れかけていて、小さい窓しかなく、明かりも電球数個だけの蔵の中はずいぶん暗くなっていました。

もうほとんど片付けが終わりすっきりした蔵の中、Aさんは奥の暗がりの中にあのマトリョーシカを見つけました。あのころ感じた恐怖がフラッシュバックしてきましたが、このマトリョーシカも片づけてしまおうと二人がかりで外に運び出しました。このマトリョーシカをどう処分しようか話していた時、お母さんがこんなことを言い出したそうです。

「これ、中身開けてみない?」

もちろん恐怖心はありましたが、その時は好奇心の方がまさり、開けてみようということで意見が一致したそうです。Aさんたちはマトリョーシカを母屋の大広間に運び込み、晩御飯もそこそこに開け始めました。一つ一つピースを大広間に並べていき、1~2時間かけて手のひらサイズになるまでひたすら開けていきました。おそらく7~80ピースはあったそうです。

そろそろ彼女たちの疲労感がピークに達しそうだったその時、マトリョーシカの中から小さな木箱が出てきました。普通だったら小さくなったマトリョーシカ人形が出てくるところから出てきた謎の木箱。それまでマトリョーシカを開けながら、久しぶりにたわいもない話をしてはしゃぎあっていたのに、それが出てきた瞬間、大広間は水を打ったように静まり返りました。

「この箱、どうしようか。」

お母さんが恐る恐る尋ねてきましたが、Aさんの心はもう決まっていました。

「開けよう。」
ここまできたら腹をくくるしかないと、Aさんは箱のふたに手をかけました。

「行くよ。せーのっ。」

中に入っていたのは、干からびてミイラ化した誰かの指でした。

すーっと背筋に冷たいものが流れ、全身に鳥肌が立ち、Aさんは急いでふたを閉めました。
大広間には重苦しい空気が流れ、彼女たちはすっかり押し黙ってしまいました。
数分経ったころ、お母さんが口を開きました。

「神社に行って供養してもらおう。」

それから、彼女たちは急いでマトリョーシカを片付け、お母さんの運転で神社にマトリョーシカを供養してもらいに行きました。供養には数時間かかり、無事終わって実家に帰り着いたころには日付をまたいでいたそうです。お母さんもAさんも疲労困憊でしたが、恐怖で一睡もできず、Aさんはその日の始発電車で家に帰りました。以来、Aさんはますます実家に寄り付かなくなってしまったそうです。


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