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歩く

半年前、俺は当時付き合っていた彼女に裏切られた。

あいつ浮気していやがった。しかも、俺の親友であるAと。

正直ふざけんなと思った。こっぴどくふってやろうとも思った。でも、言えなかった。その後、俺たちが疎遠になっていくのにそれほど時間はかからなかった。

そして先月、ついに俺はふられた。彼女からの最後の言葉は
「私たちもう別れたほうがお互いのためになると思うの。」
だった。

くそ、何がお互いのためだ。どうせAとこれからも付き合っていくのに俺が邪魔になっただけだろ。ふざけんな。むしゃくしゃする。家に帰っても彼女、そしてAへの怒りは収まらなかった。このまま家の中にいても良くない。

俺は頭を冷やすために散歩に出かけた。

それから一か月、俺はまだ休まず歩き続けている。

もう足は棒のようだし、履いていた靴の底はすり減り、今にも壊れそうなくらいボロボロになっている。それでも歩みは止まらない、いや、止まれない。おかげで俺はこの一か月もの間まともに飯も食えず、寝ることもできず頬はこけ、あばらが浮き出るほどにやせ、今にも死にそうな状態であてもなく彷徨い続けている。いつになったら止まれるんだろうか。そんなことをぼーっと考えていた、その時だった。

ドンッ。誰かと肩がぶつかった。

「何ぶつかってきてんだよ」
どうやらめんどくさいやつにぶつかってしまったらしい。
「なんか言えよおい」
俺にはもうしゃべる気力は残されていない。
「おい、止まれよ」
止まれる方法があるんだったらもうとっくのとうに止まっている。
「おい、てめえ調子乗ってんじゃねえぞこら」
どうやらこいつの琴線に触れてしまったらしい。その刹那。

パァン。

真夜中の路地裏に乾いた音が響き渡った。

それから半年後、俺はいかにも死んでいる状態であてもなく彷徨い続けている。


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