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ある男の話

あ、どうも初めまして。あなたが弁護士さんですか。私、斎藤淳と申します。よろしくお願いします。

で、今日は何を? ああ、なぜ殺人を犯したのかを聞きたいと。では、お話ししましょう。少し長くなってしまうかもしれませんが、お付き合いください。

まず、ご存じかもしれませんが、私は妻と義理の両親を殺害しました。

でもね、嫌いだったとかそういうのではないんです。まあ義両親とは疎遠でしたけど。でも嫌いだったとかそういうのでは無くて。妻とも仲良かったですし、愛していました。

私が彼女たちを殺してしまったのは、私なりの愛情の表れだったんです。

ふふふ。今弁護士さん、何言ってるか分からないって顔してますね。大丈夫です。私がなぜ彼女たちを殺したのか、今からご説明します。

でも、説明するにはまず義両親のことをお話ししなければなりません。先ほど義両親とは疎遠だったと申し上げましたが、それがなぜかと言いますと、妻が義両親を嫌っていたからなんです。

そもそも義両親はお金に厳しい方々で、妻がどれだけ駄々をこねても新品のおもちゃを買ってもらったことは一度もなく、服や教科書なども近所の方や従姉のお下がりばかりだったそうなんです。誕生日のプレゼントでさえも誰かのお下がりだったとか。お小遣いも高卒で就職して実家を出るまで一回ももらったことがなく、お年玉も全額取り上げられていたそうです。今でいう毒親ってやつなんでしょうかね。

その影響もあってか、妻は一人暮らしを始めてからというもの金遣いが荒くなってしまったらしいんです。今まで抑圧されてきた分爆発してしまったんでしょう。最初は普通の会社で普通にOLとして働いていたらしいんですが、次第に金に困るようになって、OLをやめて水商売を始めたんです。でもまた金に困って、ちょっと危ないところでお金を借りてしまって。そしたらどんどん利息が膨らんで、数万だったのが数十万になって、どうしようもなくなってしまって着の身着のままで夜逃げして、当てもなく歩き通して、疲れ果ててたまたま私の家の前に座り込んでしまったんです。それを私が発見して介抱したのが私たちの出会いでした。

ひとまず妻を家にあげて、お風呂に入れ、ご飯を食べさせ、布団で寝かせました。数時間後のそのそと起きてきた妻を見て私は一目ぼれしてしまいました。どうにかして妻とお近づきになりたい。あわよくば付き合いたい。そう思いました。

そのために私は何をすればいいのか、妻の身の上話を聞きながら必死に考えた結果導かれた結論は「妻の借金を肩代わりして貸しを作る」ということでした。

我ながら最低だとは思いますが、あの頃の私にはこれ以外の策が思いつかなかったんです。幸いというかなんというか、私は有名企業に勤めていて給料は平均よりもずいぶん高い額もらってましたし、両親の遺産もありましたので、数十万の借金なんか一括で返済できました。

これを貸しにして妻と何回か会ううちにどんどん好きになって、告白したらオッケーをもらえて。当時は飛び上がるほど嬉しかったんですけど、今考えると妻は借金を肩代わりしてもらったという後ろめたさからオッケーを出したんじゃないかなあと思うんです。やはり我ながら最低な奴です。まあなにはともあれ晴れて恋人同士になった私たちは何回かデートを重ねて、私からプロポーズをしました。妻はこくんとうなづいてくれました。そして私たちは夫婦となったんです。

最初の方は仲良く新婚生活を楽しんでいました。しかししばらくすると「おねだり」が始まったんです。あれやってだのこれ買ってだの、いわゆるパシリみたいなことをさせられ始めたんです。おそらくあれは、ストレス発散の一環だったのだと思います。妻はあるだけ金を使ってしまうので家庭の財布のひもは私が握っていましたし、お小遣いも月数万円だけで、好きに散財できないストレスを、私をパシリにすることで解消しているのだと思いました。

まあそれくらいなら好きなだけパシられようと思い、なにか頼まれればすぐにスーパーに走って買いに行きましたしなんでもやってやりました。でもそれは良くなかったのかもしれません。

調子に乗ったのか妻の「おねだり」はエスカレートしていきました。どんどんねだるものの値段があがっていき、ついには外車をおねだりしてきました。

さすがに無理だというと「なら別れる。」と駄々をこねてきました。心の底から別れようとは思っていないのだろうなとは思いましたが、万が一惚れた女性に捨てられるようなことがあったら、私は立ち直れないだろうなとも思いました。なので、私は多少無理をしてでも妻の「おねだり」に応えてきました。

そしたら、急にこんなことを言い出すんです。

「あーあ、親いなくなってくれないかな。」

本心ではないことは分かっていました。でも、私は度重なる妻の「おねだり」でおかしくなっていました。妻の「おねだり」には応えてやらなければ。それしか考えられませんでした。

そして、私は義両親を手にかけたのです。これで妻は喜んでくれる。当時の私は本気でそう思っていました。でも、妻の反応は違いました。どれだけ疎遠でも、どれだけ嫌っていても、やはり両親の死に目というのは辛かったらしく、葬式後数日放心状態になっていました。

そんな時に妻がぽつりと言ったんです。

「あーあ、死にたいなあ。」

応えてやらなければ。そう思ってしまいました。

そして、私は妻も手にかけてしまったんです。

これが私が殺人を犯した理由です。

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