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双子

彼には顔のよく似た双子の兄がいた。

彼らの顔はまるで鏡写しにしたようにそっくりだったし、そのそっくりさといったら実の両親でさえ間違えるほどだった。

しかし彼らは、顔はそっくりだったが性格は正反対だった。彼の兄は中学校に入ったあたりから段々と悪目立ちするようになり、万引きやカツアゲなど悪事に手を染めるようになった。一方、彼はいたって真面目で目立たない一生徒として学校生活を送っていた。  

だが、彼は先生や親からよく叱られていた。兄は弁が立ち、また顔が似ていることをいいことに、しばしば自分の罪を上手いこと弟に被せていたのだ。

普通、ばれそうなものだが、兄は用意周到だった。兄は、現行犯で捕まることは絶対にしなかった。それも当然だ。弟に罪をかぶせることが出来なくなるから。そして、周りの友人を丸め込んで犯行を行ったのは弟の彼であるように偽装するのだ。

彼は叱られるたび否定し続けたが、兄は大人に取り入るのが上手く、いつも大人が信じたのは兄の言い分だった。

次第に、彼は否定することをやめた。諦めてしまった。自分が否定したところで結局誰も信じてくれない。大人しく罪を被ってやり過ごすしか道はない。何年かすれば兄も更生してくれるだろう。そう考え、彼はじっと我慢し罪を被り続けた。

しかし、彼の願いもむなしく、兄の悪事は段々規模を大きくしていき、ついに殺人を犯してしまった。

だが、ここでも彼が罪を被ることになってしまった。その日、彼は友人と食事に出かけており、アリバイは完璧に思えたが、兄は友人を上手く言いくるめ、まんまと逃げおおせた。もう手遅れだった。彼がいくら弁明しようと、彼はもう誰からも信頼されていなかった。
「どうせ弟がやったんだろう。」
「懲役は免れないだろう。」
周りの人々は口を揃えてそう言った。

事件から三か月、彼に判決が下った。

星流しの刑だった。

彼は冤罪で、はるか何億光年先の地球とよく似た未開の惑星で残りの人生を過ごすことになってしまった。もちろんもう二度と地球に帰ってくることはできない。彼は兄を恨んだ。しかし、恨んだところで刑罰を食らうことに変わりはない。彼は自分を恨んだ。

そして、出発当日の朝、彼を見送りに来る者はいなかった。親でさえ、彼のことを見放していた。彼はひとり寂しく片道切符の宇宙船に乗り込んだ。
船内には重苦しい雰囲気が漂っていた。これから、何百日もかけて原風景が広がる未開の土地へ行き、そこで残りの人生を過ごさなければならないのだ。楽しい気分でいられる訳がない。彼はひたすらため息をついた。

宇宙船が出発してから数時間が経ったころ、船内がにわかにざわつき始めた。

何事かと思い窓の外を見ると遠く向こうの方から巨大な隕石がこちらに向かってきているではないか。

船内では船長がげきを飛ばし、船員たちが慌ただしく作業している。彼はただ隕石を避けられることを祈るしかなかった。その願いが届いたのか、すんでのところで隕石を避けることが出来た。船内はたちまち歓喜に沸いた。

しかしその喜びもつかの間、船内は一転、悲しみに包まれた。

あの隕石は速度を変えず、彼らが今まで通ってきた航路を寸分違わずなぞるように進んでいた。船員たちの中には涙を流す者もいたが、彼はひとり口の端を少し上げ、ぽつりとつぶやいた。

「自業自得だな。」


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